第48話 災いの終わり(前)

 ヒュドラの亡骸にヒビを入れ、中から飛び出してきたのは……二本足で立つ、四本の腕を持つ悪魔だった。


(なんだコイツ! 背丈は2m弱と小さめのくせに、ヒュドラ以上のオーラを露出させてやがる!)

「……吉野、万有」

「喋った!?」

「貴様のことはよく知っている、ヒュドラが蒐集した戦闘データを通してだがな」

「なんだお前は! どうしてお前がヒュドラの中から出てきたんだ! お前はなんなんだ!」

「まあ落ち着け。今からお前が聞く情報は冥土の土産になるんだからな」

「んだと……」

「まずは自己紹介だな。俺は被検体6号。一番最初に廃棄され、ヒュドラの心臓に組み込まれた『破壊の神』だ」


 その時、万有の背後からミトラがやってくる。そして6号の姿を見るなりハッと息を呑む。


「6号だって!? どうしたのらか、その姿!!」

「ヒュドラはただのサナギだ。研究者達にとっての本命はヒュドラではなく、ヒュドラの死の間際にエネルギーを受け継いで覚醒するこの俺だったのさ」


 ミトラは万有の元に駆け寄る。


「碧はひとまず協会の人々に保護して貰ったのら。万有も、その人達と一緒に逃げるのら!」

「大丈夫か? お前一人で」

「アタシは大丈夫。それより、万有が生きてここを出る方が優先のら。後はアタシに全部任せるのら」

「……死ぬなよ。お前まで死んだら碧が後を追いかねない」

「わかってる、絶対死なない」


 万有はゆっくり立ち上がり、ミトラの目を見て頷いたあとに森の奥へ消えていった。


「4号、久しいな」

「久しいも何も、最後に会ったの2才とかだから久しぶりという感情すら湧かないのら」

「そりゃそうだ。じゃあもう言葉は不要だな」

「その前に一つ聞かせるのら。廃棄処分になった被検体は基本、人目につかないところに捨てられる。なのにどうしてアンタだけヒュドラに組み込まれたのらか」

「ハハハ! そんなくだらない事を今聞くのか?」

「どうせボコしたあとじゃ聞けなくなるのらから」

「冥土の土産に聞きたいってんなら直接そう言えよ! まあいい、教えてやる。1号とお前以外の被検体は、全員ヒュドラの養分にされたのさ」

「……なんだって?」

「1号とお前は運が良い。2・3・5を取り込んだ時点で心臓を生成するための肉が足りたおかげで、それ以降に廃棄になったお前らは普通に捨てられる事になったんだからな」

「つまりアンタがヒュドラの選ばれた理由は、単純に一番最初に捨てられたからって認識で良いのらか?」

「……」

「プハハ! マジかよ! 1号と言いアンタといい、組織側につく奴は『仕方なく』で選ばれた奴らばっかりのらね!」

「てめぇ……」

「来い。正義は必ず勝つんだって事、お前らに思い知らせてやるのら」

「貴様は俺と同じ生まれだろうが!! そんな貴様が正義を、語るなああああ!!」


 両手に持った槍をつきだして襲いかかる6号。ミトラは右手で口を覆い『鎧装・玄武』と唱える。するとミトラの全身に中華風の白い鎧が一瞬で装着された。


 鎧に当たった槍は砕け、さらに槍の攻撃を受けてなお鎧は無傷だった。


「鎧装……裏コードか!」

(エネルギーが0になった際、1度だけモンスターを鎧として身にまとえる『鎧装』。エネルギーを使わない代わりに負荷が凄まじいから、あまり使いたくなかったのらけど――)


 脂汗を額に滲ませるミトラ。しかしミトラはなお不敵な笑みを浮かべる。


「そっちが破壊の神なら、こっちは不死の象徴の力で戦わせて貰うのら。玄武の守りはもうすんごい固いから、死力を尽くしてくるのらよ」

「笑止!」


 6号は全身から赤く禍々しいオーラを放出し、それを槍に纏わせて巨大な矛先を作り出す。ミトラはファイティングポーズを取って前方にバリアを出し、その矛先を受け止めようとするが――


 一瞬でそのバリアは割れ、槍はミトラの腹を貫く。


(な……!? 玄武のバリアは、数十人の冒険者が全力を出してようやくヒビが入るレベルの硬さだっていうのに!)

「破壊の神相手にバリアなんか張るなよ! 割られるに決まってんだろ!」

「……ふふ、でもアタシの命までは破壊できなかったようのらね?」


 腹に槍が刺さりながらも、余裕を見せるミトラ。ミトラは槍を掴み、腰に提げた青竜刀を抜いて矛先を切り落す。


 矛先がなくなった槍共々、手に持った槍を全て地面に投げ捨てる6号。


「フン、元より槍は様子見として出したモノ。この武器では破壊のエネルギーを20%も活かせないからな。ここからは、100%伝わる拳で行かせてもらう」


 6号は一瞬で距離を詰め、ミトラが反撃の用意をするのを待たず4つの拳で鎧をタコ殴りにする。拳が鎧に当たる度に凄まじい衝撃波が辺りに広がり、それによりミトラは何度も気を失いかける。


(まずい! 鎧にヒビが入るだけならまだしも、コイツの拳、鎧を貫通してアタシの体にまでダメージを与えてくる! このまま喰らい続けてたら、やばい……)

「どうしたどうしたぁ! このままだと死ぬぜぇ!?」

(鎧自体は常軌を逸した硬さと『不死』しか特徴を持ってない。青竜刀じゃダメージを与えられないし……アーマーを変えるしか無い! 『変装・イフリートドラゴン』!)


 ミトラのアーマーは一瞬で赤く変化する。するとその直後に鎧に触れた6号の下の右手を真っ黒に焦がし、焦げた腕はひとりでにボロボロと地面に砕け落ちた。


 自慢げにフッと笑うミトラだったが、次の瞬間、身に纏った鎧が砕け散ってしまう。


「な……っ」

「俺の力は破壊に特化してる。本来一度触れるだけで鎧を破壊できるんだが、玄武の鎧の特性がそうさせてくれなかった。だが……フハハ、お前が鎧を変えてくれたお陰で! 突破できた!!」

「迂闊だった、のらか……」


 片膝をつくミトラにの右肩に剥き身の剣を置く6号。


「お前の敗因は焦りだ。防戦一方では勝てないと、勝算も無いくせに攻勢に出たその無策さがお前を殺した」

「……」

「既にお前は死んだような物だが、やはり肉体的にも殺してやらんと気が済まん。よって、お前の首を刎ねる。抵抗できるならしても良いぞ?」

「……さっさとやるのら」

「潔い奴め」


 6号が刀を振りかぶったその時――ミトラの右腕に、紫色の籠手が装着される。ミトラは振られる刀を籠手で受け止めて弾き、さらに籠手で6号の肩を掴んでぐっと握る。


 すると6号の全身がみるみる内に変色し、さらに6号は悲痛な叫び声を上げる。


「ラウンド2、と行かせてもらうのらよ」

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