第5話  呪いとかそういうもの

 生まれ変わりを信じているのはヒンドゥー教になるらしいんだけど、カトリックなんかでも、人は死んだら肉体が滅びるだけで、いずれは復活すると考えられているんだって。


 人は死んだら魂の分だけ体が軽くなるとも言われているけれど、死んだ後の人の魂というものがこの世に残ることもあるということを、チャンネルを開いてしまった僕には良く分かる。


 思念体というものは、肉体が滅びて日が浅ければ浅いほど、その形は生きている時と同じような形を保っていられるんだけど、時が経てば経つほど、その形の記憶は朧げとなって曖昧な存在となる。


 見た目は曖昧なんだけど、一個の思念体なのは間違いないわけで、この思念体同士が固まって大きくなっていくのもまた、良くある現象といえば良くある現象なんだよね。


 明るく楽しい大森くんは昔からクラスのムードメーカーだし、リーダーシップを発揮するような人だなとは思っていたんだけど、このカリスマ性は幽霊にも発揮できるのかな?ベッドと勉強机と本棚が置かれた大森くんの部屋には、大小様々な子供の霊が並んでいて、僕は思わずゾッとしてしまったよ。


「小宮も、智充も、わざわざ心配して来てくれたわけ?」

 大森君の後ろにはおんぶするような形で子供の霊がぶら下がっている。

「うん、あの、大森くん、ちょっと窓開けて空気の入れ替えをしようか」

 おんぶ少年に睨まれながら僕は部屋の窓を開けた。


「空気が悪いにも程があるよ、ほら!景気よくいかないと!」

 僕が景気良く拍手をしながら大森くんを見ると、大森くんは僕に同調するように手を打ち始める。


 パンッパパ パンッパパ パンッパパ パンッパパ パンッパパ パンッパパ


 僕らがリズムよく手を叩き始めたから、小宮君も同じように手を叩き出す。しばらく僕らは無言でリズムよく手を叩いていたんだけど、

「あはっははは!俺たちさっきから何やってんの?これって何かの意味あんの?」

 大森くんが笑いながら言い出した。


「ユーチューブでさ」

 本当は君島さんが言っていたんだけど・・

「この手を叩くリズムって心音と同じだって言っていたんだよね」

 僕は自分の胸を拳で叩きながら言い出した。


「心音っていうのは、母親の体内にいた時から身近に聞いていたものであって、人にとって非常に重要なリズムなんだ。生きていく上で何が一番大事かっていうと、自分の心臓がリズミカルに、正確に鼓動を打つことであって、幽霊が見えるとか、呪いに怯えるとか、そういったことは瑣末なことでしかないって言えるんだよ」


 君島さん曰く、思春期には心の中の怒りとか不満とかを言葉に出来ないし、自分がどういった行動をすれば良いのか分からなくなって、心の中にモヤモヤが溜まっていく。このモヤモヤが周囲の思念体を引き寄せるきっかけにもなるし、お互いに求め合うような、依存し合うような関係にもなりやすい。


「一番大事なことって正確に心臓が働いて、全身に血液を送り出すことだから、その一番大事なことを、手を叩いたり、足でリズムを取ったりして思い出す。世界中に呪いなんてものは山のようにあるらしいんだけど、こうやってリズムを取ることで、自分にとって何が一番大事かを思い出す。そうしたら、幽霊とか、呪いとか、コックリさんとか、そういうの、勝手に外に出ていっちゃうんだってさ」


 すでに大森くんの部屋に居た幽霊は窓の外へと逃げ出している。元々、大森くんは陽キャなので、そこら辺に居る思念体に負けることはないんだけど、心配なのは小宮くんだよ。


「そうなんだ・・拍手でリズムを取るだけで、幽霊とか追い払うことが出来るんだ・・」


 そんなことを言ってジッと自分の手を見ているけど、全然追い払えていないから。精神的に弱りすぎて、小宮くんの場合、全然追い払えていないから。


 相変わらず大量の幽霊を背負ったままの小宮くんを僕が見つめていると、

「それじゃあ、今の拍手でコックリさんもどこかに行っちゃったってことなのかな?」

 と、恐る恐るという感じで大森くんは言い出した。


 何でも大森くん、コックリさんをやって以降、夜になると夢に、山の中にある神社が出てきて、竹藪の中から出てきた狐が恨みがましい眼差しで大森くんを見つめてくるらしい。


「大森くん!思い込みが過ぎるよ!」

 僕は呆れ返りながら言い出した。


「狐や狸の霊がどうのこうのと言っていたのは、江戸とか、明治とか大正の頃までの話だよ。今、僕らが住んでいるところに狐とか狸とか生息していますか?見たことありますか?」


 大森くんも小宮くんも、首をブンブンと横に振った。

 アーバンな狸が増えていると言われている世の中だけれども!僕だって子狸一匹見たことないからね!


「コックリさんって漢字で書くと『狐狗貍さん』って書くんだけど、狐とか狗とか狸とかの霊を呼び出してお告げを聞くって言うんだよね。だけど、こういった降霊術は思い込みによるものだったって、すでに証明されているんだよ!」


「「思い込み?」」


「夢を壊すようで悪いんだけど、藁人形と五寸釘、呪いの必需品とも言われているけど、あれって、自分の名前が記された藁人形に五寸釘が打ち込まれていたっていう噂を聞いた人が、恐怖とストレスが溜まってしまって体調を崩し、最悪の場合、持病が悪化して死亡。っていうパターンが多いって証明されているんだよ。呪いの成就とも言うんだけど、人は思い込みによって色々な現象を引き起こす生き物だからさ!」


「それじゃあ、俺の夢も思い込みだって言うわけ?」

「間違いなく思い込みだよ!」


 君島さんが、

「コックリさんの最中にコーンッなんて言い出す奴は思い込みの激しい人間が殆どだから、アフターフォローが必要になる場合が多いぞ」

 なんてことを言っていたけれど、まさか自分がそのアフターフォローに回る側になるとは思いもしなかったよ〜。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る