第21話
「板書、代わりにやってくれてたの?ありがとう。」
深瀬先輩がチョークを持ったまま立ち尽くす私のすぐ近くまでやってきて微笑んだ。私は内心ドキマギしながらも、皆の前だから必死に平静を装いつつ、会釈をしてからもともと座っていた丸椅子に戻った。
「じゃあ、力ちゃんも来たことだしこの中から決めるよ!さすがに要望全部は予算的に無理だからね!」
鈴木先輩がにこりと笑って通る声を出すと、家庭科室内に笑いが広がりつつも空気が引き締まるのを感じた。オンとオフがはっきりできる鈴木先輩はやっぱり部長にふさわしいんだろうなと感じる。
多数決の結果、王道のバターとはちみつ、それに彩りとしていちごが選ばれた。それにホットケーキミックスと卵を買ってくれば明日の買い出しは完璧だ。
部会終了後、1年は残るように鈴木先輩に呼び出された。鈴木先輩と深瀬先輩がいる黒板前に自然と集まると、深瀬先輩が話し出した。
「明日の買い出しの確認をしようと思って。ホームルームが終わったら、1階のラウンジに集合してね。遅れるとか欠席とかいう場合は必ず連絡すること。詳しいことは明日の放課後、集合したらまた話すね。質問あるかな?」
深瀬先輩が私たちを見まわす。特にないことを察すると、「じゃあ、今日はこれで解散で。お疲れ様。」と爽やかな笑顔で締めくくった。
「今日は深瀬先輩と帰らないの?」
職員室に行くという島田君と家庭科室前で別れるなり小春が言う。
「鈴木先輩と話し込んでたみたいだから、いいかなって。明日の打ち合わせとかあるんじゃないかな?」
「たしかに。3年生にしかわからない話題とかもありそうだよね、受験とか。」
小春と話しながらスマホの通知を確認するも、深瀬先輩からの連絡は特になかった。ということは、今日は別々に帰るということなのだろう。少し残念だけど、明日の買い出しで会えるから私的にはそこまで寂しくない。むしろ明日が楽しみで仕方がない。
「明日のメイクってさ、何するの?」
一応校門を出てから小春に聞く。すると小春は笑顔で心底楽しそうに話し始めた。
「本当はがっつりしたいんだけど、もし先生にバレたら面倒だからナチュラルめにいくつもり!ちょっとトーンアップするパウダーして、ビューラーとクリアマスカラでまつ毛の存在感あげるくらいかな。ちょっとしたことだけどかわいくなるよ絶対!」
小春の力説には聞いたことのない単語も含まれていたけど、とりあえず相槌を打つ。小春のメイク談義は駅に着いて改札で別れるまで続いた。よっぽどメイクが好きなのだろう、楽しそうに話す小春を見てなんだか私も楽しくなってきた。明日がより一層楽しみだ。
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