第33話 暴走

 地獄にたどり着くと、まさにそうだと言えるような光景が広がっていた。血の匂いが漂っていて、少し吸い込むだけで気持ち悪くなる。

 これだから、もう地獄には行きたくないものだ。

 だけど、早く雅夫さんを回収しなければメティトがついてしまう。メティトと私の実力は正直互角だ。だけど、雅夫さんを抱えながらでは長くは戦えないし、そもそも私は病み上がりだ。まだ、全力が出せない。


 まず針地獄を見る。確かここは、地獄に送られてまず訪れる場所だ。だが、雅夫さんはいない。……雅夫さんここは気合で通ったのかな?

 ……という事は?

 という訳で次の地獄鍋に行く。すると、熱されている雅夫さんがいた。


「雅夫さん!!」


 と、鍋に向かって急降下する。


(暑い!!)


 この暑さ、地獄だ。しかも雅夫さんはこの鍋に延々使っていたという事なのだ。雅夫さんの体力はもう底だろう。


「雅夫さん、大丈夫?」

「……ああ」


 ああ、という雅夫さんは全然大丈夫には見えない。そもそも体が火傷しそうなほどに熱いのだ。


「なあ、ティア」

「何?」

「俺って……悪魔だったんだな」


 そう雅夫さんは淡々と言った。


「俺は、人間じゃなかったんだな。俺ってお前の敵だったんだな」


 雅夫さんは全てに気づいてしまっている。自分の正体も、自分がしてきたことも。


「あれは、女神二人が日本に着いた瞬間に侵攻を開始したんだな。そして俺を人質に取り、ティアかルティスのどちらかを殺そうと。……俺は、全然だめじゃねえか。ただの足手纏いだ。こんな地獄に落ちたのも自業自得という事だ。ははは、救えねえな。俺は」


 私はそれを否定したい。でも、今雅夫さんが言ったことは事実だ。私には何も言えない。なにも否定できない。それがつらい。雅夫さんが絶望の顔を見せているのも。


「ティア、俺に生きる資格なんてない。おいて行ってくれ」

「だめだよ!!」

「だめっだって。俺は罪を犯しているンだ」

「私が悲しいもん。雅夫さんは絶対助ける!!」


 そして私は地獄の出口へと向かう。


「ティア、ここからは出さない。雅夫を置いていけ」

「だめ! 出来ない!」

「出来ない? ふざけるな。自分が何をしているかわかるのか?」

「分かってるよ」


 ここは意地を通させてもらう。


「とおして」


 炎の弾丸を複数個飛ばす。さあ、燃え尽きて!!


「俺は破れん」


 弓矢が放たれ、炎はそれに向かって行く。


「マーキング?」

「言う必要はない」


 そうだった、メティトは搦め手が得意なのだ。そしてそれからもメティトは弓矢を連発して放ち、こちらに隙を与えない。こうしている間にも……!! 雅夫さんの体力が……


「セイグリットビーム!!」


極太ビームを繰り出す。メティトは弓で再びms-キングするが、それには寄らない。


「なるほど……」


メティトがそう呟くと、上に高く飛び跳ねる。当然ビームもメティトの方を向くが、


「貫け、ファイヤーアロー」


その一撃で相殺された。くそう、こんなちまちま戦ってる暇はないのに。そうだ!


「はあ!! シャインフラッシュ!!」


 周りを光で包み視界を奪う。これで流石のメティトも!


 だが、外に出ようとした瞬間、弓矢が体を突き刺す。


「……なんで?」

「簡単な事です。あなたはここから出ようとするときここから出る。その際、弓矢が当たるように細工しました。これであなたは動けません。さあ、その悪魔を返してもらいましょうか。


 その際に、雅夫さんの体が青くなった。絶望しているのかな。


「雅夫さん……ごめんね」


 そう謝る。すると、


「もうだめだ。もう!」


 そう雅夫さんが言って、雅夫さんから黒い羽が出てきた。


「俺はティアをいじめるやつを許さない!!」


 そう言いながら。


「……」


 メティトが、弓矢を放つが、雅夫さんの口から黒い吐息が出る。その吐息で、弓矢は全部腐り、その場に落ちる。


「…………」


 そして、黒い弓矢がメティトに襲い掛かる。メティトはその攻撃を上手く弓矢で相殺するが、雅夫さんのスピードが勝った。そのすきにメティトの後ろに来ていたのだ。


「……」


 そして雅夫さんはメティトの背中を持っていた槍で突き刺そうとする。しかし、そのメティトの体はすぐに弓矢へと変化した。


「私をなめないでください」


 そしてメティトは指をくいっと、上にやる。すると下から弓矢が沢山飛んでくる。


「雅夫さん!!」


 私は雅夫さんに危機を伝えるために叫ぶ。すると雅夫さんは横に避ける。だが、その瞬間、雅夫さんの体を弓矢が貫く。


「あなたはそこに行くと思ってましたよ」


 そして、雅夫さんはその場に落ちる……と私は思っていた。だが、雅夫さんはすぐに翼で飛び、槍をメティトの真上からぶん投げる。

 メティトは避けながら言う。


「なぜ動ける!?」

「……」


 雅夫さんは何も言わずにその光景を見つめすぐに第二の槍を投げる。私も不思議だ。だって私はあの弓矢を喰らった瞬間体がしびれたのだから。もしかしたら悪魔には毒体制があるという事事なのかもしれない。


「答えないという事ですか」


 メティトはそう叫び、大量の弓矢を雅夫さんの四方八方から放つ。文字通り、避ける場所がない。つまり、防御するか、攻撃で破るしかない。

 雅夫さんはすぐに闇の吐息を放った。その攻撃に弓矢は解けなかった。


「対策をしてなかったと思ってますか? 私は弓使い、対処などすぐにできます」

「……」


 雅夫さんはその攻撃を甘んじて受け入れる。だが、その目は諦めてはいないようだった。

 雅夫さんはそのままその場に落ち……るふりをした。そして、メティトが勝利を確信したようなそぶりをした瞬間に、下から猛スピードで上がってき、そのままメティトの体を突き刺し、そのままメティトは落ちていった。……針山の中へと。


「ありがとう、雅夫さん」


 そう、感謝を告げる。だが、その瞬間、雅夫さんは私目掛けて槍を投げてきた。一瞬のこと過ぎて、対処するのが遅れ、槍の先端が私の腰付近を軽く貫く。先端だけだから回復は女神パワーでできるけど、かなりきつい。


「雅夫さん?」

「はあはあ」


 雅夫さんは再び槍をぶん投げる。


 その攻撃は来るかもと思ってたから難無くよけられた。だが、思った以上に雅夫さんが私狙って攻撃してきたという衝撃が強い。何とか精神を安定させなくては。

 そしてすぐに上に飛び跳ね、雅夫さんに向かって光の光線を放つ。これは攻撃ではなく、本当にまぶしいだけの光線だ。

 私は、雅夫さんを傷つけたくない。そして雅夫さんの方に舞い降り、雅夫さんの体を抱きしめる。

 漫画とかならこれで正気に戻るはず。

 だが、雅夫さんは止まらなかった。雅夫さんはすぐに私の頭の上から槍を突き刺そうとした。何とか事前に察知して下に急降下して避けれたからよかったものの、一歩間違えてたら致命傷を喰らってたところだ。


 本当に雅夫さんと戦わなければならないのか、雅夫さんをあの世からも消さなければならないのか。そんな思考が巡る。

 雅夫さんが死んでも生まれ変わるだけ。別の魂へと。だが、それを受け入れる私ではない。生まれ変わった雅夫さんは、ではないのだ。



 そんなことを考えていると、槍が飛んでき、私は横に素早く避けた。っ考える暇くらい与えてよ!!


「雅夫さん」



 嫌だ、殺したくない。

 世界のために暴走した雅夫さんは殺さなくては、

 雅夫さんは私を助けてくれた。

 雅夫さんはその私まで殺そうとした。

 雅夫さんは私にいつも笑いかけてくれた。

 今の雅夫さんは、狂気じみた目で私を見ている。

 私が死んで世界を見捨てるか、雅夫さんを殺して私ごと世界を救うか。


 ああ、私は卑怯だ。結局雅夫さんを殺す選択肢しか取れない。結局、雅夫さんより世界を取ってしまうのだ。


「ごめんね」


 そして再高威力の光の光線を雅夫さん目掛けて放つ。雅夫さんは避けるが、追尾型だ。雅夫さんを追っていく。雅夫さんは闇の咆哮浴びせ、光を一瞬止め、そのまま私に無かってくる。


「そう来ると思ってた、雅夫さんなら」


 そして雅夫さんを抱きしめ、体に光を纏い、


「ともに滅ぼ?」


 雅夫さんがいない世界は耐えられない。私が選ぶ選択肢は自爆だ。


「シャインエクスプロージョン!!」


 私達ははじけ飛んだ。

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