第14話 小蜘蛛の群れ
緋色の外骨格を身に纏い、赤い複数の目が俺たちを睨みつける。蜘蛛の巣に張り付く多脚は鋭く槍のように尖っていた。
「早いところ倒しちゃいましょう!」
この場で誰よりも早くカンナが動く。
「
ルリが事前に唱えていた詠唱もなく、カンナはいきなり魔法を発動する。
渦巻く風を身に纏い、勢いよく跳躍して単身、緋緋色蜘蛛に迫った。
そんなカンナに対して、緋緋色蜘蛛は当然攻撃を放つ。複数の糸がカンナに向かって放たれた。
「危ない!」
「危なくないでーす!」
カンナは身に纏う風を巧みに操り、迫る糸の悉くを回避してみせる。
「そーれ!」
至近距離にまで至ると剣を抜き、風を纏う刃で緋緋色蜘蛛の胴体に一撃を見舞う。その一線は緋色の外骨格を削り、傷を刻みつけた。
「かったーい! でも、ここに張り付いてれば攻撃し放題だよね! もう一回!」
蜘蛛はその体の作りから、背中に攻撃することができない。あの位置を維持できれば、たしかに攻撃し放題だけど。
カンナに攻撃され、緋緋色蜘蛛が奇怪な叫び声を上げる。
次の瞬間、緋緋色蜘蛛の巨体を覆い尽くさんばかりの小蜘蛛が現れた。
自分の弱点がわかっていて、それを補う術をちゃんと用意していたんだ。
「カンナ、離れろ!」
「わかってまーす!」
多勢に無勢。カンナは素直に後退し、小蜘蛛が放つ無数の細い糸から逃れた。
「うじうじゃいて、気持ち悪ーい」
言いながら地面に着地。
カンナが帰還する。
「あんなに小蜘蛛が……」
「……二人共、小蜘蛛の相手を頼んでもいい?」
「え? 小蜘蛛の対処は必須ですからいいですけど……損な役回りですよ?」
「いいんだ、それで。人間を目指してるんだから、それが叶うように強くならないと」
自慢じゃないけど、これまで何度も死地を超えてきた。進化も二度遂げた。でも足りない。戦闘の経験が圧倒的に。
それを得るためなら、どんな役でも引き受ける。
「私的には楽なほうでラッキーって感じ」
「よし、じゃあ文句なしだな。緋緋色蜘蛛は任せてくれ」
「お願いします!」
「はーい!」
小蜘蛛たちは尚も増え続け、緋緋色蜘蛛の体から糸を伝い、地上に大群として降りてくる。
あれらの相手は二人に任せ、俺は足元でスキル【緑化】を発動する。
木を斜めに生やし、その勢いで大跳躍。
迎撃として吐かれた糸はスキル【結晶】で遮った。そして結晶の盾に粘着した糸を逆手に取る。
結晶の盾を高速で横回転させ、粘着した糸を紡ぐ。複数の糸一つにし、螺子のように緋緋色蜘蛛の口に蓋をした。
直ぐに糸が噛み千切られるだろうが、これで一時だけ緋緋色蜘蛛からは糸が飛んでこない。
後は背中の小蜘蛛だけど、こっちの対処は簡単だ。
スキル【火炎】で灼熱を浴びせ、蜘蛛の子を散らす。
緋緋色蜘蛛自体に大したダメージは通らないだろうけど、未成熟な小蜘蛛には致命的だ。
更に火炎は範囲を広げ、緋緋色蜘蛛の足場である巣を溶かす。敵の土俵で戦う義理はない。
「落ちろ!」
金切り声のような声を上げながら、緋緋色蜘蛛は地面に落ちた。ここからが本番だ。
緋緋色蜘蛛は直ぐに別の巣へ逃げようとするが、そうはさせない。
「逃がすか!」
スキル【包帯】と【緑化】を発動。
伸びた包帯が緋緋色蜘蛛の多脚を絡め取る。ただあの巨体相手に綱引きをするつもりはない。
周囲に木々を生やして巻き付け、その身動きを封じた。
これでもう逃げられない。
「よし!」
一気に畳み掛けるために駆け出し、距離を詰める。スキル【剣製】と【怪力】を発動して大剣を握り締めた、その瞬間。
目の前が緋色に染まる。
「なっ!?」
火、炎だ。
緋緋色蜘蛛が火を噴いた。
悪態をついている暇もない。
即座にスキル【結晶】を発動し、身に迫る火炎から身を守る。
あらゆる攻撃を跳ね除けたクリスタル・タートルのスキルだ。火炎は完全に阻まれ、こちらは無傷で終わる。
だけどまさか蜘蛛が火炎を吐くとは。
「くそ、包帯が」
火炎は吐き尽くされたが、緋緋色蜘蛛を繋ぎ止めていた包帯が焼き切れた。
これではまた巣に戻られてしまう。
と、思ったのだけど。
「戻らない?」
緋緋色蜘蛛は蜘蛛の巣に向かおうとはせず、口腔から火の粉を漏らす。
「――そういうことかよ!」
火炎が有効な攻撃だと気づかれてしまった。
巣を溶かしてしまいかねない火炎を使うには地上に留まるしかない。
緋緋色蜘蛛は火炎を内包したまま糸を吐き、先程俺がやったように紡ぐ。
糸の成分を変えたのか、炎上するそれはまるで炎の鞭だ。
「真似しやがって」
薙ぎ払われるそれを後体して回避し、スキル【水操】を発動。今一度、振るわれた炎の鞭をウォーターカッターで断つ。
同時に消化を済ませて脅威を排除し、距離を詰めべく駆ける。
「今度こそ!」
スキル【怪力】を発動した直後のこと。
視界の端に赤色が映る。
赤、炎、そこまで思考が至った所で、スキル【結晶】を発動して左側面に結晶の盾を張る。
それとほぼ時を同じくして、炎の鞭が結晶の盾を叩いた。
二本目だ。
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