以前書いた短編集

鈴木美本

A world achievedシリーズ

『グラントエリック建国史』『優しい手』3人称

 コキーユは指にできた、ささくれを気にしていた。

 最近は戦争に向けて忙しく、指の手入れをする時間もあまりなかったのだ。他にも、魔法で直す方法もあるが、いつ戦いが起きてもおかしくない状況で、指のささくれに回復魔法を使ってもらうのも気が引ける。それに、最近はささくれ以上に気になることがあった。

 それは……。ドニーのことを見るツイーディアが以前と違い、まるで恋するような顔をしていることだ。

 ツイーディアのことを好きなマーティンの気持ちを思い出し、どうしようか考えながら、コキーユは夕食で使った食器を洗っていく。

「コキーユ、ごめん! 遅くなって!」

「エリック!」

「ありがとう、コキーユ。俺が代わるよ?」

「え? でも……」


 ──え、どうしよう?


 コキーユが戸惑っていると、エリックがふわりと微笑む。

「手が荒れたら大変だから。あかぎれとか、爪が割れると痛いし、代わるよ」

 コキーユが手に持っていたスポンジをエリックがサッと取る。

「あ……、ありがとう、エリック」

「こちらこそ、いつもありがとう、コキーユ」

 何となく気恥ずかしくて2人で笑ってしまう。その後、コキーユはゴム手袋の泡を洗い流してはずし、元の場所に戻そうとするが、急に手をつかまれ、彼女は目を見開く。

「ささくれ?」

「あ……」

「ごめん、気づかなくて」

「ううん、私もさっき気がついたの」

「コキーユ、両手を出してくれる?」

「うん」

 コキーユは自分よりも少しだけ大きなエリックの手に両手をそっと包まれ、ドキドキして視線を合わせられない。その間にも、あたたかな光が彼女の手を包み、ささくれや小さな傷が消え、治っていく。そっとエリックの手が開かれ、コキーユもそっと手を開いてみる。

「きれい……。ありがとう、エリック」

「どういたしまして。……コキーユは、俺にとって大切な人だから、『小さなこと』と思っても、何かあったら言ってほしい」

「エリック……。うん、ありがとう」

 2人は甘く微笑んだ。

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