第2話 乗り気な三人

「すまんができないんだ。三十年貯めたマナを使って召喚したんだ。やり直せない。魔王を倒さなければ元の世界に帰してやることもできないんだ。頼む! 力を貸してくれ! もし魔王を、倒してくれたら。何か一つ。この世界の物を持って帰っていいから」


 くそっ、こんなに説明してもだめなのか。国王と名乗る老人の声を聞いて俺は肩を落とした。

 しかし、ここでいきなり、さっきまでひたすら単語帳をめくっていたひびきが立ち上がり会話に入ってきた。

「この世界の物をもって帰っていいって言いましたよね? どんなものがあるんですか?」


 そこに興味を示すのか。こいつ意外と乗り気なのか? っていうかこいつ敬語使えるんだな。そんなことを考えながら俺は国王の次の言葉を待つ。


「今、ここにはあまりいいアイテムはないが。ダンジョンを探索していけば様々なレアアイテムが手にいれることができる。そうだな、例えば、ただの石を宝石や黄金に変えることができる【錬金術師の杖】、様々な生き物と会話ができるようになる【万物交信機】、命さえあればどんな病気でもたちまちに治せる【エリクサー】などがあるな。他にもまだまだたくさんあるが」


「エリクサー? そんなものがあるんですか? 命さえあれば絶対に治せるって本当ですか?」

 国王が話し終わると、ひびきは、目の色を変えたように国王に矢継ぎ早に問いかける。

「それは間違いない。わが国でも何人もの人がエリクサーで不治の病を完治しているからな」

「信じられない! そんなすごい薬があるなんて!エリクサーは、どうすれば手に入るんですか? 」

 ひびきは瞳を大きく見開き、国王に迫るように尋ねている。ここまで何かに興味を示したひびきを見るのは初めだ。

「エリクサーはアイテムの希少度で言えばレベル六だ。絶対に手に入らないわけではないがかなりのレアアイテムだ。しかし、ダンジョンの最下層の方ではよく取れたという報告が入る。そなたたちがダンジョンの深奥を目指すのであれば不可能ではないだろう」

「魔王を倒したら元の世界に変えれるのは間違いないんですよね?」

「ああ、元の世界の召喚される前のもとの時間に帰すことを約束しよう」

 国王の言葉を聞くと、ひびきは小さくうなずき言葉を発した。

「わかりました。ダンジョンを攻略します!」

「えっ? お前なに言ってんだ?」

 俺は突然のひびきの言葉が信じられず聞き返してしまう。

「別にお前やみんなが嫌なら来なくてもいい。私は一人でも行くぞ」

 ひびきは、そう言うと、さっそくダンジョンに入るための準備を開始してしまう。


 この部屋の壁には様々な武器や防具が掛けられている。いくつか並んでいる棚には瓶に入った薬のようなものを数多く並んでいた。

 ひびきは屈強な男たちにそれらのアイテムの情報を聞き始めた。

「一人は覚悟を決めたようだが、君たちはどうするのだ?」

 国王は俺にそう問いかけてきた。あまりの展開に頭がついていかない。

 慌てて俺は、いまだに地べたに座り込んでいる千歳と香奈に駆け寄った。

「おい! なんか知らないけどひびきがやる気になっちゃってるぞ! 一人で準備を始めてる。二人はどうするんだ?」


「さっき、魔王を倒さなければもとの世界に帰れないってあの人言ってたよね。じゃあしょうがない。いっちょやってみますかーー」

 千歳はなにやら楽しそうに笑いながら立ち上がると、ひびきがいる方に歩いていった。

「軽いな! あいつ。事態がわかってるのか」

 千歳のあまり緊張感のなさに俺は拍子抜けしてしまう。すると、足もとに座っていた香奈も立ち上がり二人の後に続いた。

「やるってことね」

 なんだ、みんなやる気じゃないか。仕方ない。俺も覚悟を決めるか。確かに見たいアニメはあったが、別に元の時間軸に戻れるのであれば問題ないしな。ここで一人待っているのも暇でしょうがない。


 俺も覚悟を決めると三人のもとへ急いだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る