第037話


「自分の都合にいい時間に突然呼び出したりするようなヤツで。それでも赤のフェローリで迎えに来てくれると、テンション上がるじゃないですか」


「知らんけど」


「でもそいつ、DV男で」


「マジか。どんな風に暴力を振るわれたんだ?」


「もう……行為中に叩いてきたりとか。それに『違う穴に入れたい』とか言ってきて……イヤって言ったら『じゃあ首をしめて苦しんでる顔がみたい』とか言われて」


「お前、絶対人生2周目だろ? 女子高生が話す内容じゃねーぞ」


「それでウチ、やっぱり怖くなって……別れ話切り出したらブチ切れられて、思いっきりビンタ食らって口の中切って……それでもなんとか走って逃げてきたんです」


「よく逃げ切れたな。それからあとは大丈夫なのか?」


「ええ。多分去るものは追わないタイプなんでしょうね。他にウチみたいな女、簡単に釣れるでしょうし」


「赤のフェローリでか?」


「まあ……そうですね。自分でも馬鹿だったって思ってます」


 こいつ……少しは懲りたのだろうか。下手をしたら警察沙汰だぞ。


「まあ……とりあえず食うか?」


「そうですね」


 俺たちはテーブルの上に大量に置かれている食べ物を片付けることにした。


 ピザを食べ、チャーハンを喰らい、唐揚げを頬張る。


「明らかに量が多いだろ?」


「全然ですよ。ウチ、食べますから」


 まったく……こいつの食欲、どうなってるんだ? 俺は空になったグラスを二つ持って、立ち上がった。


「次、何飲む?」


「えっ?」


「ドリンクバー」


「あ……えっと……じゃあコーラで」


「了解」


 俺は部屋のドアを出てドリンクバーへ向かった。


 一つはコーラ、もう一つのグラスにジンジャーエールを入れて部屋に戻る。


「ほい」


「あ、ありがとうございます」


 食べ終えたピザとチャーハンと唐揚げの器が重ねられていたので、テーブルの上には結構スペースができていた。


 やっぱこいつの食欲ハンパねぇ。


「優しいんですね」


「なにが?」


「ウチ……自分のドリンクを持ってきてもらったことなんて、いままでなかったです」


「どういうこと?」


「ウチ、デートでカラオケとか行くじゃないですか。でもこういうボックスじゃなくって、クラブのVIPルームみたいなところが多かったんですけど」


 その時点でいろいろおかしいが……


「ウチ、彼の飲み物ばっかり気にして……それがなくなりかけたら注文したりして。だから男の人に自分の飲み物を持ってきてもらったことなんて、一度もなかったですよ」


「お前……本当に男選んだほうがいいぞ」


「自分でもそう思います」


 そういうと知奈美ちゃんは、コーラのグラスを持って一口飲んだ。


 表情が少し柔らかくなったように見えたのは、気のせいかもしれない。


 そうこうしているうちに、フライドポテトもソーセージもたこ焼きも、大半が知奈美ちゃんの胃袋に収まった。


 さらに彼女はデザートの抹茶アイスを注文した。



「じゃあ……海奏には本当に変な下心とか、ないんですね?」


「ああ。少なくともお前が想像しているようなことは、一切ない」


「……まだ完全には信用できませんが、まあ今のところは良しとしましょう」


「なんなんだよ、その上から目線は。それより、お前のほうだろ? 気をつけないといけないのは」


「……ウチですか?」


「そうだ。なんていうか……もっと身の丈に合った考え方をしろよ。はっきり言うけど、カラコンもマニキュアも似合わねえぞ」


「べ、別にウチの勝手じゃないですかっ」


「そんなことしなくたって、十分可愛いって言ってんだよ。顔だって可愛いし、スタイルだっていいし、それに……話してたって頭の回転が早い。俺は取り繕った笑顔を貼り付けた知奈美ちゃんより、素のお前の方が一緒にいてずっと楽しいって思うわ」


「……ウチ、口説かれてます?」


「口説いてねえ!」


 俺が言いたいことが、伝わっただろうか。


 ふと知奈美ちゃんに目をやると、シュンとした表情をしている。


 それでも頬がほんのりとピンク色だ。


 照れてるのか?


「ハァ……でもそうですね。今まではお金を持ってる大人の方が、ウチを楽しませてくれるんじゃないかって、思い込んでいたのかもしれません」


「だな。そんなことより、知奈美ちゃんに優しくしてくれる男を探すことだよ」


「……暁斗さんは……ウチに優しくしてくれますか?」


 知奈美ちゃんの声が真剣になった。


 潤んだ瞳で、俺の顔を見上げる。


「ウチ……やっぱり男の人に、優しくしてもらいたいだけなのかもしれないです。だから優しくしてくれたら……ウチも協力します。暁斗さんの『卒業』に」


 知奈美ちゃんの頬は、まだピンク色に染まったままだ。


「海奏には絶対内緒にしますから。だから……今日だけ優しくしてもらえませんか? 今日だけでいいんです。一緒にいてほしい……」


 知奈美ちゃんは、足を組んで俺の方へ少し身を寄せた。


 その時に座る位置をずらしたことで、制服スカートが少し捲れ上がった。


 形の良い大きめのヒップに、知奈美ちゃんの黒の下着が少し見えてしまっている。


 おい……これも計算済みなのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る