第28話 激闘

「ふむ、ようやく入ってきたか。餌につられて火に入ったか夏の虫女神よ」

「夏の虫?」

「ティア、飛んで火に入る夏の虫のことよ」

「あ、そう言うこと?」


 なんか難しいこと言うなあ。まあ、そんなのはいい。


「雅夫さんを返せえええええええ!!!!!!!!」


 そう言って、殴り込みにかかった。まず、最初は雅夫さんの解放を図る。そして雅夫さんの安全を確保してから戦いに臨む。


「そうはさせるか!」


 と、敵のボスっぽいやつ。通称ルヴィンは雅夫さんの首をナイフで狙う。私が攻撃したら、雅夫さんを殺すという事か。


「卑怯だね」

「卑怯でも何でもいいさ、お前らの命を刈り取れるのならば」


 そう言って、ルヴィンはその手をさらに雅夫さんの首に近づける。


「……」


 雅夫さんは何の言葉も発さない。どうやら私を信じているらしい。

 これじゃあ、雅夫さんを助けられなかったら、ただの敗北者じゃん。


「分かった、雅夫さん。絶対助ける」


 そう、ルヴィンの手のもとにいる雅夫さんに言う。


「そうは言うが、この状況、どうするつもりだ? 流石にこの男を見殺しにはお前は出来ないだろ?」

「そうだね」

「ならば……」


 そう言ってナイフが私のもとへと投げられる。


「一つ言う。もしお前がそのナイフで自殺するのならば、雅夫、この男の命は助けてやろう。さあ、どうする!?」

「私は……」


 雅夫さんを生かしたい。そう思ってナイフを拾い上げる。


「ごめんね、雅夫さん、ルティス。こうするしかないみたい」


「馬鹿やめろ!」

「ティア、やめなさい!」


 私には猛攻するしかない。そしてナイフで私の腹を刺した。


「ティアあああああああ!!!!」


 雅夫さんの声が聞こえる。





「ティアああああああ!!」


 ティアはそこに倒れこんだまま、起き上がらない。

 もしかして俺を助けるために?

 こんな事が会っていいはずがない。ティアが俺の代わりに死ぬなんて。

 ティア、ティア、ティア、ティア。


「ティアの意思は尊重する。行け」

「あ、ああ」


 俺の縄が解放され、そのまま震える足でなんとか、ルティスの元へと歩き出す。


「ルティス……持っていけ!」

「分かったわ」


 そう言って、ルティスは俺の手をつかみ、そのまま外につまみ出された。


「おい! ルティス!」

「私は今あなたの顔を見れない。だから、貴方は一人で帰ってください。ほら!」

「おい! ちょっと!」


 そんな言葉が言い終わる前に俺は、俺自身の家にいた。どうやら、送り返されたらしい。


「はあ」


 もう、どうしたらいいんだ。俺は……足を引っ張ってばかりだ。ティアも俺がいなかったら死ぬことはなかった。


「なんでだよ!」


 俺は床にこぶしを思い切り振り下ろした。自分の無力さを呪って。




「これで、一対一ですね」


 そう言って、私は一歩ずつ、ルヴィンのもとへと歩みを進める。


「私、こう見えてもかなり怒っているんです。あなたが、私の親友を殺したことを!!」

「おい、それはただの復讐だ。許してくれ」

「許してくれ? そんな言葉が通用すると思っているんです!? 私はもう怒っているのに」


 許せるわけがない。こんなヘラヘラとした態度を取って、私はそんな態度を笑って許せるような聖人なんかじゃない。


「しねえ!!」


 まず私は手に闇のオーラを纏い、殴りにかかる。


「おいおい、人の話くらい聞け!」


 そう言ってルヴィンは私のこぶしに合わせて、こぶしをふるい、相殺される。そして、後ろに下がった私に対し、追撃と言わんばかりに、炎のブレスを吐いてきた。

 その炎を闇で私の前方をガードして、その攻撃を防ぐ。そして仕返しとばかりに、私も闇の砲弾を三発投げる。


「よくもティアを、よくもティアを!!」


 そして、闇の槍を数本生み出し、追撃とばかりに全部放り投げる。


「本当に許さない」


 私の心は怒りに満ちている。さあ、死んで!


「おいおい、容赦ねえ……なあ!!!」


 そう言って、ルヴィンは先の砲弾を全部手で弾き、槍を上に飛んで避ける。


「それをこちらが予期してないとでも?」


 私は地面を蹴り、その方向に向かってパンチを繰り出す。そのパンチの直撃により、ルヴィンは後ろへと吹っ飛んだ。


「はあはあ、これで勝った?」


 そう、ルヴィンの方を見ながら言った。


「これで……仇は討てたの?」

「ふふふ、これで終わりだと思ってるんじゃねえよな? 俺をそこらの雑魚と一緒にすんな、俺はルヴィンだぞ。あの、戦後最大のテロを起こし、数百な人を殺した、この世でいちばんの悪人だぞ」

「でも、貴方はその記憶がないのよね?」

「ああ、そうだ」

「それに自分が犯した罪で威張るなんて小学生みたい」

「……言わせておけばああああああ!!! 俺の本気を見せてやる!」


 そう言って、ルヴィンはその姿を変えた。その先の姿は弱体化したように見える。なにより、人間の姿に見える。だが、その体から溢れんとばかりのそのオーラは只者ではないということを示している。

 それは私に絶望感を与えるには十分なものだった。


 こうなってしまったら私にもどうしようもないかもしれない。


 私はティアの仇も取れないまま死ぬのかな?

 いや、まだやれる事はある。


「ダークスフィア!!」


 闇の玉を五個程度空に浮かす。


「ああ? なんだ?」

「五つの玉よ、共鳴して! 封印術式発動!」


 そして五つの玉から闇の光線が発射され、ルヴィンのその体を包み込む。


「いけえええええええ!!!」


 そしてルヴィンは玉の中に入る。


「はあはあ、これで!!!!」


 だが、それで大丈夫だったのはほんの十秒程度だった。すぐに、その玉は壊れ、その中からルヴィンの姿が現れた。


「驚いたぜ。まさかそんな技使えるとはよ。ただ、少し甘かったなあ! 俺にはそんなちんけな封印なんて効かないぜ」


 終わった。そう思った。もう私に取れる手なんて。

 ……ごめんティア、あなたの仇取れなかった。


 そして倒れ込む私に、ルヴィンが一歩ずつあゆみを進めて行った。

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