君に首ったけ

チェケらっぱー

恋の唄



花びらは舞っている

まるで踊るように

笑うように

桃色の風が吹いていた



お姉さんたちに聞いたんだ

これが春の色なのだという



花の事はたくさん図鑑で調べたけれども

そんなには面白くはなれなかった

けれども僕は

この桃色の花だけは

なんだか好きで好きで仕方なくって

とても楽しかったんだ



だから僕は笑いながら駆けて行った

無性に駆け出したかったんだ

皆んなが止めるのも聞かないで

桃色に染まる並木道を

一人で、はしゃぎ回っていた



––––あの頃、僕は子供だった

  誰よりも無邪気に子供であれた



後ろからゆっくりと追いついて来てくれる

いくつもの優しげな呼び声を聞きながら

僕は愛されている事の喜びを全身に感じていた

この時間が永遠であればいいと思っていた



––––だけど、それからしばらくして

  幼くあり続けることが

  すぐにもどかしいものとなる

  

  

僕は立ち止まった

それと一緒に心臓も止まってしまった

並木道が続いてゆく、坂の上に

一人の女の子が佇んでいたから



––––彼女を一目見た瞬間に

  心が羽化を始めた

  どうしようもなくなっていた

  心が大きくなってしまうことを止められなかった



僕は夢中になって、女の子のことを

お姉さんたちに聞いたんだ



––––もう幼い僕のままではいられなくなっていた



あの子は春に生まれたのだと言う

だから春の花の名前をしているのだと聞いた



––––春の蝶のように美しい

  恋に出会ってしまったから



僕が初めて好きになった花と一緒の名前だった









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