第041話

 それからしばらくして戻ってきた陸と知奈美ちゃんと一緒に、休憩スペースに移動して4人で仲良く焼きそばを食べ始めた。


 美少女二人と20代半ばの男二人が一つのテーブルで焼きそばを食べている様子は、まわりのギャラリーの注目を浴びていた。


 なかには海奏ちゃん達と同じクラスの女子もいて、俺たちは話しかけられたりした。


 なんだか変な感じだが、俺も気持ちが高校生の頃に戻ったような気がした。


 焼きそばを食べ終わると、学校内をもう一回りした。


 いろんな展示物を見て回り、チョコバナナを食べ、喫茶室でお茶を飲んだ。


 気がついたら時刻は3時をまわっている。


 学園祭は3時半で終了だ。


 お客さんの数も、随分と減ってきた。



「そろそろ終わりの時間かな?」


「そうですね……あっという間でした」


 海奏ちゃんはしみじみとそう言った。


「あの……暁斗さん」


「ん? なにかな?」


「その……よかったら……帰り一緒に帰ってもらえませんか?」


 一瞬、海奏ちゃんの表情が真剣になった。


 顔も少し赤い。


 その隣で知奈美ちゃんが「えっ」と小さく声を上げている。


「うん、もちろんそれはいいけど……教室の片付けとかは大丈夫なの?」


「あ……はい。ちょっと待ってもらわないといけないんですけど、4時過ぎには終わりますから」


「ああ、だったら待ってるよ。ゆっくり片付けてきて」


「はいっ! ありがとうございます」


 海奏ちゃんがなんだか急に元気になった。


 どうしたんだ?


「あー、じゃあさ。知奈美ちゃんも一緒に帰らない?」


 それを見ていた陸が、知奈美ちゃんにそう声をかけた。


「ごめんなさーい。ウチはこのあとクラスで打ち上げがあるんですよ。だからまたの機会に」


 知奈美ちゃんは陸の誘いを明るく断った。


 いやでも……


「クラスの打ち上げって……海奏ちゃんは行かなくていいの?」


「えっと……」

「暁斗さんは余計なこと訊かなくていーの!」


 何かを言いたそうだった海奏ちゃんを、知奈美ちゃんがさえぎった。


 なんなんだよ……。


「それじゃあ……どこで待ってればいいかな?」


「えっと……校門のところで待っててもらえますか? できるだけ急いで行きます」


「オッケー、わかった。じゃあまた後でね」


 俺がそう言うと、海奏ちゃんと知奈美ちゃんは陸にお礼を言った。


 そして海奏ちゃんは控えめに、知奈美ちゃんはブンブンと大きく手を振って教室の方へ帰っていった。




 午後4時過ぎ。


 結局俺は一人で聖レオナ女学院の校門の前に立っていた。


 陸も一緒にと思っていたのだが、結局帰ってしまった。


「知奈美ちゃんには振られちゃったしな。それに暁斗の邪魔もしたくないし」ということらしい。


 さすが、雰囲気イケメンは違うな。


 俺が手持ち無沙汰に立っていると、急にスマホが震えだした。


 ん? 音声通話だな。


 俺がスマホを取り出してみると、表示には「知奈美ちゃん」。


「もしもし?」


「あ、暁斗さん。あの……陸さんって、まだそこにいますか?」


「いや、帰ったけど」


「ああ、よかった。ちょっと暁斗さんに予備情報を教えときたくて」


「予備情報?」


「そうそう。えっとね、ウチの学校では文化祭が終わったら、クラスで打ち上げに行くのが恒例というか伝統みたいになってるのね」


「そうなのか?」


 まあ学園祭の後は、クラスで打ち上げに行く。


 普通だな。


「うん。でも彼氏持ちの子は、迎えに来てくれた男の子と一緒に帰るから……『打ち上げに参加しない』っていうのは、彼氏持ちのステータスでもあるわけ。まあウチも去年と一昨年はそうだったんだけど」


「ああ、なるほど。それで?」


「は? もう……にぶいを通り越して、バカなの?」


「……お前、俺を罵倒するのが趣味なのか?」


「なんで海奏が暁斗さんに『一緒に帰って下さい』ってお願いしたのか、考えてみたら?」


「……あっ」


「しかもあの純情可憐で男が苦手な海奏が、だよ。いくら素人童貞でもわかるでしょ? まあ彼氏とか、そこまでの意識はないかもしれないけど」


 俺は……何も答えられなかった。


 同時にあのときの海奏ちゃんの表情を思い出す。

 

 真剣な表情で「一緒に帰ってもらえませんか?」と訊いてきた。


 モジモジと頬を紅潮させて。


 俺が一緒に帰ろうと言うと、明るく嬉しそうに「はいっ!」って元気よく返事をしてくれた。


 うわー、ヤバい! 


 海奏ちゃんはそこまで勇気を持って、俺を誘ってくれたんだな。


 超嬉しいんだけど。


 もちろん彼氏とかそんなんじゃなくて……多分高校生活の最後の文化祭で、思い出作りがしたかったんだろう。


 それでもいい。


 その思い出の相手に、俺を選んでくれたんだ。


 俺はもう身悶えをするぐらい、一人で盛り上がっていた。


「……さん? 聞いてる? もしもーし? 暁斗さーん、戻ってこーい」


「なんだどうした聞いてるぞ」


「絶対聞いてなかったよね? 全く……まあそういうことだから。ちゃんと送ってあげてね」


「ああ、わかった。もちろんちゃんと送っていくわ。ありがとな」


「あ、最後にもう一つ」


「なんだよ」


「もう見せてあげないから。ピンクの上下、高かったんだからねっ!」


「あ、おい」


 Limeの通話は切れていた。


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