チートスキル【元素操作】持ちの元化学者は異世界でケモミミとモフモフに囲まれてスローライフを送ります

ねいん

第1話 転生した①

まえがき

しばらく一日複数話投稿します。


§


「ほ、ほぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」


 これが前世で最後に言った言葉だ。


 僕はブラック企業勤めの化学者だった。書類仕事をしつつ実験をする日々を送っていたわけだが不眠不休でエナジードリンクを飲んだまま実験してたら――なんか爆発して死んだ。


 正直、最後にどういう作業をしていたかは覚えてない。ウトウトしながら爆発物に刺激を与えてしまったような気もする。

 

 次に目を覚ましたときには女神と名乗る怪しい女が目の前にいた。


「わたくしは女神のルナティックと申します」


 女神さんはグレーの髪と瞳を持っていて、端正な顔立ちをしていた。銀色のローブを身にまとっており、神秘的な雰囲気を漂わせている。


「そうですか。僕は漆原うるしはら榎秋かしゅうと申します」


「お、驚きはしないんですか?」


「別に」


 平然と答えてみると女神は口をあんぐりと開けたまま固まっていた。


「女神ですよ⁉ いきなり目の前に綺麗な女の人がいるんですよ!」

 

 女神さんは憤慨していた。


「女神の存在は信じてなかったけど、実際にいるんだね」


「じょ……状況の理解が早くて助かります」


 僕は目で見るまで神やら女神という存在は信じないことにしてた。ただそういった存在が人々の支えにもなっているので口で否定したことはない。


「僕はどうなるんですか?」


「榎秋さんには転生してもらいます」


「分かった行きましょう」


「やけにあっさりしてますね……」


 女神さんは僕の態度に困惑していた。


「その前に貴方には特別な力を授けましょう」


「ほう、それはなぜ?」


「神々と会議をした結果、貴方の死に方があまりにも可哀想なので相応の力を与えることになりました」


 神様達も会議するんだ。親近感湧いたよ。


「今から力を与える呪文を唱えます」


 女神さんは僕に両手を向けて口を開く。


「むにむに! んっ! ぴゃあああああ!」


 意味不明なこと口走る女神さん。


 僕の身体は光に包まれた。


「むにむに! んっ! ぴゃあああああ! って意味のある言葉なんですか?」


「っ! 真似しないでください! 昔から人間に力を与えるときはこれを言う決まりなんです!」


 女神さんは恥ずかしそうにしていた。純粋に言葉の意味を知りたかったのだが。


 ん? 頭の中に授かった力の知識が流れ込んできた。


 スキル【元素操作】:あらゆる元素を自由自在に操作できる。


 元素というのは生命、物質を構成している成分のことだ。これを自由自在に操作できるということはぶっちゃ何でもできるということだ。


「チートスキルすぎませんか?」


「会議の結果なので受け入れてください。貴方が転生するのは剣と魔法の世界なのでこの力は役に立つはずです」


 ということは人や魔物との戦いがあるということだ。


 強い力を持ったほうがいいに決まっている。快く受け入れよう。


「分かりました」


 僕はこくりと頷いた。


「では転生した世界での望みを言ってください。できる限り叶えてあげましょう」


「望みか……」


 僕は目を閉じて考えを巡らす。


 世に役立つものを生み出すための実験はやりがいがあった。だがその結果、寝ぼけて実験ミスで爆死した。どうせなら次は仕事と無縁の人生を送りたい。


「もふもふだ」


「え?」


 僕の発言に首を傾げる女神さん。


「前の人生ではもふもふが足りなかった。ケモ耳、尻尾に触れたい。ふっさふっさの動物に触れて癒されたい。それも長閑な場所が良い、安息の日々を送りたい」


「分かりました癒しが欲しいということですね」


「簡単に言えばそうなります」


「では貴方を精霊女王レガリアの聖地で転生させます。そうすれば貴方の望みは叶うでしょう」


 女神さんは喋り終わったあと指を鳴らす。


 僕の足元には幾何学模様の魔法陣みたいなのが現れる。


「では精霊女王の元へと転移させます!」


「女神さんとはこれでお別れ?」


「寂しいですか?」


「いいや別に」


「薄情者ですね! 私の美しい像が転生先の世界にあるのでそこで祈ったら現れますよ!」


 女神さんはぷんぷんと頬を膨らまして再び指を鳴らす。


 僕の視界は暗転する。


 再び視界が明るくなったときには目の前に金の刺繍が入った白色のローブを着たパープルグレイの髪と瞳を持っている女性が現れた。


「ご紹介されたレガリアと申しますわ」


「僕は漆原うるしはら榎秋かしゅうと申します」


「冷静な方ですね」


「さっきの女神さんが感情豊か過ぎる気もします」


「ふふっ、そうかもしれませんわ」


 精霊女王さんはお淑やかに笑っていた。


「では、私の聖地についてお話しますわ」


「お願いします」


「漆原さんが転生する世界は剣と魔法の世界。魔物はもちろん場所によっては国家間の戦争もありますわ。ただ、わたくしの聖地と呼ばれるレガリアの森は人間の間では最果ての森と呼ばれおり、滅多に人間が近づくことはありません。レガリアの森は私の張った結界のおかげで部外者は森の奥に入れないのです。故に最果ての森と呼ばれていますわ」


 精霊女王さんは長々と語り始める。


「そしてレガリアの森の中心地にはレガリアの村があります。そこには多くの動物が生息しており、様々な植物も生い茂っている自然豊かな場所ですわ」


 にっこりと首を傾げる精霊女王さん。


「そこなら安息の日々が送れるのですか?」


「トラブルは全くないわけではありませんがそこに住む人々は皆、心穏やかですわ。それと漆原さんが行く村の住人のほとんどはエルフや獣人ですわ」


 学生時代はゲームをやっていたのでエルフは長耳で長寿な種族であることは分かる。それより気になるのは獣人だ。僕が求めるモフモフ要素を持っているのかもしれない。盛り上がってきたね。


「獣人というのは?」


「見た目は人間と似ていますが耳と尻尾が付いていますわ」


「それはモフモフですか?」


「モフモフですわ」


 それは素晴らしい。


「では転生する心構えはよろしいでしょうか?」


「はい」


 僕が応じると精霊女王さんは両手を握って目を閉じる。


「転生先は私をまつる神樹と呼ばれる木の中にある祭壇ですわ。住人達は貴方を私の化身として丁重にもてなすでしょう。それと転生した瞬間に転生先の世界の知識が頭の中に流れるようにしますわ。榎秋さんの来世に幸あらんことを……」


 僕の身体はどんどん薄くなっていく。消えていくのだろう。


「精霊女王さん、ありがとうございます」


「いえいえ」


「あと女神さんにもありがとうって伝えといてください」


「分かりましたわ」


 僕の意識は途絶えた。


 …………………………………暗闇の世界にいたと思う。


 その時間は一瞬のようで永遠にも感じた。


 意識が覚醒する。


「……………」


 僕は目を開けると上体を起こす。


 周りを見渡す。精霊女王さんがいった通り、ここは神樹と呼ばれる木の内部なのだろう。壁一面に根が張ってる。


 そして僕自身は石造りの祭壇にいた。


「手足が短い」


 僕は自分の体を見ていた。


 転生したので今の僕は赤ん坊の姿なのだろう。


「ん?」


 祭壇から下を見下ろすと尻餅をついている男の人がいた。


 いや人じゃない。茶色の耳と尻尾を生やしていた。あの耳の形は狐だろうか?


 きっと獣人という生き物だ。触れてみたいあの耳と尻尾に。


 獣人の男は足を震わせていた。


「な、な、な、な、なんてことじゃあああ! いきなり祭壇が光ったと思ったら赤ん坊が現れおったぞ!」


 僕を見てびっくりして腰を抜かした様子だ。


 僕はスッと立ち上がる。


「どうも初めまして」


 頭を下げて挨拶をした。


「えっ」


 獣人の男は肩を強張らせた。


「しゃ、しゃ、喋ったああああああああああああああああああああああああああ! ちょ、長老ーーーー! 祭壇から化身が! 精霊女王の化身が生まれおったぞおおおおお!」


 男の獣人は這いつくばりながら背を見せて去って行く。


 長老という人を呼びに言ったようだ。


 これから始めるんだ……安息の日々を、スローライフというやつを。

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