第23話 女神様と山登り

 そして勉強を教えるが、昨日と同じく勉強効率が良さそうでよかった。しかし一つ、やはり裕美にすごく見られている。

 こんなに見られたら真里に何かを勘ぐられてしまうじゃねえか。

 そんな感じで困った感じの顔をしてたら真里に「どうしたの? 何か具合悪いの?」と訊かれた。

 案の定だ。


「大丈夫だ何もねえ」


 そう、言い訳まじりに答える。その隣で裕美が少し笑っているが、無視して「それより勉強に集中しろ」と、二人に言った。


「隠さないでよ。私心読めるんだから」

「ん? 心を読むっていうのは人間じゃない気がするけど、それはどうなんだ? 女神っていうのを隠してない気がするぞ」

「でもそれを言うってことは何かやましいことでもあるんじゃないの?」


 今日に限って真里の勘が良すぎる。


「それよりも勉強しろ」

「あ、また逃げたー!」


 そう言って真里は俺の頭を叩いてきた。それを見て裕美がこっそりと笑ってる。

 嫌な女だ、こいつ。


 そしてそんな感じでなんとか自習時間が終わった。だけど一つだけ分かることは、裕美が少し嫌な女だと言うことだ。


 そして学校もあっという間に終わった。真里を意識してしまって大変だったが。とはいえ、終わった後は山登りをすると言う約束をしている。ここでは真里を意識しないようにしないと。


 そして学校を出る直前「頑張ってね」と、応援されてるのかよく分からない言葉が裕美の口から出た。

 これはどういう言葉なのか分からん。ただ俺が思うのは、俺を見て明らかに楽しんでいると言うことだ。

 どうせ、山登りも浩美に監視されるんだろうな。女神パワーで。



「山登り楽しみだね」


 そうティアがルンルン気分で言う。ティアの足は早く、追いつくのが精一杯だ。

 まだあの夢の事が残ってはいるが、だいぶ払拭してきた。

 まだドキドキが軽く続いている程度でもう大したことはない。

 そしてついて行くこと十分。


「もうワープしていい?」


 そう言ってきた。この忍耐力の無さめ。


「もう少しがんばれ。最初あんなに走ってたのなんだったんだよ」

「だってー、疲れたんだもん」

「疲れたって、もう少しだけ頑張れよ」

「えー、面倒くさいなあ」

「それがお前の選んだ道だろ」


 人間の暮らしを体験するという道を。


「そう言えばさあ」

「なんだ?」

「雅夫さんって私のことが好きなの?」


 いきなりぶっこんできやがった。心を読んだのか、それともルティスから教えられたのか?


「動揺してるよね。やっぱりルティスの言う通りかあ」


 後者か。あいつやってくれたな。


「答えないってことはそうなんだね。心を読んでもそう言う感情しか見えてこない」

「……じゃあ、どうなんだ?」

「何もしないよ、だってどうであっても雅夫さんは雅夫さんだから」

「そうか……」

「それでね、雅夫さん。私こういうのにも憧れてたの」

「……それは」


 その手に持たれていたのは、少女漫画だった。まさか、この状況すらも利用しようというのか。


「だから、付き合ってあげてもいいよ。私そう言うの経験したいし」

「いや、待て、今日お前のことを意識しちゃうのはただの気の迷いかもしれない。それにもし俺たちがそう言う中になったとしても、その漫画みたいなことにはならないぞ」

「え? そうなの?」

「ああ。だから今日のところは忘れてくれ」


 俺とティアはただのWINWINの関係。俺たちはそういう仲になるわけには行かない。


「じゃあ、明後日あたりに心探らせてよ」

「なんで心を探られなきゃいけねえんだよ」

「だって、話してくれないんだもん」

「女神の力に頼るな」

「頼るよ。私は正直に言ってほしいだけなんだから」


 そう言ったティアの顔は真剣なものだった。いつものふざけた感じのティアはもういないらしい。


「だからさ、お願い」

「分かった。心を探られる前に正直に言うよ。……その時はな」


 そう言ったのを聞いたティアは「じゃあ、頂上に行こう」と言って、ガンガンと進んでいくのだった。


 そして、ティアは平常に戻った、いつもの男女の距離感が分からない感じに。手をつながれても俺がドキドキするだけだぞと言いたいが、そんなことを言える訳もなく、ドキドキしながらティアと手をつなぎながら登った。


「頂上到着!!」


 着いた瞬間にティアが叫んだ。


「ほら雅夫さんも」

「おう。そうだな。到着!!」


 ティアの声量に負けないくらいの声で言う。


「いいね雅夫さん。楽しそうな感じ」

「まあ、楽しいからな」


 それは紛れもない事実だ。どきどきしながらだからいつもとは違う感覚がして楽しい。


「雅夫さんにとっては今は好きな人と一緒にいるみたいなもんだしね」

「おい、それを言うな。ただの気の迷いだろうし」

「でも、そういう事じゃん。気の迷いだとしても今は好きなわけなんだし」

「それを言うな」

「えへへ、でも楽しいよね。それに町がきれいだよ。ここに来てよかったよね、雅夫さん」

「そうだな」


 そして俺たち二人で景色をじっと見る。そしてやっぱりとでも言おうか、町の景色をじっと見てるティアもかわいい。昨日の夢も相まってさらにかわいく感じてしまう。


 これが続いたらどうしよう。俺たちの関係が壊れてしまうかもしれない。

 ただそうなった時はそうなった時だ。今はこの景色を楽しもう。

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