恐怖の共鳴

 フランクが捕らえられたことを知り、マッシュたち三人は、アマルの店から飛び出して町の外へ向かっていた。


「急ぐんだ!」


 町の東口にいた見張りを突き飛ばすようにして、東口から外へ出たマッシュたちは、すぐにフランクを取り囲むグランドたちと遭遇した。


「異種族だ!」

「異種族の一味が現れたぞ!」


 複数の声があちこちから上がる。フランクを取り巻いていた男たちが立ち上がり、声を高く上げた。東口を守っていた見張りも後ろから追いかけてくる。


「フランク!」

「フランクさん! お待たせしました!」

「みんな!」 


 フランクは三人の姿を見ると、張りつめていた緊張がほぐれたのか、少し安心した表情を見せる。


「フランクを解放してもらおう!」


 男たちの先頭に、グランドが立ちはだかった。


「そういうわけにはいかない。おまえたちを逃がすわけにもな!」


 フランクは地面に縛りつけられていた。背中に乗って、農具を突き刺している者もいる。真珠は巻きつけられた複数のロープや地面に打ちつけられた杭を見て、自分が傷つけられているほどの苦しみを感じて悲鳴を上げた。


「どうして! どうしてこんな酷いことを!?」


 グランドや見張りの男たちは、そう言う真珠の姿を見て驚いた。


「わたしたちがいったいあなたたちに何をしたって言うの!?」


「パール!?」


 グランドが一瞬何もかも忘れて立ち尽くした。真珠をただ見つめる。


「彼女はパールじゃない!」


 真珠が異世界の少女であることは、エルセトラの住人にとっては誰にも明らかだった。それでもグランドを含め、その場にいたすべての男たちが戸惑いを見せる。あまりにパールにそっくりなこの異世界の少女に、グランドが目を見開いて無言で立ち尽くしている。


「か、彼女も捕まえるのか? おい、どうするんだ」


 見張りの男の一人がおどおどとグランドに訊ねた。戸惑う彼らに指揮する者がいない。


「何をビビっているんだ! 全員捕まえろ!」


 グシャンが叫びマッシュたちに向かっていった。


 マッシュは巧みに男たちを交わしフランクに向かって駆ける。

 クルックスも怯えながらも空を羽ばたき男たちを撹乱する。

 真珠もフランクに駆け寄りその縄を解こうとする。


「真珠! 後ろ!」フランクが悲鳴を上げた。


 真珠の背後から追いかけて来たグシャンに、真珠は強引に地面に抑えつけられた。


「痛い! 離してよ!」


 暴れる真珠に、グシャンがのしかかる。後ろ手に組み伏して、腰からロープを取り出し縛り上げようとした。


 暴れる真珠に、グシャンがのしかかる。後ろ手に組み伏して、腰からロープを取り出し縛り上げようとした。


「やめて! やめて!」


 フランクが叫んでいる。


 真珠を助けようと、クルックスがグシャンの視界を邪魔するように、顔の周りで暴れた。しかしグシャンの側にいたカウアドにまたたく間に捕らえられた。


「お願いだから乱暴しないで!」


 フランクの叫びが一層強くなる。


 マッシュも複数の男たちに邪魔されながらも、なお必死にフランクへ近づこうとするが、何人もの男からの攻撃の末に、最後はとうとうグランドに捕まって、地面に叩きつけられた。


「グハッ!」


 誰も聞いたことのないマッシュのうめき声がした。マッシュが体を押さえて転がっていく。


「縄を持って来い!」


 グランドはマッシュに近つくと、背中からつかみ上げた。


「やめて!」


 フランクの悲鳴の高鳴りがマッシュたちの心をつんざくように貫いた。フランクの声は町の男たちには誰一人聞こえない。聞く耳を持たない人間にはその声は届かない。


「放して!」


 縛られそうになるのを必死で逃げようとする真珠。クルックスはすでに抑えられて袋に詰め込まれそうになっている。マッシュは三人の男に囲まれて、今にも縛り上げられようとしていた。町の男たちは喜び叫ぶ。


「フランク!」


 真珠たちの悲鳴がかき消されるほどに、男たちの口汚ない罵りが、辺りに重なった。


 その時だった……。


 狂気と混乱と恐怖の中フランクが大きく上半身をのけ反らせ静止した。その叫び声は音も無く、その波紋は振動となって、空に大地に広がっていった。頭上にあった太陽は厚い雲で覆われ稲光とともに空が唸り始めた。


 グランド始め、その場にいた全員が恐怖で身を震わす。


「うわあ! なんだこれは!」


 空が唸り、数えきれない稲光が光り続ける。


 男たちが混乱し始める。マッシュたちを押さえていた腕が離された。


「これはフランクの力なの?」


 急に放された真珠がドサッと地面に膝をついて天を仰ぎ見た。


「こんなものは見たことも聞いたこともない」


 地面に落ちるように倒れたマッシュが肘をついて空を仰ぎ、答えて言った。


 その時小さな稲妻がひとつ、フランクの横に落ちた。


 その最初のひとつを合図にするように、ひとつ、またひとつと稲妻が落ち始め、フランクを囲むように地面に突き刺さっていく。地面が幾箇所も黒い煙を上げた。


 男たちは完全に混乱し、怯え、逃げ惑っていた。


 その異常事態は町にいる人々までも伝わった。町から悲鳴が上がる。怯えながらも外の様子を仰ぐ。


 その時、町から飛び出してくる人の中からノランとアマルが必死の形相でこちらに向かってくるのが見えた。


「無事か!? これはいったい? どうなってる」


 稲妻が徐々に、その数と威力を増してくる。


「おまえたちの仲間なんだろ!? なんとかしてくれ!」


 グシャンがマッシュたちに向かって叫んだ。


「助けてくれぇ!」


 窮地に瀕した時の傲慢さとはこういうことなのか。仲間同士で打ち倒すように町へ逃げだそうとする者がいた。自分たちの犯した罪も顧みず勝手なことを口走る者もいた。


 しかし天から突き刺さる稲妻から逃れる安全な方角などない。そこにいた多くの者が、逃がれようとする気持ちの行き場を失っていく。


 その矢先、とても大きな稲妻が一本大地に突き刺さった。


 その稲妻は大地をからめとり、そこに大きな穴をぽっかりと開けた。


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