厨二病編
第1話 コックリさん再び
「智充!コックリさんやらない?」
「これから皆んなでやるんだよ!」
「小宮も一緒にやろうよ!」
「やだ、やらない」
小学六年生の夏、うちのクラスに『コックリさん』ブームがやって来た。
ユーチューブで『コックリさん』をやっている動画を見た大森くんが、
「じゃあ!俺たちもやってみようぜ!」
という話になって、赤い鳥居の下に「はい」と「いいえ」その下には五十音が並んだ紙まで用意されたわけ。
「いや、いいよ。俺やらない」
と、小宮くんが言い出したので、
「それじゃあ、僕もいいかな」
と、僕は言い出しわけだよ。
「俺、塾の宿題をやらなくちゃいけないんだよ」
小宮くんは中学受験をすることになっているので、夏休みも朝から晩まで勉強漬けになるらしい。
そんな小宮くんの隣で、
「僕も・・」
なんて言い出すと、
「お前!塾に通ってないだろ!」
と、大概誰かに怒られるんだけど、
「学校の宿題をやらなくちゃならないからさ」
と、答えれば、
「そうだったな、先生、漢字ドリルの宿題を出していたよな」
という話になるわけ。
僕は交通事故に遭ってからというもの、幽霊が見えるようになったんだけど『コックリさん』をやろうと言い出した大森くんの体からは、大小様々な手やら足やらが突き出しているように見えるわけ。
僕は病院生活を経て、生き霊と死霊の見分けがつくようになったんだけど、大森くんの体から突き出ているのは、だいぶ前に死んでいる雑多な霊という奴で、いつでも明るくて、クラスの中心的存在である大森くんに惹かれて集まって来たってことになるんだろう。
「塾行ってないんだったら、智充は『コックリさん』をやる時間あるだろう?」
大森くんはしつこく僕に声をかけてきたんだけど、
「いや〜、今日はお母さんが仕事で帰って来るのが遅いから、弟の習い事のお迎えに行かなくちゃならないんだよね〜」
と、僕は即座に嘘をついて逃れることにしたってわけ。
僕の担当看護師さんだった君島さんは、
「ああ〜、君くらいの年齢から興味を持ち始めるとは思うんだが、不覚筋動と予期意向によって、コックリさんではああやってコインが動くんだと言われている」
と、『コックリさん』について説明してくれた。
要するに、硬貨に指を添えていると、腕が無意識に動いてしまう。同じ姿勢で筋肉が疲れてしまうため、知らないうちに動いてしまう。これを不覚筋動って言うらしいんだけど、それに加えて、こうなるんじゃないかなという考えによって、無意識のうちに動かしちゃうらしいんだよね。
それじゃあ、幽霊とかじゃなくって、無意識のうちに自分勝手に動かしているんだから、何の問題もないじゃん!って思うかもしれないけれど、これをやっている人たちは、やっぱり何かしらの神秘の力がやって来た上で自分たちの知りたい情報を教えてくれるんだろうなって思っちゃう。
『コックリさん、コックリさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら、そこの窓からお入りください。入られましたら『はい』へお進みください』
無意識のうちに「はい」の位置に移動させているんだよね?分かった、分かった。だけどさ、集まったみんなが、
「どんな霊が来ているんだろう?」
「やっぱり狐の霊なのかな〜?」
「たぬきの霊も来るって言われているよね〜?」
そんなことを考えていると、やって来る、やって来る、壁をすり抜けて、良くわからない輩(霊体)がやって来る。
この世の中には、やっぱり常識では説明できない何かがあるとは思うんだけど、そういった説明できない何かは、形となって残っているものもあれば、何だから良くわからない塊のようになっている場合も多くって、それを視認できてしまう僕としては、目のやり場に困ってしまうわけだよ。
「ねえ!智充くん!さっきから天井を見ているけど、何を見ているの!」
一回だけ、隣のクラスでやっている『コックリさん』に参加した時に、そんなことを言われちゃって、
「天井にでかい蜘蛛が居たんだけど、見えなかった?」
と、僕はそんなことを言って誤魔化したんだけど、その天井からは、人の髪の毛がだらりと伸びて、ぶらんぶらん揺れているような状態だったんだよね。
そもそも僕にはだよ、コックリさんをやっている二人組だけでなく、それを興味津々で見守っている奴らの方にも集まった霊がちょっかいかけて、体の中に潜り込もうとしているのが良く見える。
ああ、本当に嫌だ。
コックリさんは、世の中で言われているように『不覚筋動』と『予期意向』っていうものでコインが動いているのかもしれないけれど、無邪気にそんなお遊びに興じている君らの周囲には、呼ばれているのを察した霊体が、嬉しそうにやって来ている。
だからこそ、
「コックリさんやらない?」
「俺はやらない」
と、即答する小宮くんに合わせて、
「だったら僕もやらない!」
と、僕は主張する。
仲良しの小宮くんがやらないって言ったら僕もやらない!絶対にやらないぞー!
「君はチャンネルが開いているから、あえてそんなことをせんでも、幽霊にはいつでも気軽に会えるだろう」
と、君島さんからも言われている僕としては、わざわざ不特定多数の幽霊をお呼び立てしているような場所に行きたくなんかなかったんだよね。
中学受験で一杯一杯で、とてもホラーな遊びに興じる余裕がなかった小宮くんと一緒に『コックリさん』のお誘いは断り続けた僕だけど、公立の中学に入って二年生になったある日の夕方に、
「あのさあ、みんなで『コックリさん』やらない?」
と、大森くんに言われた時には、眉を顰めたよ。
厨二病とは中学二年生ごろの思春期特有の自意識過剰な状態を揶揄するネットスラング、と、ネット上で調べると出て来るんだけど、要するに、俺、他とは違ってて格好良くねー?無自覚に凄くね〜と発信する奴のことを言うらしい。
「コックリさん?」
「マジで?」
「なんで?」
大森くんは胸を張って言い出した。
「だってさ、五島さんが好きな人が居るって噂になっているけど、その好きな奴は誰なんだって興味があるじゃん!」
五島さんとは五島莉奈さん、読者モデルもやっていたという可愛い子で、クラスの中でも人気が高い女子生徒のことだ。
「マジでコックリさんやったら教えてくれるのかな?」
「俺のおばさん、コックリさんで結婚するって言われた相手と結婚したんだけど」
「真実を教えてくれると思うんだよな〜」
みんな、ガヤガヤ騒いでいるけど、本当に、そういうのはいらないって〜。
『コックリさんでコインが動くのは、『不覚筋動』と『予期意向』によるものなんだって!』
と、僕は心の中で主張する。そんなことを口に出したら白けるのは目に見えているので言わないけれども。
「なあ、智充もやるだろう?」
何故、大森くんはいつでも僕を誘うのだろうか?
「小宮も勿論やるだろう?」
僕の隣には小宮くんが居たんだけど、彼は最近、私立校の方があんまり上手く行かなくて公立校に戻って来たんだよね。
ああ、小宮くんが公立校に戻って来てくれて良かった。小宮くんは絶対に『コックリさん』は断るって知っているから、僕は安心してその後ろに続くことが出来るよ。
「ああ〜・・うん・・そうだな」
小宮くんはしばらく逡巡したのだが、
「俺もやってみようかな」
と、言い出した。
はい?やってみようかな?何故?なんで?
「それじゃあ、智充もやるよね?」
「ああ〜うん、や・・やるよ」
一人だけやらないのは腰抜けと自ら主張するようなものだ。僕はこうしてうん年ぶりに『コックリさん』をやることになってしまったのだった。
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コックリさんは、どれだけ時代が経っても廃れずに残っているなあとは思うのですが、それにしても中学生って本当に、ホラーでオカルトが好きで、コックリさんやりたいとか言い出しますよね。
コックリさんは誰しも様々なエピソードを持っているかと思うのですが、私の場合は隣のクラスでコックリさんをやっていた女の子が『コーン!』と言いながら家に帰っちゃって、その時の記憶がない。ということがありました。大人になって考えてみると、そういう話、他でも良く聞きますよね。
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