第8話

ウェス、ライラ、そしてアランは開拓都市アルテア近辺の地図を見ながら改めてお互いの情報をすり合わせていた。


「ということは昨日のウェスはマンティコアに遭遇する前にジャイアントタートルにも遭遇していたのか?」


「あぁ。普段はB級なんて出ないエリアだな。そんでそこから情報収集がてら少し斥候の真似事でもしてみようかとおもったところでグレース達が襲われているのをたまたま見かけた」


モンスターは生息地や分布などが概ね固定化されている。非常に大まかに言うと、開拓都市アルテアの場合はアルテアを中心に東部から南部にかけて半径10km以内ではE級以下のモンスターしか出現しない。10kmから20km圏内ではDからC級、20kmから50km圏内で概ねB級、そしてアルテアから50km以上離れるとA級が出現し始める。


もちろん地形などの影響もあるので一概にはいえないものの、冒険者たちは概ねこの距離感を元に自身の能力を踏まえて活動場所を決めている。アルテアの北部と西部は他の街につながるルートが存在しているため比較的安全だが、東部から南部にかけては完全に人類生存圏から外れるため他の都市に比べても都市周辺の危険度は非常に高い。


昨日のウェスはアルテアから東方向20km地点あたりをふらふらと探索しており、そのあたりでジャイアントタートルに遭遇した後、南下してグレース達がマンティコアに襲われているところに遭遇した。


そのため普段はC級からB級までのモンスターしかでないようなエリアにA級のマンティコアが出たことになる。A級の生息域からはまだ数十kmもあるような地点にも関わらずである。


お互いの情報をすり合わせたあと、一息つこうとライラが部屋の外に飲み物を取りに行きそして戻ってきてコーヒーを飲みながら少し改まった表情をして、


「いずれにせよグレース達の件は助かったよ。改めて礼を言う。ウェスがいなかったら彼女たちは死んでいた」


「気にするなよ。本当にたまたまだ」


「そうだとしてもだよ。彼女たちに死なれてたら色々と困ったことになるところだったしね」


「…おい、いらんこと言うなよ?俺は何も聞きたくない」


ライラの言い回しに不穏なものを感じたウェスは予防線をはる。ここ開拓都市アルテアはワケあり達の巣窟だ。そんな場所で20歳前後の女性だけのパーティーが半年でD級まで昇格した。彼女たちの背景に何も無いわけがないのである。それを見越したウェスはライラに余計なことを言われる前に予防線をはったのだった。


そんなウェスの様子をみたライラはしょうがないなという表情をしながら、


「わかってるよ。私としても”剛拳”の機嫌を損ねてまで話そうとは思ってないよ。それにここアルテアの冒険者ギルドの不文律もあるしね」


そう、ここアルテアの冒険者ギルドには”過去を詮索しない”という不文律が存在する。この不文律はアルテアという都市が開拓された当初から存在し、ライラがギルドマスターになる前からの鉄の掟として認知されていた。だからこそその噂を聞いたウェスもこの都市に流れついたという背景もある。


ただしそうは言ってもライラはギルドマスターという立場上様々な情報が否が応でも入ってくるし、目立つ冒険者についてはギルド側も独自に調査をしたりするため様々な情報を持っている。


したがって”過去を詮索しない”という不文律がありながらも、ライラが何かしらの過去を仄めかすような発言をしたグレースたちはそれだけ”めんどくさい”状況なわけである。


ウェスの頭の中には一瞬、グレース達は「おもしれー女」だなという非常にどうでも良いコメントが思い浮かんだが、マジの地雷案件の可能性があることからひとまず余計なことは言わないことにした。


そんなこんなであっという間に1時間ほどが経過しようとする中で、ライラが最後の話題という感じでウェスとアラン達のまえにそれぞれ一枚の依頼書を出してきた。その依頼書を手に取ったウェスは内容を読みながら


「これは?」


「見ての通りだよ。ロバーツ子爵と冒険者ギルドアルテア支部の連名の指名依頼さ。アルテア支部所属のA級以上の冒険者全員に対しては強制の指名依頼。加えて一部の戦闘に特化したB級冒険者にも受託"推奨"で指名依頼を出させてもらっている。アラン達はもちろん参加してもらうが、今回の件はぜひウェスにも参加してもらいたい」


ライラから手渡された依頼書に改めて目を通し、その内容と報酬をざっと確認したウェスは


「OK、受けよう。今回は色々ときな臭いしな」


「ありがとう、そう言ってくれると助かるよ」


ウェスの返答を聞いたライラはにっこりと微笑むと、ウェスと握手を交わす。それを見ていたアランも


「ライラ、今回も早めに対応してくれて助かったよ。おかげで軽い怪我人はいるものの犠牲も出ていない。さっそく俺たちは明日から探索に出る」


そう言いながらライラと握手を交わした。そのままウェスのほうを見ると


「ウェス、今回も俺たちのパーティーと組むか?長期の探索依頼をソロで受けるのは厳しいだろ?どうする?」


と声をかけた。

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