第7話 ゲームはやる前にする妄想も醍醐味

久しぶりの私の美人局の仕事は2つだった。


藤田との子供だと証明するためにテレビ局のアナウンサー柊木の髪の毛を採取すること。そして柊木を誘惑しレイプ犯に仕立てて逮捕させること。この2つ、難易度はまぁまぁ。


個人的な難関は警察と検事の取り調べだな。性犯罪が罰されやすい世の中にはなったが、その道のプロとやりあうのは初めてだし見抜かれそうだ。


イイダさんは優雅に紅茶を飲んでいる。しばらく間が空いてから、ようやく自分も紅茶を一口飲んだ。何年経っても紅茶の味はよく分からない。


「この仕事を引き受けたところで私に良いこと何も無いですよね?私が仕事を成功しても藤田の借金を返せない。日本に戻れず死ぬまでアメリカでセックスマシーンだ。」


「まぁ藤田に関してはそうだな。だが…」


イイダさんはベビーベットに視線を移した。


「まさか…?!」


「あぁ。お前がこの仕事を乗らなきゃ、この赤ん坊を中国に売る。」


「そんな…」


「藤田も了承している」


「まぁそうなったら自我が芽生えるまでに殺されたほうが良いぞ。この赤ん坊。」


ふふふと笑い、イイダさんは紅茶を飲み干した。紅茶の湯気がまつ毛を潤し、茶色く透き通ったイイダさんの瞳を一層輝かせた。


「お前なら簡単にこなせる仕事だろう。この柊木リョウゴがゲイだったら終わりだがな笑」


「そしたら貴方が仕掛けてくださいイイダさん」


あ、しまった。イイダさんの顔色を伺ったが特に怒っていなかった。良かった。



「近々柊木リョウゴが所属する Xテレビ、秋季インターンシップがあるぞ。お前そこに応募しろ」


「まだ私やるなんて言ってませんよ」


「やるだろ〜冬梅。久しぶりに私と楽しいお仕事だ。」


イイダさんは子供みたいに笑った。ふとイイダさんと初めて出会った時を思い出した。


どう返事をしようか躊躇っていたら赤ん坊がふにゃふにゃ言って泣き始めた。私はイイダさんに返事をせずベッドに向かった。


「イイダさん、この子の名前はなんですか?」


「密だ。前島密と同じ“ひそか”だ。」


ヒソカか…。なんだか君にピッタリな名前だね。自分の中にも母性というものがあったのか。名前を聞いた途端、この子がとても愛おしく感じた。

 

「やりますよイイダさん。今回だけです。」


イイダさんは親指を上に突き上げて右の口角を上げた。


「諸々の作戦会議をするから、場所を移ろう。20分後にベビーシッターがここに来る。」


「イイダさん、私これから大学あるので帰ります」


「え〜!!お前大学生なんかしてるの?!興醒めなんだけどバカぁ!」


「知ってるくせに。だからインターン進めてきたんでしょ」」


私は藤田の家を後にした。どこかニヤついている自分がいることに気づいた。


いっそのこと、藤田から金を巻き上げたホストも地獄に叩き落としたいな。


私の敵は

•テレビ局のアナウンサー 

•警察

•検事

•裁判官

•ホスト


うん。復帰戦にはとても良いラインナップ。

久しぶりの仕事に胸をときめかせていたのだ。


藤田は友人として対等だ。

そして、イイダさんは仕事仲間として対等だ。


私は自分を対等に扱ってくれる人が大好きだ。


藤田が地獄に落とされたから、イイダさんの依頼だから、赤ん坊が殺されてしまうから、私は仕事をするための言い訳をひたすらしている。


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