カラッツ!!

海谷 うしお

第1話 遺言書


 とある国裏路地。

赤毛の青年と青髪の青年が裏路地を逃げている。

「遅れんなよルビィ!

おやっさんからの遺言書は誰にも渡すわけにはいかねぇからな!」

「はあはあ、だったらもう少し俺に合わせてよサファイア。」

時を遡ること数分前、とあるホテルの一室で初老の男性が病床で苦しんでいる。

 

その老人はこの国の暗殺家業を担うカラッツカンパニーの社長、ノース・ダイヤモンド。

「ゴホッ、ゴホッはあはあ…。

ルビィ、サファイア近くに寄れ。」

苦しむダイヤモンドの横に子飼いであるルビィとサファイアが寄る。

「俺ァもう長くねぇ…。

この遺言書をある女に渡せ。

その女が住んでる地図はこれだ。

名前は…。」

名前を言う前に彼はこと切れてしまった。

「おやっさん!その遺言を渡す相手は誰なんだよ!」

「おやっさん!目を開けてくれ!」

二人の叫びも虚しくダイヤモンドは永遠の眠りについた。

泣き崩れる二人。

その嘆きも虚しくホテルの扉が乱暴に開かれた。

「やあやあ、子飼い君たち。

叔父上の遺言はどこかな?」

ブロンドの髪をシチサン分けにし、フレームなしの眼鏡と高級スーツを見に纏った男が乱暴に入ってくる。

「ジルコニア…テメェには渡さねえよ!」

ルビィが懐から銃を取り出した瞬間傍にいた部下たちが機関銃を二人に向ける。

「危ねぇルビィ!!」

サファイアはルビィの手を引いて窓から脱出する!

銃弾の嵐とガラス片が彼らの頬や腕を切っていく。

そんな事も気にせず二人は遺言書片手に追われる身となった。

回想終わり。

 

「なあ、ルビィ!

その女がいる場所はどこだ?」

サファイアが後ろ向きに走りながら問う。

「ええッと、今いる場所がミラノだから…。」

地図を広げるルビィだが逆さまで読めていない。

「ルビィ、それは逆さまだ。

全くお前はそそっかしいんだから。」

サファイアから地図をひったくりルビィは目印がついた場所を指でなぞる。

「目印は住んでるのマルタ島の大都市パレルモだ。」

取り敢えず港へ出るために二人はその辺にある車の窓ガラスを割る。

「こんな事しておやっさん悲しむだろうな…。」

ルビィが眉をハの字にして目を逸らす。

「馬鹿なことを言うな。

俺たちは殺しは散々やってきただろ。」

励ます様にサファイアはルビィの背を強く叩くが彼は下を向いたままである。

「だって…殺しはやっていいけど盗みは癖になるからやるなってノースのおやっさん言ってたじゃないか!」


ルビィの言葉を無視し、サファイアはその辺にあった石で窓ガラスを割って内側から扉を開く。

「今は追われてる身だ。

蜂の巣になっておやっさんと一緒のところに行きたかったら一人で行け。

俺は最後まで抗ってやる。」

サファイアの睨みにルビィは息を呑む。

「わ、わかったよ。」

渋々、助手席に乗るルビィ。

ジルコニアの部下たちが二人を追い詰める。

だが彼らは車の配線をいじって無理やり発進させる!

 

何人か跳ね飛ばしてミラノの街を脱出する二人。

「ヒャッホー!みろよサファイア!まるで人がボーリングのピンの様だ!」

「全く、人が死ぬところを見ると興奮して人が変わった様にテンション上げるなよ。」

助手席で興奮してるルビィを横目に冷めた目で敵を分析するサファイア。

「いいじゃねぇか。それより遺言書の中身は開けたのか?」

「いいや、おやっさんが最後に渡したいって相手なんだからかつての恋人とかだろ?

とにかく地図の場所に行けばわかるだろ。」

「そう言うお前は行き合ったりばったりなところ俺は嫌いだよ。」

嫌味を言うルビィに急ブレーキを踏んで前のめりにさせる。

「じゃあ降りろ。

殺ししか取り柄のないやつにこの仕事は向いてないからな。」

「いってぇな!!

そう言うお前だって拷問と尋問くらいしか取り柄ねぇだろ!」

言い合いをしている二人にジルコニアの部下の残党がフロントガラスを破ろうと近づく!

だが、破られる前にサファイアがアクセルを踏んで急発進させる。

ボンネットにしがみつく部下を睨みながら二人が叫ぶ。

「俺らが気がつかないとでも思ったか三下!」

「泣き虫ジルコニアに伝えとけ。

お前の考えはお見通しだ。

大方、この遺言書にノースのおやっさんの財産が書かれてると思ったんだろう。

残念だったなこれはラブレターだよバァカ!」

急カーブで部下を振り落とし、二人は港へ向かう。

「ところでルビィ、おやっさんの遺言書読んだのかよ?」

「ちげーよ。ハッタリだよハッタリ。

それより前!前!」

「ん?ああ!もう海かよ!」

暫く道なりに進んでいたら車ごと海へドボンと落ちてしまった!

二人の珍道中はまだまだ続く!

 

 一方で二人に負けたジルコニアの下っ端たちはというと。

満身創痍でジルコニアの元へ帰ってくる。

その部下たちを冷たく見下ろすジルコニア。

「それで?

なんの成果も成さずにのこのこ帰って来たと?」

「あ、いえ、そういうわけでは…。」

「私もね…無闇に部下を殺すのは愚の骨頂だと思うんだ。

君もこの世界で生きているのならわかるだろう?

妻子も君の帰りをさぞかし待っているだろうなぁ。」

懐から銃を取り出し、部下に突きつけるジルコニア。

その様子をカウチに寝そべった女が見て笑う。


「あなたも馬鹿ねぇジルコニア坊や。

ノースの遺産を頼りにしないと面の顔の経営が立ち行かないなんてこの業界向いてないんじゃ無いの?」

「黙れ!メス豚!お前が叔父上の秘書じゃなかったらソープに沈める手筈だったんだぞ!」

女の両頬を叩くがちっとも痛く無いと女はジルコニアを睨む。

「そうやって力でねじ伏せて他人がなんでも思い通りになるとでも思っていればいいわ。じゃあね、坊や。」

ナイトローブを翻して女は部屋を出ていく。

「オパール様!」

部下の人がついて行こうとするがそれをジルコニアが足を撃って阻止する。

「お前も俺を馬鹿にするのか!

あの女の様に!

もういい!役立たずよりもあいつを頼るほかない!

お前らは用済みだ!」

そう言い捨てて真っ赤な顔でジルコニアもどこかへいってしまった。

 

【To be continued】

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