『竜族ドニーとギルバート家』『温かい夜』3人称

「登場人物紹介」


 ドニー 異世界から召喚されてしまった竜族で、エリックの家にお世話になっている。

 エリック 父親。魔法剣士。聖剣グラントブライトの持ち主。元国王。

 コキーユ 母親。聖獣召喚術師。相棒の白狼・アドルフを連れている。元王妃。

 オデオン 長男。魔法剣士。グラントエリック国王。

 アントベル 次男。魔法使い。ドニーの護衛。契約聖獣の黒猫・ホットを連れている。

 ビオレッタ 長女。魔法使い。オデオン騎士団の回復部隊の隊長。

 ケルソー 三男。魔法剣士で、聖獣召喚術師でもある。外回りの騎士団の団長。

 アルム 四男。魔法剣士。エリック騎士団の団長。騎士団を作った。

 スノー 次女。末っ子。魔法使い。

 アドルフ コキーユの相棒で、白狼のオス。普段は、大型犬のサイズで生活している。

 ホット アントベルの相棒で、契約聖獣の黒猫のオス。ドニーにすごくなついている。


 オセアン 魔法使い。エリックの昔の仲間・ツイーディアの父親。

 メーア 魔法使い。エリックの昔の仲間・ツイーディアの母親。

 ヴァルム 魔法剣士。ツイーディアの次男。次期シュトーリヒ領主。




 久しぶりに休日が合ったギルバート家の兄弟たち。

 レーツェレストにあるエリックの家で鍋を囲むことにした。

 この間、「土曜の夕方7時に集まろう」と約束し、今は土曜の夕方6時。

 エリックたちは最後の準備に取り掛かっていた。

 リビングキッチンにはキッチンが2つあり、料理の好きなアントベルとエリックが同時に調理できるようにと設置したものだ。

 2人は夕飯のトマト鍋を作るため、時間がかかるブイヨンを交代で見ていた。

 今は、アントベルが大きな木べらで優しく混ぜながら、ブイヨンを煮込んでいる。

 お客様を呼ぶこともある広いリビングには、6人用のテーブルが置かれているが、9人では狭くてとても座れない。

 その隣で、契約聖獣の黒猫・ホットが椅子に座って、すーすー寝息を立てている。

 毛布をたたんで置いてある席で、ホットは気持ちよさそうにずっと寝ている。

 ホットとテーブルを見て、ふっと笑ったドニーは、廊下の奥にある押し入れに向かう。

「手伝うわ」

「ああ、頼む」

 コキーユに声をかけられ、2人でテーブルと椅子を出しに行く。

 エリックがトマトをゆで、氷水に付ける。

 水からトマトを取り出して皮をサッとむき、包丁で細かく切ってボウルに入れていく。

 トマトの後は、ニンジンと他の食材を切っていく。

 アドルフは大好きなアントベルの横に座り、尻尾を振っている。

 ドニーとコキーユは、押し入れからリビングのテーブルと同じものを持ってきた。

 テーブルをずらすと、ホットがちょっとだけ、もぞもぞ動く。

「ホット──起こしたか?」

「ゥ、ニャァ……」

 ホットは体勢を整え、もう1度、夢の中へ。

 ドニーは安心して息を吐いた後、椅子を持ってくるために部屋を出ていく。

 キッチンでは、アントベルがブイヨンを濾し、2つの大きな土鍋に移していた。

「アントベル、頼む」

「ありがとう、父さん。こっちもお願い」

「ありがとう、アントベル」

 アントベルは、細かく切ったトマトの入ったボウルと、ニンジンの入ったボウル、あとお肉とウィンナーをエリックから渡される。

 彼はそれらを2つの鍋に分け、順番に入れていく。

 エリックは、アントベルからブイヨンを濾して残った野菜と肉を受け取り、野菜だけを裏ごし器を使い、更に細かく濾していく。

 椅子を運んで戻ってきたドニーが、アントベルのキッチンで手を洗う。

「ドニーさん、お願いします」

「ああ、わかった」

 アントベルから台拭きを受け取り、テーブルを拭き始める。

 テーブルの横で、コキーユは出した椅子を拭く。

 ドニーは、用意しておいた白いテーブルクロスを敷き、食器を並べる。

 それぞれのテーブルの中央に、鍋用のコンロを2つ置く。

 IHに近い見た目をしたコンロは、ドニーが作ったものだ。

 コキーユがエリックのキッチンで手を洗って、材料をテーブルに運んでいく。

「ただいまー! みんな!」

「あ、ビオレッタ! お帰りなさい!」

「「「お帰り、ビオレッタ!」」」

「ワォン!」

 近くにいたコキーユが、ビオレッタに挨拶すると、全員が振り向いて挨拶する。

「みんな、元気そうでよかったわ。ケガはなかった?」

「今は、特にケガしてないよ、ビオレッタ」

「それはよかったわ。──ベル兄さん、今度はいつ騎士団に来る予定なの?」

 コートを脱いでコート掛けにかけつつ、ビオレッタはアントベルの返事を待つ。

「うーん、と。今度は月曜日に行くよ、ドニーさんと一緒に。定期連絡しないといけないんだ」

「そっか。じゃあ、今度会いに行くわね!」

「うん、朝8時くらいに行くから」

「わかったわ」

「……ただいま」

「ケルソー!」

「「「「「お帰り!」」」」」

「ワォン!」

「ケルソーも、たまには騎士団に顔出しなさいよ? 寂しいじゃない!」

「──わかった。今度は会いに行く」

「うん、楽しみにしてるわ!」

「俺も、ドニーさんと月曜日に行くから、一緒に会おう?」

「ベル兄さん、──わかった」

「俺も、待っている」

「ドニーさん。ありがとうございます」

 みんなの会話を聞いていたエリックとコキーユは嬉しそうに笑う。

「さて、と」

 ビオレッタはエリックのキッチンで手を洗う。

「お父さん、何か手伝うことはある?」

「そうだな──今のところはないかな?」

「ビオレッタ! 一緒に土鍋を運んでもらえないかな?」

「わかったわ! ありがとう、お母さん」

「こっちこそ、ありがとう、ビオレッタ」

 コキーユが持っていた鍋掴みを受け取り、ビオレッタは彼女と一緒に土鍋を運ぶ。

 2人は、しめじ、ブロッコリー、玉ねぎ、トマト、キャベツを順番に材料を入れていく。

 ケルソーは、テーブルの隅の席に座る。

「ワォン!」

 キッチンにいたアドルフが、ケルソーの席まで走ってくる。

 ケルソーの前に座ったアドルフは、しっぽを元気いっぱいに振っている。

 ケルソーは、アドルフの頭を優しく撫でる。

「アドルフ、元気か?」

「ワォン!」

「そうか……」

 アドルフと弟の様子に微笑みながら、アントベルはアドルフ用の肉を切って焼く。

 エリックはペースト状の野菜に塩を加え、2つの皿に盛りつけておいた肉の上にかける。

 キッチンを出たエリックは2つの皿を持ち、1枚をアルムの座る席へ、もう1枚をケルソーの席に持っていく。

「はい、お腹が空いたんだろう? 先に食べてていいから」

「父さん……いえ、兄さんたちを待ちます」

「そっか、わかった」

 エリックは、ケルソーの頭を撫でる。

「父さん、俺は子どもじゃないです」

「うん、でも。ケルソーは、俺の子どもだから」

 にこにこ笑うエリックに、ケルソーは疑問符を飛ばす。

 キッチンから歩いてきたアントベルが、テーブルの隅にいたアドルフに、肉ののった皿を差し出す。

「はい、アドルフ」

「ワォン!」

 急いで嬉しそうに食べるアドルフをアントベルは優しく撫でる。

 3つ隣の席では、ドニーが椅子に座り、ホットを膝の上に乗せ、彼の頭を撫でている。

「「「ただいまー!」」」

「「「「「「お帰り!」」」」」」

「ワォン!」

「ニャア」

 スノー、オデオン、アルムが一緒にやって来た。

 アルムは2人の護衛のため、1番後ろを歩いている。

「スノー、オセアンさんとメーアさんには、ちゃんと言ってきた?」

「はい! 楽しんできてくださいとおっしゃっていました!」

 笑顔で答えるスノーに、みんなも自然と笑顔になる。

 スノーは今、オセアンとメーアの家に住まわせてもらっている。

 元々、エリックの家だったが、城に住むようになってから、家がなかったオセアンとメーアに譲った。

「じゃあ、みんなでご飯にしようか?」

 エリックが言うと、みんな手を洗って、席に着くことにした。



 ◇ ◇ ◇



 エリックとアントベルがみんなの具をよそう。

 みんなで「いただきます」と言った後、一斉に食べ始めた。

「そういえば、騎士団のみんなは元気にしてるかな?」

 エリックが、アルムを見て言った。

「うん、父さんと母さんが指導してくれたおかげで、みんな士気も上がったし、上達してきたよ。ありがとう」

「どういたしまして! 何かあったら言ってね、アルム」

「手伝えることがあれば、呼んでほしいな。必ず助けに行くから」

「──ありがとう、父さん、母さん」

 3人で話しているのをアルムの隣でにこにこと笑って、スノーが聞いている。

 その間にも、アントベルの横で、ホットがトマト鍋を食べていた。

 ホットは契約聖獣なので、普通の猫とは違い、人間の食べ物が食べられる。

「ニャア」

 料理をおいしそうに食べるホットを見たドニーは柔らかく微笑むが、自覚は全くない。

 アントベルは、ホットとドニーを見て、くすっと笑う。

「──おいしい」

「ありがとう、ケルソー」

 斜め前で呟いたケルソーに、アントベルはお礼を言う。

 ドニーの近くに座っていたアルムが、反対側にいるビオレッタに話を振る。

「姉さんはどう? 何か頼み事とかある?」

「うーん、今のところ特には──強いて言いうなら、回復薬の在庫がもう少し欲しいわ。この前、ベル兄さんにもらった回復薬も使って手当てしたから、もっとあると助かるわ」

「うん、わかった。錬金術師の人たちに頼んでおくよ。オデオン兄さんは、何か頼み事はある?」

「俺は、特に何もないよ。アルムたちや国民が元気なら、それでいいよ。俺も、まだまだ戦えるからね?」

「本当、オデオン兄さんには敵わないな」

 微笑むオデオンに、アルムは苦笑する。

 エリックは、黙々と食べているケルソーに話を振る。

「ケルソーは、最近、何かあった?」

「いや、別に何も」

「ケルソーは、もう少し他の団員と話した方がいいわよ? ──あ、ところで、ベル兄さんはここ最近は何をしていたの?」

「俺は、ドニーさんとホットと一緒にアイクイースまで行ったよ? ドニーさんが施設の整備をしたいって言って、ついていったんだ。雪や氷をビーカーに入れたり、薬草の採取をしたり」

 雪や氷を入れた試験管は、ドニーが作った特殊なもので、小さくて淡い青色をしている。

 また、コルクのような茶色の栓が付いており、保温効果がかなり高い。

「風邪はひかなかったかい?」

「兄さん、大丈夫だったよ? 俺もホットも火魔法が使えるし、ホットの修行にもなって良かった」

 ホットは最近、魔法を継続して使う特訓をしている。

 天然なホットだが、契約聖獣としては優秀で、回復魔法や防御魔法等も使える。

「ベル兄さん、薬草から何か見つかった?」

「まだ調べている最中だけど、新しい回復薬にできるんじゃないかって、ドニーさんが」

「うん? ああ、新しい回復薬が出来たら持っていく。他にも使えそうな薬草があれば、騎士団に報告に行く」

「ドニーさん、ありがとう」

「ありがとう、ドニーさん」

「ありがとうございます」

 ビオレッタとアルム、オデオンがドニーにお礼を言う。

「いや、大したことはしていない。あと、このトマト鍋、本当においしい。ありがとう、エリック、アントベル」

「本当においしいわ、2人ともありがとう」

 コキーユの後に、みんなが2人に「ありがとう」とお礼を言う。

「どういたしまして。みんなが喜んでくれて嬉しい」

「これから、〆のチーズリゾットもあるから、たくさん食べてね?」

「ニャア!」

「ホットの分もあるから、一緒に食べよう?」

 アントベルは、優しくホットの顎を触る。

 エリックが席を立ち、続いてアントベルが席を立つ。

 エリックは、別の鍋に用意していたチーズとミルクを火にかけて溶かす。

 その間、アントベルは手を洗い、用意していたご飯を2皿手に取る。

 彼は1皿をコキーユに渡し、もう1皿のご飯を鍋に投入する。

 その間、みんなは各々で好きなことを話している。

 溶けたチーズの入った鍋を持ち、エリックはテーブルに向かう。

 アントベルたちの鍋の方に、溶かしたチーズを入れていく。

 ミルクの入ったチーズは白くてとろりととろけていく──。

 煮込まれたトマトに白いチーズがさらに溶けていく。

 持っている鍋の半分まで入れて止める。

「ありがとう、父さん」

「どういたしまして」

 エリックは、自分たちの鍋に残りのチーズを入れて、少しだけ待つ。

「もういいかな?」

 エリックとアントベルが、みんなによそって分けていく。

 アントベルが、ホットにもリゾットをよそうと、大好きなチーズをもぐもぐおいしそうに食べ始めた。

 普通の猫は、猫舌で熱すぎるものは食べられないが、契約聖獣なので全然平気そうだ。

「そういえば、スノー。ヴァルムとの結婚式は4月で良かった?」

「はい! お父さま! 3月の終わりに入籍して、4月の初めに結婚式をする予定です」

「おめでとう、スノー」

 みんなが、「おめでとう! スノー!」と、彼女の結婚が決まったことを喜ぶ。

「お父さまも、お母さまも、お兄さまがたも、お姉さまも、ありがとうございます!」

「まさか、ヴァルムに妹を渡すことになるとは思ってなかったな……」

「アルムお兄さま。ヴァルムのこと、お嫌いになりましたか?」

「いや、そうじゃない……。ヴァルムは昔からの親友で、今でも尊敬してるけど、自分の妹と結婚するなんて思ってなかったな」

「そうですね。ヴァルムとはアルムお兄さまと一緒にいる時に、少しお話するくらいでしたから」

「もう! 親友と妹が結婚するんだから、もう少し喜んであげなさい」

「ビオレッタ姉さん。──そうだな、大切な2人が幸せになるんだから、俺も喜んで送り出さないとな」

「そうよ。泣いて話せなくなったら、私が代わりにスピーチを読んであげるから」

「いや、ちゃんと自分で読むから!」

 みんながアルムとビオレッタの会話に笑う。

 こうして、ドニーとギルバート家の賑やかな夜は、過ぎていった──。






 参考サイト様 (敬称略)

 ・【基本と裏技どっちも解説!】ブイヨン/ブロードの作り方と保存方法 | BACCHETTE E POMODORO

 ・湯沸かし不要!簡単にトマトの皮をむく方法とおすすめレシピ | クラシル

 ・鍋をするときに具材を入れる順番!肉や魚介類を入れるタイミングは? | ちゃきサーチ

 ・甘熟トマト鍋 〆のリゾットにとろ~りチーズ | カゴメ株式会社

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