魔眼の五星天

黒真㐬兎

第1話 振り分け

「きたきたきたーーーーーーーー!ついに、この日が来たーー!」

 いつもは憂鬱に感じる朝も、うるさくなく鶏の声すらも気にならず、高揚する。

むしろ、鶏の声すら「がんばれー!」と応援してくれている気さえしてくるほどだ。

 朝ご飯を食べるために一階に降りる。そこにはもうご飯を食べ始めている父親がいた。

「おはよう父さん」

「ああ」

 ぶっきらぼうながらも、ちゃんと返事はしてれる父親。母が生きてた頃はまだ、話しもしてくれていたが、今では一言二言ぐらいしか返ってこない。少し寂しい気持ちはあるけれど、幼い頃に母親を亡くしてから、すべての事を世話してくれている為、感謝しかない。

「いただきまーす」

 手を合わせ、女神に感謝の祈りを捧げてからご飯を食べる。けれど、この後に待っていることが楽しみすぎて、いつもよりも食べるスピードが速くなってしまう。

皿を持ち上げ、フォークでがつがつ掻き込んで、口いっぱいになったあたりで、外から声が聞こえてくる。

「クローーーーー!起きなさーーーーーい!」

 急いで口の中のものを飲みこみ、玄関の扉を開く。

「くーーー……ろ……」

「おはよう、フィー」

 二回目に名前を呼ばれる前に扉を開けると、フィーアはびっくりした顔で、こちらを見つめてくる。

 毎朝懲りずにおこしに来てくれる幼馴染の一人フィーア・ロスタリスがそこにいた。真っ赤に燃えるような夕焼け色の髪を、耳の後ろあたりの髪を一房三つ編みにして前にたらしている。少々目つきがきつく見える釣り目だけれど、心優しい女の子だ。

 子供ながらに、おしゃれには気を使っているようで、底が少し厚い革靴に落ち着いた色のチェック柄のスカートと白いシャツを上手に着こなしている。

いくら底が厚くても、自分の身長を超えられる訳じゃないのに、ご苦労なことだ。

「なんだ。今日はずいぶん早起きなのね」

「そりゃもちろん!なんてったって今日は待ちに待った日ですから」

 そう、今日はついに魔法学園入学試験があるのだから。

 学園入試は三年に一度しか行われず、なおかつ十二歳から十九歳までの間でしか受ける事が出来ない。

 なぜ、その間でしか受けれないかといわれると、詳しいことはわからないけれど、教養がどうとか聞いたことがある。つまり、ちゃんとした人しか入ることが許されないらしい。

「あんた、そんな恰好で行くつもり?」

「何かまずかったか?」

「ダメってわけじゃないけど……。まぁ、あんたにしてはちゃんとしてる方かしらね?」

 自分ではシンプルでいいと思ってたけれど、彼女のお気に召さなかったようだ。紺のパンツに白シャツと、皮のベスト。汚れるから、普段は皮制のものなんて着ないのに……。

「じゃ、行ってきます……」

 フィーとの会話もそこそこに、振り返って父親に別れの挨拶をする。

「ああ」

 もし、入学出来たら、八年も離れる事になるのに、相変わらずいつもの一言だけの挨拶。もう少し位会話してくれてもいいのにと思ってしまう。

名残惜しさに、しばらく父親の顔を見てから、扉を閉める。完全に締まりきる前に「がんばれよ」と聞こえてくる。

 (素直じゃないなと思いつつも、顔がほころんでしまう)

「さあ、行くわよ。ぐずぐずしてたら遅れちゃう」

「うん!行こう!」


「おはよう!リード!」

「ああっおはようクロフト」

 学園につく少し前で、もう一人の幼馴染のリード・マルセェルと合流する。今朝も畑の手入れでもしていたのか、全身に泥がついている。服だけじゃなく、眼鏡にまで。

 汚れる事を前提にした色合いの茶色いズボンとと、動きやすさを重視した質素な服装姿だった。

「あんた相変わらずね……。今日試験だってのに、そんな畑仕事用の恰好して……」

「仕方ないだろう。毎朝手入れしてあげないと、ちゃんと育たないんだから」

「学園に入ったらもうできないんだから、諦めなさいよ」

「最後かもしれないからやるんじゃないか!」

「まぁまぁ……」

 仲がいいなぁと思いながらも、どっちの言い分もわからなくもないので、何も言えなくなる。

「おい見ろよ。泥くせぇ奴と、鉄くせぇ奴がいるぞ。はっはっはっ」

 集合地点の少し手前で、いじめっ子のジミーと取り巻きの二人組が突っかかってくる。自分の家が裕福だからと、自分よりも下のものをいじるの事で優越感を感じているようだ。

「いつもにもまして、暇そうね。何しに来たの?」

「おおっこわっ誰かと思ったら、フィーアじゃないか。何しにってぇ?決まってるじゃないか。受けるんだよ!魔法試験をっ!」

「はっ貴方みたいなのが、受かるわけないじゃない!行きましょ」

「そうやっていつまでも女の後ろに隠れてるつもりかクロフト・ブレイワース!」

 立ち去る背中にジミーが悪態をついてくる。

「気にしなくていいわあんな奴の言うことなんて」



 学園の門の前に受験する人達が集まっており、その数は百人は超えていた。

「今からこの奥で試験前の振り分けを行います。皆さん知っての通り、魔法は5種類の属性に分かれています。火・水・木・土・雷。どこに行くかは、あなたたちのこれまでの経験が反映され、得意なものがわかります、あくまで得意なだけで、そのほかの属性が使えなということはありません。全部の属性を会得すれば、いずれ五つ星になれるでしょう!それでは、頑張っていってらっしゃい!」

 それを合図に、門が開かれ次々に生徒たちが学園内に入っていく。門から続く道を進んでいくと、学園の中央あたりにある噴水の前に来る。

 全員一斉にはできない様で、試験開始はしたが、暇な時間が続いた。その間も学園の生徒たちが行き来していた。そんな生徒たちを見ていると、自分も早くここに入りたいという思いが膨れ上がってくる。早く自分の番にならないかとそわそわしてると、あたりが急に騒がしくなる。

「ん?何かあったのか?」

 あたりを見渡してみると、門の前に人だかりができている。その中心付近は主に女生徒が多く、人二人分くらい間隔をあけたあたりに男子生徒が取り囲んでいた。そしてその中心に居たのは薄青色のさらさら髪をなびかせ、優雅に歩いている女生徒。

「なぁ、あれは誰なんだ?」

「はぁ???あんたそんなこともわからないの?あれはこの学園の一番の人気者のセレーネ・グレインじゃない!」

「んーーーーーーーーーーー……?」

 腕組しながら、その名前に聞き覚えがないか考えてみたけれど、まったく思いつかない。

「ほらあれだよ、氷精セレネ」

「ああっ!それか!」

 二つ名を聞いてようやく思い出した。なんでも最年少で三つ星になったとか。

 魔法━━。それを使うには、女神の加護を受け、眼に力を宿し魔力の源であるマナを見る事が出来、そのマナを操ることで魔法が使える。女神の加護を受けた眼は◆の模様が現れ、一~五個ある。その模様を星と呼ぶ。

 三つ星になるには五年ほどかかると言われていて、二つ星で終わる事もざらにある。そんな中、セレーネはわずか二年で三つ星になった。

 彼女がそれだけで人気を得た訳じゃなく、その使う魔法も特殊である事が一番の理由だろう。水属性魔法の変種、氷魔法。

「いいなぁ。私も早く三つ星になりたいなぁ……」

「お前より俺の方が先に行ってやるからな!」

「何よっ私の方が……」

「まぁまぁ、二人とも仲良く行こうよ。八年もあるんだしさ」

「それもそうね。お互い頑張りましょ!」

 そうして、着々と人が減っていき、ようやく自分の番が回ってくる。

 案内された部屋に入ると、真っ黒な玉が置かれた机と、一人の教師がいるだけだった。星の数を見ようと思ったけれど、加護がないと見れないのかそれとも隠しているのかわからないが、確認する事が出来なかった。

「いらっしゃい。さぁここに手を置いて」

 黒い玉の上を示される。何をしたらいいかもわからず、言われるままに手を置く。

「目を瞑って、想像しなさい。あなたの思い描く魔法を」

 目を瞑り、想像をする。使姿……。いつまで想像していればいいのだろうと思っていると隣から男の人の声が聞こえてくる。

「おおっ。珍しい君は雷の属性だ」

 隣はすでに終わったのに、自分はまだ終わらないのかと焦ってしまう。

 玉の中では光が大きくなったり、小さくなったりして、形が定まらずにその繰り返しが行われている。

「君は……」

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