第38話 女王様からの内密の援助で異世界野外2.5次元ライブを打って逆襲を図ります

 私たちはそこで寝泊まりすることを許された。

 最初に水車小屋に入ってきて芝居の客になった中年女が持ち主のカミさんで、その口利きだった。

 次の朝、私は金槌の音で目を覚ました。

 先に目を覚ましていたイフリエが、水車小屋の戸口から外を眺めてつぶやく。

「アサミ……あれ」

 目をこすりながら起き出してみると、たくさんの職人が、宿屋の前に異世界劇団が作ったのよりも頑丈そうなステージを設営している。

「これって……」 

 間口は3間(6m弱)、奥行きは2間(4m弱)ほどで決して広くはない。

 だが、2人で芝居をするには充分だ。

 タッパ高さは1尺(約30cm)ほどだが、舞台には袖板が準備してあって、出ハケができる。

 何よりも驚いたのは、高々と掲げられた篝火と、銅鑼や太鼓といった、文字通りのタタキ音源だった。

 裏方の大将チーフらしいのが私たちに気付いたらしく、つかつかと歩み寄ってきた。

 日本式に深々と頭を下げると、ふた振りの剣を差し出す。

 手に持って見ると、ずっしりと重い。

「刃はついていません」

 そう言うなり、解読不能な異世界文字の並んだ紙きれを突きつける。

「これだけお支払いください」

 無理です、とイフリエが即答するほどの金額らしい。

 仕方なく受け取ったのを何となく裏返してみると、そこにはまた異世界の文字が連なっていた。

 イフリエが読み上げる。

「あなた方は逃亡者として追われています。身の安全は保障できませんが、プリースターに気付かれる前に、味方を増やしなさい」

 それは、表だっての手助けができないタウゼンテからの、ムチャ振りとも言うべき励ましの言葉だった。


 その夜。

 篝火の下に照らし出された薪能のようなステージの前には、どこから集まったのかと思うほどの観客がいた。

 その前で、太鼓の重い音と共に袖から登場した私は、うずくまるイフリエに語りかける。

「何者ぞ?」

 呪われた運命を語られると、私は復讐をそそのかす。

「共に参れ……我こそ魔王」

「その名は口にさせん!」 

 松明の下、高らかに銅鑼が鳴って、京劇にも似た立ち回りが始まる。

 それこそは、私たちの異世界野外2.5次元ライブだった。

  

  

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