第二十一話:憑依
「アイナ?」
「ふふふふふ、こちらの世界で肉の身体も悪くはないのぉ。ナギ様よ、あとはナギ様が男の子に戻れば全てが上手くゆくわ!」
アイナはそう言って顎を上げるとイカ男がアイナの拘束を解く。
イカ男の体液でぬちょぬちょになったアイナの身体はブラウスなどが透けている。
やたらと妖艶な姿と動作でアイナは口元に笑みを張り付かせ歩を見る。
そして更に手を振ると、黒い空間が発生してそこから魔物が数体現れる。
「なっ!?」
歩はそれを見て大いに驚く。
出てきたのは牛の頭を持つ化け物や、角のある鬼のような大柄の大男、ブタの頭を持つ化け物などおおよそ歩がアイナに未来の世界で起こっていた災害の原因たちだった。
「ははははは、この女の生命力を使えば少数ではあるがわが家臣共を呼び寄せられるか? しかし主様と我が交わり、一つとなれば更に多くの我が家臣を呼び寄せられようぞ!!」
アイナはそう言って高笑いをする。
「そんな、ザナてめぇっ! アイナを返せっ!」
「ふふふふ、我と一緒になるならこの様な妾、いつでも返してやるがの」
アイナはそう言って瞳の中の赤い光を揺らがす。
歩はその瞳の色に焦りを感じる。
ザナはアイナの生命力を使って異世界から魔物を呼び寄せた。
少数だが、今ここに居る歩やアルファ、ベータにして見れば十分に脅威となる。
せっかくタヌキ男や狐男を倒しても振出しに戻った、いや、異世界から直接出てきた化け物の方がきっと更に厄介なはずだ。
「くそ……」
歩は小声でそう言うも、アイナは憑依されて捕らわれの身。
更に異世界から化け物が出てきて状況は更に更に不利になっている。
「あゆみさん……アイナさんはあきらめてください。今は逃げることだけを考えてください」
そっと歩のそばまで来たアルファは歩にそう言う。
多分、アイナの生命力を全部使っても呼び寄せられる異世界の化け物は限られる。
いくらこの時代と言っても、警察や自衛隊が出てくれば駆逐くらいは出来るだろう、このくらいの数なら。
「でもアイナが!」
「アイナさんもそれは覚悟してます。私たちの目的はあなたを女の子に変えて、そして人類滅亡を防ぐことです。たった一人の女性の為に人類を見捨てる事は出来ないんですよ!!」
ぐっと歩の腕を掴むアルファ。
頭では分かっていても感情は殺しきれない。
だから痛いほど強く掴まれるその腕の力にアルファの苦悩を歩は感じ取る。
「さて、ナギ様よ。我と一つになってもらえんかの? ナギ様はおなごになったが未だ我が知っておるナギ様の揺らぎを感じる。この女の技を使えばまだ
アイナに憑依したザナはそう言ってにたりと笑う。
そして壁の向こう側に座って固まっていた職員を指さし言う。
「早くこちらに来るがいい、でなければわが眷属にそこにおる者たちを一人一人喰わせるぞえッ!!」
そう言うと、牛の頭や鬼、ブタの化け物たちはよだれを垂らしながら職員の方へ向かう。
「ま、待ってくれ! 分かった、そっちに行くからこれ以上他の人を巻き込むな……」
「あゆみさん!!」
歩はアルファの手を払い、ナギの方へと向かって歩く。
アルファはすぐに歩を取り押さえようとするが、アルファやベータの前に素早く牛の頭の化け物が割って入る。
「ダメです、あゆみさん!」
「あゆみさん!!」
アルファもベータもそう叫ぶも、歩はゆっくりとザナの前へと歩いて行く。
「ふふふふふ、待っておったぞナギ様よ。やっと、こちらの世界でも一つになれる。この時をどれ程待ったことか!」
ザナはそう言って嬉しそうに両の手を開く。
歩はその開かれた手に吸い込まれるように抱き着かれるのだった。
* * *
「くぅっ! あゆみさんっ!!」
「こんな事になるだなんて……」
床にねじ伏せられているアルファとベータ。
彼女たちは今、歩とザナが抱き合い光に包まれているのを見ている。
あの後化け物たちに抗っても、異世界からやって来た化け物たちは銃が効かない強敵だった。
ザナの命令で取り押さえられていなければ、二人は今頃死んでいただろう。
ザナは歩を男に戻す為の方法をアルファたちに聞いている。
「ふふふ、貴様らがナギ様をおなごに変えたのは知っておる。そしてもう一度だけそれが行えるのであろう? さあ、すぐにでもナギ様を
そう言って歩の頬に手を当て、愛おしそうに撫でる。
が、アルファは首を振って言う。
「あゆみさんは既に女性としての波長が安定し始めています。今更男性に戻そうとしても精神が女性のそれに近ければ男性化するのに障害が出て、完全に男性にはなれません!」
アルファがそう言うとザナは怪訝そうな顔をする。
「ならば我がナギ様を
そう言って歩に口づけをすると、二人を包んでいた光が更に強まるのだった。
* * * * *
それは遠い遠い昔。
まだ人が国と言うモノすら作り上げることさえできなかった時代。
それは異界にあった。
そして彼女、ザナとそのつがいであるナギはこの世界を見ていた。
「ナギ様よ、この世界は面白い。魂にその魔素を内包してどんどんそれを育てているではないか?」
「確かにな、我が世界と異なり魂より
「のう、ナギ様よ。我らの残された力でこの世界に国を作り、魂を成熟させ熟れいた頃に刈り取ってはどうじゃ? 我が世界はいずれ魔力が枯渇し、死滅に向かうじゃろう…… なれば残された力をこの世界に使い、いずれ我らの力にする為にもこの地で国を作り時を待ちて魂を刈り取っては如何じゃろうか?」
「……それには、我か汝がこちらの世界にてその時を待つしかないぞ?」
「されども、あの世界の王として我らは有りましょうぞ。家臣の者たちもいずれはその事を取り上げましょうぞ?」
「ふむ……ではこちらの世界に干渉をする為に我らの力であるこの槍にて国を作ろうぞ……
「はい、それがよろしいでしょう
そうして彼女らは異空間をその槍にて突き破り、ナギを送り込む。
この地で人々が繫栄し、その魂を熟させるために。
* * * * *
ナギがこの世界に来て小さな国々を作っていた頃だった。
大陸より先進的な技術を持つ集団が流れ込み、この地の者と交わり力をつけて行く。
「おのれおのれ! 大和の民どもよ!! 我らを虐げ、我の作ったこの国を乗っ取るか!?」
馬に乗り、大軍を引き連れそれは彼、ナギを追い詰めていた。
時代は変わり、その権力者も変わりつつあった。
大陸より連れられた「馬」という機動力、「青銅」という自然界に無いそれらはともすればこの国では魔法に匹敵するものだった。
ナギは後悔する。
この世界の者たちは魂に力の源である魔素を溜める。
それは魔力として奇跡を起こすあちらの世界と違い、人としての進化に力を振るった。
爪や牙、石や枝木で獣を刈る方法ではなく、更なる発明を繰り返し道具を進化させ、組織を作り、国と成しナギの目の前に立ちはだかった。
一人一人の力はそれ程ではないが、団結したと時にその力はナギをも超えた。
そしてナギはこの世界で命を落とす。
が、その怨念は魂は、この後何度も転生を繰り返すのだった。
* * * * *
「おいたわしや、ナギ様よ…… しかし時は満ちた。今我はこうしてこの世界に来た。さあ、王である、
ザナはそう言ってその体の輝きをさらに強める。
そしてその光はアイナと歩の服をはぎ取り、生まれたままの姿になるのだった。
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