第19話
車内には初夏に近づいた夕日が差し込んでいて、日に当たっていると少し汗ばむくらいだった。座ったままカーディガンを脱いでいると、その様子を見ていたらしい深瀬先輩が話しかけてきた。
「そこ、日当たっちゃうから暑い?俺のところと変わろっか?」
「いや、Yシャツになれば大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
カーディガンをカバンにしまいながら答える。細かい気配りができるところ、また一つ好きなところが増えた。
「来週の買い出し楽しみだね。」
深瀬先輩が窓の外を流れる景色を見ながら話を振ってきた。私より頭一つ分身長が高い深瀬先輩は、私より座高も少し高くて私はいつも見上げてばかりだ。
「そうですね、実習も買い出しも初めてばっかりで楽しみです。」
「慣れると意外と面倒がる子も出てくるから、楽しみにしてくれていると企画する側としては嬉しいよ。」
そう言って笑う横顔を見ていると、心臓の動きが早まった。深瀬先輩と関わっているといつもドキドキしてしまうけど、笑顔はさらに特別なものらしい。鼓動の早さが桁違いだ。ドキドキをごまかすように口を開く。
「そ、そういえば来週末から5月ですね。ゴールデンウィーク、何か予定あるんですか?」
「ほぼ塾の講習かな。専門学校志望だけど、一応受験生だからね。」
苦笑いする深瀬先輩に、改めて年の差を感じる。今はまだ普通に会えるけど、あと半年もすれば引退してしまう現実がまた頭に浮かんだ。
「そうなんですね、私も進路考えなきゃです。進路希望調査票がもうすぐ配られるらしいので。」
「美恋ちゃんは真面目だね。まだ時間はあるんだから、ゆっくりでもいいんじゃない?1年生なんだし。」
「そうですかね…。深瀬先輩はいつくらいに進路決めました?」
「俺はもともと調理系の専門行きたいって中学生の時から思ってて。でも具体的な学校決めたのは2年の夏くらいかな。」
「そうなんですね。応援してます!」
胸の前で小さくガッツポーズを作って笑うと、深瀬先輩はありがとうと言ってまた優しい笑顔を浮かべた。また一つ知らない深瀬先輩を知ることができて、なんだか嬉しくなり胸がぽかぽかする気持ちになった。
「あのさ、まだ先の話だけど…」
「はい?」
深瀬先輩がうつむきながら話し始める。何か大事な話だろうか。
「受験が秋にあるんだけど、それが終わったらデートしよう?それまではちょっと受験準備とかで時間とるの難しくてできないんだけど…」
申し訳なさそうに眉をかく深瀬先輩に、車内だから声量に気を付けつつ答えた。
「はい!楽しみに待ってます!」
私の笑顔を見た深瀬先輩は、安心したように微笑んだ。
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