第5話 嫌われている

 先ほどの千歳に比べて、ひびきの魔法覚醒はスムーズだった。魔法陣にさっと入ると、すぐに祈りの姿勢をとると、瞬く間に身体が光り始めた。ひびきは体の発光が終わると、国王に言われるより前に、先ほどの黒いボックスに手を乗せた。


 その流れるような動きを見て俺は、

(いや、もう少しリアクション取れよ)と思ってしまう。前から感じてはいるが、何をしても反応が大きい千歳とは正反対で、クールでせっかちな性格をしていると改めて感じた。


 箱から出てきた紙は4枚もあった。国王はその紙を見ると再び嬉しそうに声を上げた。

「おぉ、これまた冒険の役に立つ能力が出おったわ。しかも四種類も。かなりバランスがいいぞ。ほれ、見てみろ」

国王がひびきに手渡した紙を再び俺は覗き込んだ。

そこにはこう書かれていた。


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魔法名 【火属性魔法】 ランク B級

 炎を生み出し、操る魔法。威力、大きさは使用者のマナの量に左右される。火属性が苦手なモンスターには効果的。



魔法名 【水属性魔法】 ランク B級

 水を生み出し、操る魔法。威力、大きさは使用者のマナの量に左右される。水属性が苦手なモンスターには効果的。使用者のレベルが20を超えると個体や気体に形状を変えて使用することもできるようになる。



魔法名 【雷属性魔法】 ランク B級

 電気を生み出し、操る魔法。威力、大きさは使用者のマナの量に左右される。雷属性が苦手なモンスターには効果的。



魔法名 【治癒魔法】  ランク B級

 生物の生命エネルギーを高め、対象の治癒力を強化する魔法。回復量、回復速度は使用者のマナの量に左右される。対象が離れた距離にいてもオーラを飛ばして治療できるが。身体を直接さわる方が遥かに効率が良い。


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(属性系魔法三種に治癒魔法? まじか!)

 説明書きを読むと、俺は羨ましい気持ちが溢れ出した。属性魔法と言えば、男であれば誰しも一度は夢見る魔法だろう。かくゆう俺も、小学生の始めから中学の終わりくらいまでの間によく妄想したものだ。手から自由自在に炎や雷を放出し、気に食わない敵やモンスターを蹴散らす……。最高だ。おそらく男が使えるようになりたい魔法ランキングベスト三には間違いなく入るだろう。ちなみに一位は当然、透視魔法だ。


 俺が心の中で猛烈に羨んでいると、国王がひびきに向かって言った。


「早速使ってみたらどうじゃ? 属性魔法は基本的に手から放出される。 放出したい場所に向かって体の中の魔力を飛ばすイメージでやってみるといい」


「わかりました」

 ひびきは石壁に向かって手を伸ばした。すると手からテニスボール大の火球が飛び出し、壁に当たりすぐ消えた。

 威力は低いが、俺が妄想の中で想像してきた通りの魔法だったため。俺は尚更羨ましくて心の中で地団駄を踏んでしまう。


 その後、続けてひびきが繰り出した、電気を放出する魔法や、水を生み出して自由自在に操作する魔法は横から見てもかっこよかった。

 近くで見ていた千歳も「おぉー」とか「すごい!」など、何回も歓声を上げていた。


その様子を見て俺は、

(神様、俺は素直で正直な人間です。どうか俺にも属性系魔法をください)

と、この後にまわってくる自分の番のために真剣な祈りを捧げ始めた。


「あの治癒魔法はどうやって試せば良いですか」

「うーん。そうじゃな。誰かが傷ついていないと治癒魔法は効果が出ないしな。冒険の中で急に使うのも危険だしな。うーむ……。」

俺が祈っているとひびきがそんなことを国王に尋ね、国王は悩み始めた。確かにどうするのだろうと俺も考えていると、しばらくして国王は信じられないことを口にした。


「よし! 蒼人くんと言ったっけかな? 君、一度火属性魔法を受けてみなさい」

「えっ?」

「大丈夫だ。さっきも見た通り、大した威力はない。ほんの少し火傷するぐらいだろう。治癒魔法の練習のために受けてあげなさい」


「なんで俺がそんなことっ」

「えいっ!」

 あまりに人権を無視した提案に、俺は即座に反論しようとした。しかしひびきは間髪入れずに炎の玉を撃ってきた。


「あちぃ!!」

右手に広がる痛みに俺は叫び声をあげる!

慌てて手を見ると甲のあたりがわずかに赤くなっていた。


(こいつまじか! 躊躇わず撃ってきた! 信じられん)


「お前には人の心がないのか! 普通、まず許可を得るだろう。そして行くよー、とか合図を出すだろう!」


「相手がお前だからな。躊躇いなく打てるさ。

さぁ手を出しな、治してやる」


 まだ怒りは治らないが右手を差し出すと、ひびきは自分の右手を傷口に触れるギリギリまで近づけ、魔法を発動させた。するとゆっくりではあったが、赤くなった部分が元の皮膚の色に戻っていった。


「おお、すげぇな。本当に治った」

皮膚が回復するとともに、痛みがスーッとなくなっていったことに俺は驚いた。実験台になったのは癪だが、冒険に必要な魔法だと言うことはよくわかった。


(それにしても……。俺がひびきに嫌われているのはなんとなく分かってはいたが、ここまでとは思わなかった。まさかノンタイムで魔法を放ってくるとは。何か俺したっけ?)

 俺はひびきと出会ってからの今までのやり取りを思い返してみたが特に嫌われる理由が思い浮かばなかった。


しかし、細かいことをあまり気にしない俺は

(まぁ一緒に冒険する中で聞けば良いか)

と考え、頭をすぐに切り替えた。


 国王がちょうど次は誰にする? と言いかけたので俺はすぐに手を上げた。


 魔法陣に向かって歩きながら俺は再び先ほどの祈りを捧げ始めた。





























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