第4話

「え、釧路。どした?」


 思わず問いかけた。


「……お昼。あんたの分買ってきた。早く行かないとうちの購買売り切れるから。……これ、あげる」


 けれど釧路は俺の目を見ることもなく、俺に紙袋を差し出した。


「なんでそんな片言なの」


「うるさい。いるの、いらないの」


「いや、いる!! サンキュー、助かった」


 そう言って受け取って紙袋の中を見てみれば――特盛爆弾弁当に、焼きそばパン、明太ピザトーストに、ホットチリドック、そしてコーヒーが入っていた。


 かなりの量。それも、どれも男が買いそうなものばかり。そして、……俺がいつもよく買っているものばかり。


「うん。お昼抜きになったらかわいそうだから。じゃあね!」


 そう言って釧路はポニーテールを揺らしながら走っていった。



 体操服姿のまま走って行く釧路の後ろ姿を見ながら思う。


(……あれ? 釧路って……いつも弁当じゃなかったっけ。もしかして、俺のためにわざわざ購買行ってくれた?)


 そして、いつかの昼休みに何となく聞こえた釧路と友達の会話を思い出した。


「寧々っていつも弁当だよねー」


「うん。だって購買いつも混んでるし、早く行かないと売り切れるじゃん? 選んでる時の男子たちの圧もすごいしさ? ……ちょっと、苦手。それが体育の後だったらなおさら無理。体操服のままとか、恥ずかしすぎるじゃん」


 確かにそう言っていた。


 なのに……まさか、俺のために体操服のまま、急いで男子たちの圧にも耐えながら、明らかに男のためと分かるこのセレクトを……買って来てくれたのか?


 しかも、完全に俺が普段買っているものばかりを……?


 半分くらい、釧路の告白はウソ告か罰ゲームかもと思っていたけれど……やっぱりあれは、マジ告だったのかもしれない。


 そう思うと、込み上げるものがあって……。


 俺までにやにやせずにはいられない。


 え、マジ? 釧路って、実は俺にマジ惚れ? あんなに可愛い釧路が? そして俺の彼女なの? やばくないか。やばいだろ。俺の彼女、可愛すぎるんだけど。


 ふと、浮かれそうになって、ハッとする。


 いやいや、やっぱりこんなことありえなくないか。


 いつもなら運動神経がないと周知されている俺のところにボールが飛んで来ることもないし、それが後頭部に当たって保健室に行くよう勧められるのもあまりない出来事だ。


 こんな俺の好みドンピシャなメニューを男だらけのあの殺伐とした購買で釧路が買えるとも思えない。


 ……やっぱりあの告白は罰ゲームで、この昼飯は誰かが買ってきたもので、どこかで俺を見て笑ってるやつがいるんじゃないだろうか。


 ふと、そんな事を考えてしまう疑り深い俺。


 俺に彼女が出来ないのは、やっぱりこういうところなのかもしれない。


 けど……釧路のあの恥ずかしそうな照れ顔は……演技だとしたらうますぎるとも思う。


 一体、どっちなんだろう。ウソ告か、マジ告か。


 俺はしばらくその場で考え込んでいた――。

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