第25話 ティアの過去

「ねえ、なんで泣いてるの?」


 私は、そう花畑の真ん中で話しかけられた。見知らぬ人に。


 私はずっと不安だった。気が付けばこの花畑で目覚めた。見渡す限りの花畑があり、その中で沢山の羽の生えた可愛らしい少女たちが飛んでいる。


 そんな中、女神さまに前世で善行を積んだから天使に選ばれた、私たちの仕事の手伝いをしてほしい。そんな事を言われたが、そんなことを言われても意味不明だ。だって、記憶もないのだから。


 そんな中、一人の女の子が話しかけてくれた。


「ねえ、なんで泣いてるの?」と。


 私が何も答えらえられずにいると、「やっぱり不安だよね、あんたも」と言われた。ということは彼女も不安だという訳なのか。


「私もさ、不安なのよ。だからここで友達にならない?」

「友達?」

「うん。仲間は多い方がいいでしょ?」

「友達から仲間に変わってない?」

「されはツッコまないでよ」

「ふふふ」


 さっきまでの不安な気持ちが変わった。さっきまでの気持ちが嘘かのように。

 楽しいな。


 それから私は毎日ルティスと一緒にいるようになった。ルティスと一緒にいつも女神さまの手助けをして、毎日笑って過ごしていた。

 その中で楽しい生活を過ごしていた。

 私はその時、楽しい日々がずっと続くと思っていたのだ。



「ルティス、ごめん。私女神に選ばれちゃった」


 そう、ルティスに伝えた。

 正直伝えるのが怖かった。何しろ、私とルティアは友達であり、仲間であった。


 だが、女神に選ばれるのは一人だけ。そのため切磋琢磨して互いを高めあっていた。


 そんな中、私が先にルティスより先に選ばれてしまった。


 女神の特権は、そう、現世に自由に行けること。そのため私たちを含めた多数の天使は女神を目指していた。


 だからこそ伝えるのが怖かった。

 私がルティスに勝った。それだけではあるのだけど。


「何よごめんって! 私を哀れに思ってるってこと?」


 そう強い言葉が返ってきた。私はそれに対して何の言葉も返せなかった。

 そうか、私がルティスに対して憐みの気持ちを抱いているのかと。

 その気持ちを否定できなかった私はルティスと話すことが無くなった。無くなってしまった。


 そしてルティスと疎遠になってから数ヶ月が経った時、


「これ何?」


 私はとある本を見つけた。それはタイトルにかわいい女の子の絵が描いてあり、中には可愛らしいキャラや、イケメンなキャラが日々を過ごしながら恋愛する、所謂少女漫画だった。

 その面白さと言えば、私を虜にするのに数日かからなかったくらいだ。

 そして私は人間の文化にどっぶりハマって行った。少女漫画の次はライトノベルのコミカライズ漫画を読み始めた。主に恋愛系だけだが、面白かった。

 だが、読んでいるうちに違和感に気づいた。私が知っている世界と違うと。そう思ってからは早かった。人間の生活を知るためにすぐさま人間界に飛び出したのだ。私の楽しみのために。


 そして、下界に行った時にまず最初に見つけたのが雅夫さんだった。雅夫さんがぼーとして暇そうに窓の外を見ていた。


 私はすぐに直感した。この人しかないなと。


 すぐに走り出して、雅夫さんに声をかけようとした。だが、その瞬間私の体はフリーズしてしまった。


 私はその時気が付いてなかったのだ。私が実は初対面の人に話しかけるのが怖いのが。だから私は翌日に偶然を装って雅夫さんに話しかけた。「君は運命を信じるかい?」と。私は雅夫さんが友達が欲しいと返すのが分かっていた。これも女神パワーだ。


 そして私は調子に乗った。そう、私は雅夫さんを気に入ってしまったのだ。そのまま雅夫さんを保持したくなって色々と攻めた。まるでラブコメの主人公みたいに。


 だからこそ私は雅夫さんが私に好意を持っていると知った時はうれしかった。。だけど、そのまま受けるわけには行かない。私は雅夫さんが私に好意を持っているのは謎の夢のせいだと知ってるから。だけど、数日後も雅夫さんは私への恋心が消えていなかった。


 それが嬉しかった。だから、半ば無理矢理ながら、そう言う流れに持って行ったのだ。




 私は、雅夫さんに大まかな話を伝えた。私の過去について。

 雅夫さんは少し首をひねった後、「なるほど」と一言言った。


「なるほどって何よ。もっと大きな反応あるでしょ」


 私はまたふざけ口調で雅夫さんに言う。


「いや、悪かったよ。ただ、分かったからなるほどと言っただけだ。俺は天界の内容も知らなかったわけだし、そこで何があったのかわからなかった」


 そう言って雅夫さんは私の頭をなでなでしてきた。


「え?」


 私はその行動の意味を上手く取れなくて、そう呟いた。


「いや、ティアもティア成りに頑張ってるんだなって」

「何よそれ!」


 とは言ったが、頭なでなでは普通にうれしい。まるで少女漫画みたいだし。


「これで、私たちは付き合うってことでいいよね」

「あ、ああそうだな」

「じゃあ! 付き合おう!」


 そう言って雅夫さんの手を取った。雅夫さんは照れたような顔をしている。正直その顔がかわいい。


「じゃあ、これからどうしよう?」


 付き合うと言っても私には少女漫画とラノベの知識しかない。どうすればいいのだろうか。そしてそれは雅夫さんも同じだろう。何しろ……雅夫さんには友達がいなかったのだから。そんなわけだから無言の時間が流れるのも当然だ。少し気まずくて叫びたくなってしまう。


「そうだなあ」と、雅夫さんが沈黙を破り、


「これまでの延長上でいいんじゃないか?」


 と、言った。


「だって、いきなり恋人らしいことって言われても分からねえだろ」

「うん。そうだね。大好き雅夫さん!」


 と、私は抱き着きに行った。


「おい、ティア」

「だってもう恋人同士だもん。これくらいいいでしょ?」

「ま、まあそうだな」


 と、雅夫さんがきまり悪そうに言った。たぶん、俺が好意をもってたんじゃなかったかとでも思ってそうな言葉だ。


「ティア!!」


 その時に、ルティスが飛び込んできた。


「なんでよ! いいところだったのに」


 タイミングが悪すぎる。ハグしてる時に来ないでほしい。


「力を貸して」

「なんで?」

「極悪人の魂が暴れた」

「ええええ??」


 私が聴いている話によると、そんな事例過去になかったはずだけど。


「とりあえず来て?」

「おい、ティア。どういう事なんだ?」

「それは後で言う。非常事態だから行くね!!」


 そう言い残して私は出発した。極悪人の魂を倒しに。雅夫さんを置いていくのは正直申し訳ないが、もし連れて行っても足手まといになるだろう。

 それならば家で待っていてもらう方がいいという判断だ。

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