第2話 優しい手(改稿完了)

☆佐藤梓(さとうあずさ)サイド☆


お兄は浮気されたショックでそのまま寝込んでしまった。

私は悔しさゆえにギリギリと歯を削れるぐらいに食いしばる。

そして親指の爪をガジガジと齧った。


それから落ち着かせるつもりで息を吐く。

だけど怒りが収まらない。

どうしたら良いのだ。


「腹立たしい。...どうしてもそうしか思えない」


そんな事を呟きながら私は眉を顰める。

何というか復讐なんてしなくても成宮は地獄に落ちるとはお兄は言った。

だけどそれは本当だろうか。

私は...成宮にこの苦痛を味合わせる方が良いと思う。


「だけどどうしたら良いのか」


そう思いながら私は洗濯物を畳む。

でもどうあれ「復讐は良くない」とお兄は言っているし。

そうなると。


あ、でもそうか。

あるじゃないか...ありったけの復讐ができる方法が。

この方法なら成宮に復讐できる。


「私達が幸せになれば良いんじゃないかな」


そんな事を私は考えながら私はガッツポーズをする。

そうか身近にあった。

そういう感じで徐々に復讐をやれば良いのだ。

それで十分な復讐になり得ると思うし。

成程。


「お兄を舐めるなよ。成宮。私のお兄はあくまで音楽をやっていた様な格好良いヒーローなんだから」


その様な事を呟きながら私は天井を見る。

それからゴクリと喉を鳴らしてからそのまま二階にゆっくり上がって行く。

どうせ寝ているだろうとノックはしなかった。

スースーという寝息をたててやはりお兄は寝ていた。

それもとても可愛い寝顔でだ。


「...可愛いなぁ。私のお兄は...」


そう呟きながら私はお兄の手を摩る。

するとお兄は「う、うーん」と言った。

私はその言葉にまたゴクリと赤くなって唾を飲み込む。

この愛しい...顔がたまらない。

だけど襲うのは良くない。


「...じゃあせめて手の甲にキスをしても良いよね」


そんな事を言いながら私はお兄の手の甲にキスをした。

それからお兄の髪の毛を櫛でとかす様に指に伝わらせる。

告白したけどお兄はどう受け止めたかな。

駄目かも知れないけど。


もしかして別の意味に捉えられたかもしれない。

だけどそれで今は良しとするか。

仮にも愛の告白はしたし。

格好良い歌のボーカルにだ。


「...お兄。私は昔からずっとお兄が好き。...それに私達は赤ちゃんの頃から互いを知っているんだからね」


妥協していたのが悪かったな。

だけどこれからはあの女に負ける筈が無い。

お兄があの女と付き合うのを大反対したのを覚えている。


結論から言って最後は妥協したのだったが。

だからこそお兄は成宮と付き合った。

そんな成宮は容赦なくお兄を裏切った。

私が奪っても構わないという事だ。


「...」

「スースー」


私は手を握りながら段々と顔を近付けていく。

段々その顔はお兄の顔に近付く。

そして寝顔にキス...といった所でインターフォンが鳴った。

私は「ちっ」と言いながら降りて行きインターフォンを覗く。

そこには宅配便屋さんの姿があった。


「このタイミングとか最悪」


そんな事を言いながら荷物を受け取る。

それから私は宅配を開けてみる。

そこには温州みかんがぎっしり詰まっていた。


単身赴任中の母親と父親から寄せられたものであろう。

私はみかんを見る。

そして考えた。


「...しかしお母さんと竜さんも本気で大概だよね。年頃の私達を残して行っちゃうなんて。まあ良いけどね。私がお兄を独占出来るし」


そう呟きながら私はニヤッとしながらみかんを片す。

それから顔を上げるとお兄が階段から降りて来ていた。

あらら、間に合わなかったな。

私はそう思いながらも直ぐにお兄に笑顔になる。

照れ隠しの様に。


「梓。宅配便が来なかったか?」

「みかんだね。お母さんと竜さんからだよ」

「うん?みかんの時期は若干ズレてないか?」

「ハウス栽培のみかんだって」


会話をしながら居るとお兄は顎に手を添えた。

それから「なあ」と聞いてくる。

私はお兄に向く。

するとお兄は「さっきの言葉は何だったんだ?俺が好きって言葉」と聞いてくる。

私は「ああ。それはお兄がお兄として好きだよって話だよ」と笑顔になった。


「...???...じゃあ他意は無いんだな?」

「無いよ。...私はお兄が好き。それはつまり味方って事」

「そ、そうか。だったら良いんだけど...何か誤解しそうで」

「?」

「いや。すまん。...忘れてくれ」

「...深い意味は無いよ。お兄」


まあ正直意味はあるけど。

それはお兄が昔から異性として好きという点だ。

私はお兄が心から全てが大好きだ。


成宮に浮気された今。

私にもチャンスが巡って来たという事だ。

そんな事を考えながら私はお兄を見る。


「お兄。私の容姿どうかな」

「...?...そういえば髪を結んだのか?ツインテールって珍しいよな」

「元からしてみたかったからね。ツインテール。お兄がこのエロゲキャラ好きだからねぇ...」

「!!!!?」

「この髪の毛はエロゲのあのキャラの髪形だよ」


「何で俺がエロゲをして...というかそれを知っている?!」と赤面で慌てるお兄。

ほらね。

私はお兄を何でも知っているのだ。

成宮と違う。

バンドをしていた事も知っている。


お兄の好きなキャラクターもエロゲも好きな物、嫌いな物。

何もかも。

その癖も行動も。

だからこそ浮気したゴミ屑には負けない。

そう思いながら私はお兄に歪んだ笑みを浮かべる。


「...私のお兄だからだよ」


そう言いながら私はお兄の手を触った。

そしてその決意を新たにした。

(横取りしても良いよねお兄を)

そういう感じでだ。

私は絶対に成宮を許さない。

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