第31話

反射的に学校の階段で手をつないだことと額へのキスを思い出してしまい、1人赤面する。あれから一週間以上経ったけど、いまだにふとした瞬間に思い出しては私の頭の中を侵食してくる。

(今日は手、つなぐのかな…。)

自分の手のひらを見つめながらそんなことを考える。想像するだけでもドキドキしてしまう。

「美恋ちゃん?」

声をかけられ顔をあげると深瀬先輩が立っていた。腕時計を確認すると、まだ待ち合わせ時間の15分前だ。思わず率直な感想を口にする。

「深瀬先輩。ずいぶん早いですね。」

「美恋ちゃんこそ。まだ来てないと思ってたから、びっくりしたよ。楽しみにしててくれたの?」

「…はい。楽しみ過ぎて、早めに来ちゃいました。」

本音を笑いを交えながら話すと、深瀬先輩もいつもの柔和な笑顔を見せてくれた。

「そっか、嬉しいよ。映画の時間にはまだ早いから、お店でも見て時間つぶそうか。」

「はい!」

私が立ち上がるのを待ってから深瀬先輩が歩きだす。せっかくのデートだから、と心の中で自らを鼓舞しながら深瀬先輩を呼びとめる。

「あの、深瀬先輩!」

ゆっくりと振り返った深瀬先輩に勇気を振り絞って提案する。

「手、つないでもいいですか…?」

深瀬先輩は驚いたように目を見開いた後、返事の代わりに私の手をとって指を絡ませた。

「いいに決まってるでしょ。今日はこれで過ごそうか。」

いたずらっぽく笑う深瀬先輩にほっとする。とてつもなく緊張したけど、思い切って勇気を出してよかった。

手をつなぎながらゆっくりと駅に併設されたショッピングモールを歩く。

「気になるお店あったら言ってね?」

「は、はい…。」

深瀬先輩は優しく声をかけてくれたけど、手に意識が集中している私は生返事しかできなかった。普段だったら飛びつくようなかわいい雑貨が売られている店や私の好みの洋服屋があっても言えずにただ歩くので精一杯だ。そんなことをしていると、あっという間にぐるりと一周回り終わってしまった。しかし映画まではまだ余裕がある。どうしようかと考えていると深瀬先輩がちょうど目の前にあるフードコートを指さして言った。

「ちょっと休もっか。歩きっぱなしも疲れるよね。」

空いている席に向かい合って座る。手が離れ、ドキドキが薄れた私は少しほっとする。手をつなぐことを望んだのは私だし嫌なわけないけど、緊張がずっと続くのは心身共に疲れてしまう。

「美恋ちゃん、先に買ってきていいよ。席番は俺がしとくから。」

深瀬先輩の言葉に甘え、立ち上がってお店の前まで歩く。待たせているからささっと決めたくて、自分で好きなものをとることができるドーナツ屋の前に並んだ。砂糖の甘い香りが鼻をくすぐる。

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