第27話
いよいよ一番大事な焼く工程だ。3枚分焼けそうなため、1人1枚焼くことになった。トップバッターは小春で、サラダ油を薄く塗り広げたフライパンに生地を3分の1広げる。綺麗な丸い生地を少し時間が経ったらひっくり返すと、こんがりときつね色になっていた。甘い香りが家庭科室のあちこちから立ちこめてくる。両面しっかりと焼き色がついたホットケーキを皿に移した小春が聞いてくる。
「美恋がやる?それとも島田君?」
「あ、私は最後でいいよ。」
「じゃあ俺やるわ。」
小春からフライ返しを受け取った島田君も、迷うことなくてきぱきと綺麗な焼き色のホットケーキを完成させた。こうも2人が完璧な焼き加減のものを完成させるとプレッシャーで勝手ながら緊張してしまう。
おそるおそるフライパンに残りの生地をすべて流しいれ、ガスコンロの火をつける。表面にふつふつと気泡が出てきたため、ひっくり返すとちっとも焼き色がついていなかった。どうやら早すぎたらしい。
「ちょっと早かったみたいだね。もうちょっとゆっくりでもよさそう。」
背後から急に声をかけられ、思わず振り返ると深瀬先輩が私の手元のフライパンを覗き込んでいた。不器用な失敗を見られてしまい、顔が熱くなる。
「美恋、なんか焦げ臭いかも!ひっくり返して!」
小春の声にあわてていびつな形の生地をひっくり返すと、きつね色をとうに超えた炭に近い黒色のホットケーキが完成していた。片面の失敗とはいえ、ダメージがでかい。せめてもう片面は綺麗に焼きたいから、裏側の様子を見るためにフライパンに顔を近づける。すると、距離感を間違えたのかフライパンのふちにおでこがくっついてしまいじゅうっと音が鳴った。
「熱っ!」
「美恋!大丈夫?」
「平気、一瞬だけだったから。って、ああ!」
熱さと少しの痛みで涙目になりながら答えていると、手元が焦げ臭い。まだ無事だった片面も炭を生成してしまったようだ。一応皿に移したものの、とてもじゃないがおいしそうには見えない。
額のやけどとホットケーキが炭になったことの両方にがっくりとしていると、背後にいた深瀬先輩が声をかけてきた。
「とりあえず、保健室行こう。やけどは冷やさないと痕になっちゃうかもだから。」
エプロンと三角巾を脱いでから家庭科室を出ると、私と同じようにジャージ姿になった深瀬先輩が廊下で待っていた。
「え、なんで…?」
「俺付き添うよ、心配だから。鈴木には話しといたから行こう。」
踵を返す深瀬先輩にあわててついていく。私の失敗が原因で不謹慎だけど、放課後の誰もいない廊下で2人きりの状況にドキドキした。
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