第9話 さすが汚い手は間男のお家芸だな!

 高等部の生活は初日に演習場で大立ち回りをしてしまったので良くも悪くも目立っていた上、翌日にはヘイゼルの婚約者という事になっていたので交流がなかった級友からの扱いは2日目にして『なんだコイツ怖ッ……』という扱いまでホップステップジャンプと3段飛ばしで昇華してしまっていた。

 ……でも正直わかる、もしこれが他人で自分のクラスに追放されたと思ったら2日後に(元)王族の婚約者になってたら怖ッ、近寄らんどこ……って真顔になるもん、仕方ないね。


 幸い、中等部時代から『明るく元気に楽しく行こうぜ!!!!!!』をモットーに過ごしていたおかげで中等部からの友達は皆変わらず接してくれた。女子だとジェシカが主にそうで、あとはメンズなお友達。

 男友達はというと、「アハハハ!そのぶっとびっぷりがカストルらしいよな!!」と大爆笑したり、「いいじゃないか。人が人を好きになるのに産まれや背景なんて関係ないだろ」と肯定してくれたり等と、反応は異なってもいい友人ばかりである。


 そんなわけで、お昼は友人達とで仲良く食事をとり、食後の休憩と談笑をしていた。ジェシカもさっきまでいたが、俺が少し頼みごとをしていたのもあって先に席を立っている。

 癖のある黒髪赤目がシスコンに定評があるアッシュ、茶髪のふわっとした髪に落ち着いている凪のような態度の方がバルナ。

 この2人は俺が魔力5で廃嫡されたのを知っても、


 「「それがどうした」」


 で済ませて変らず付き合ってくれているので、俺の中でカストルポイントはかなり高い。

 教室の中でもハブられることなく過ごすことが出来たのはこういった変わらず接してくれる友人のお陰なので感謝の極み、やっぱり持つべきものは友達なのである。……と、楽しい歓談に割り込んでくる声があった。


「食事中に邪魔するぞ。貴様がカストル・フェンバッハだな?」


 四角張った顔に筋骨隆々とした三白眼の巨漢だ。面識はないけど、腕章の色を見ると上級生だろうか?ちなみに学年ごとに腕章の色が違い、俺達1年生は青色の腕章をつけている。このマッチョさんは緑色なので3年生だ。


「はい、そうですが」


 かけられた声に返事をすると、いきなり侮蔑するように笑うマッチョさん。


「フン、王族にゴマをすって成り上がったクズらしい貧相な肉体だな。俺の美しい肉体とは雲泥の差だ、ゴミのような肉体にはゴミのような精神が宿るという訳だな」


 何このマッッチョいきなり喧嘩売ってきて失礼じゃない??


「いったい何だってんです?ちょっと失礼じゃないですか」


 ―――しかし今は瞬間湯沸かし器のアッシュくんが隣にいたので、俺が反応するより先にムッとして食って掛かっている。こいつ喧嘩っ早いというか無礼には相手が誰であろうと遠慮なく喰いつくところがあるんだよな。良くも悪くも一本気。


「その赤目はガルシン家のものだな?フン、お前のようなガキの出る幕ではない。俺はそこの卑劣野郎に用がある」


「何だとぉっ!コイツぅッ!!」


 暴言に躊躇なくマッチョに飛びかかろうとするアッシュを、その動きを読んでいた俺とバルナで左右から取り押さえる。……馬鹿にされたの俺なのになぜ俺は友達をロックする側になってるんだろうね?まぁいいか。


「やめろアッシュ、落ち着け」


「放せよバルナ、友達が馬鹿にされたんだぞ!!カストルも悔しくないのかよ、俺は滅茶苦茶に悔しいよ!!」


 歯をむき出しにして起こっているアッシュの掌が光っている。そういえばアッシュも何か珍しいスキルを手に入れたって言ってたな。


 「落ち着けアッシュ、深呼吸しようねすーはーすーはー」


 アッシュの背中をさすりながら落ち着けさせる。はいステイ、ステーイ。同じ歳だけどアッシュに対しては危なっかしいのでどうしても弟をみるような目で見てしまうのよね。


「……つまらん男だな。フンッ」


 だが、そんな言葉と共にノーモーションでマッチョの蹴りが飛んできた。ものまねを発動しようとしたが距離が近すぎたのと技の選定で迷って出遅れたところを、横合いから突き飛ばされる。

 庇われたと思った瞬間にはもう俺とアッシュは突き飛ばされて地面に転がっていて、代わりにバルナがマッチョの蹴りで宙を舞っていた。

 マッチョが何らかのスキルを発動しているのか、嫌な感じの打撃音がした。バルナもガードしたようだが、吹き飛ばされたままテーブルを幾つも吹き飛ばして地面に倒れ伏している。


「「バルナッ!!」」


 俺とアッシュの叫びにバルナが大丈夫、と上体を起こしているが、げほげほとせき込んでいる。


……あ、やばい。友達を傷つけられると俺ガチ目に怒っちゃう。おこなの?――激おこだよ!!!!!!!だが俺が怒るという事はアッシュが脊髄反射で爆発してるわけで。


「何でこんな事……喧嘩でもしたいのか、あんたは!!」


「その通りだ!貴様も騎士の家系ならば、同じ騎士の名門我がマッチョリー家を知らぬわけではあるまい?命が惜しくば黙っているといい。

 俺は―――そこのカストル・フェンバッハに勝負を挑みに来たのだよ。どうやって取り入ったのかは知らないが魔力5のゴミの分際で王族に取り入るその恥知らずのド屑野郎をわからせてやるためにな」


 アッシュの言葉に、俺達を見下ろしながらニヤニヤと笑って行ってくるマッチョ。


「喧嘩が売りたきゃ俺にそう言ってくださいよ。だから友達を巻き込むのは―――やめろ」


 そう言って憤怒を籠めてぎろりと睨むと、一瞬怯んだ様子を見せるマッチョ。


「フン、粋がって。貴様をブチのめせば喜ぶ御方がいるんでな、この学園にいるのが辛くなるぐらい“可愛がって”やるぞ」


―――御方?そうか、リバルだな。真昼間から喧嘩吹っかけて来たけど王族がバックにいるならそりゃ遠慮しないよな。


「……なるほど、リバルの差し金ってわけか」


「さぁ、なんのことか知らんなぁ」


『○』


 はいダウト、俺には嘘は通じないのだよ!!あとチートでチェックするまでもなく目が泳いでいるのでバレバレでーす脳筋かよ……。こいつ脳筋だからカマかけたら普通に引っかかりそうだな、よし。


「リバル王子のつけてる香水って嗅ぐと鼻頭に脂汗が噴き出るの知ってた?ほら、鼻頭に脂汗凄いぜ」


「何?!」


 俺の言葉にマッチョ先輩、すかさず自分の鼻頭を触って脂汗をチェックしている。勿論そんな脂汗なんかあるわけはないのだが―――


「……わぁ、マヌケは引っかかりましたね」


 引っ掛けられたと知って顔を真っ赤にして怒りに震えているマッチョ先輩。

 しかしリバル、リバルかぁ……よくも俺の友達まで巻き込んでくれたな。あの野郎、ブ・チ・の・め・し確定な!!


「貴様ァーッ!!上級生にその態度はなんだァーッ!演習場に来い、そこで貴様を泣き叫ぶまで痛めつけてやる」


「へぇ、それは楽しみですね」


 そんな風にマッチョとバチバチ視線を交わしていたところで、アッシュが俺を背後に庇うようにして前に出た。


「……カストル、こいつは俺に任せてくれ。お前はバルナを医務室に運んであげてほしい。こいつは俺が……倒す!!」


「フン、ガルシン家の小僧がよく吠えたな。腐っても騎士の家系という訳か……いいだろう、クズの前にお前も俺の究極の筋肉で―――叩き潰してくれるわ!!!」


 闘る気満々で演習場に歩いていく2人の背を見送った後、バルナを抱えて医務室に連れて行き、寝台に寝かせてから演習場に走る。……大丈夫か、待ってろアッシュ俺がすぐいくからな……!!大丈夫かアッシ――――


「お前ってヤツはーッ!!!」


「ウッぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!」


 ―――というわけで急いで演習場に駆けこんだら、背中から虹色に輝く光をジェット噴射か羽根か何かの如く放出したアッシュが宙を飛んで、空中に吹き飛ばしたマッチョの顔面に光る拳をめり込ませていた。うわぁ、あれは痛いぞぉ。

 無傷のアッシュに対して、マッチョの方は既に手足がボキボキに折られていて泣きべそをかきながら墜落、痙攣した後に動かなくなった。滅茶苦茶なワンサイドゲームがあったことは想像に難くない、ナムナム合掌。


「これに懲りたら絡んで来るなよな!!」


 ゆっくりと地面に降下していくアッシュの声にまたもやギャラリーが大歓声をあげていた。演習場はアレか、コロッセウスみたいなもんなのかな。

 いやぁ持つべきものは友達だ。その後泣きながら意識を失ったマッチョさんがドナドナと運ばれて行くのを見送ってから、バルナの見舞いに戻るのであった。そう言えばあのマッチョの名前も知らんわ……ま、いっか。



「――――っていう事があったんだよドーブルス」


 そして放課後。俺がまた騒動を起こしたという事で心配したドーブルスに私室に招かれたので、お茶会しながら事の顛末を説明する。


「そんな事が……。リバルが……面倒をかけて本当にごめん」


 申し訳なさをにじませた渋面を浮かべるドーブルス。


「お前が謝る事じゃないってばよ、悪いのはリバルさ。けど、あいつはさっさとカタをつけないといけないぞ」


 苦笑しながらも、今日の事でリバルは早いとこ何とかしないと俺達だけでなく周囲にも被害が出ることが分かったのでさっさと始末つけなきゃなと思う。ドーブルスの冤罪騒動もはやいところ晴らしてやらないといけないしな。


「……でもリバルの派閥って規模で行くと3番目位に大きくてさ。なぁカッちゃん、俺がリバル派閥とやりあうってなったら、一緒に戦って―――」


「当たり前だろ、一蓮托生だ」


 ドーブルスの言葉を途中で遮る。ここまで関わって放り出すわけないだろ?言わせんなよ恥ずかしい。


「……へへっ、ありがと。俺カッちゃんと友達になれて良かったよ」


 キラキラとオーラでも纏ってそうな笑顔で笑いかけてくるけどそれは女の子に向けてやんなさいね。


「あ、それと今日来てもらったのはまた別の用件があってヘイゼルとの婚約の事なんだけど――――」


 ですよねー。知ってた!!!!!!!!!!!!!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る