夜半過ぎまで

瀬名那奈世

1月 はつゆめ

 初夢は家を建てる夢だった。自分の背中に大きな翼が生えて、自由自在に丸太を運んで家を造ることができた。“家を建てる夢”の意味を調べたら、運気アップのサインらしい。嬉しい。



「あー、サイアク。もう無理」



 寝癖ですごいことになっている頭をかきながら風間理玖がリビングに入ってきた。新年早々酷い顔をしている。



「おはよう。嫌な夢でも見た?」



 俺が問うと、理玖はじわっと涙をにじませて口を開いた。



「職場でめちゃくちゃ叱られる夢だった。もう嫌だ。永遠に休みがいい」



 あはは、と笑ってココアを作ってやる。テーブルに座った理玖の前にマグカップを置くと、彼は涙目のまま口をつけた。



「初夢で嫌な夢を見たらどうすればいいか、調べてみようぜ」



 俺はスマートフォンを取り出して検索エンジンを開いた。



「ん?」



 【初夢】まで打ったところで、【いつ見る夢】とサジェストが続く。気になってタップした俺は、その検索結果を見て思わず笑ってしまった。



「理玖、安心しろ」

「なに」

「初夢って二日の夜に見る夢のことらしい」



 今日は一月一日だ。



 理玖は目をまん丸に見開いて俺を見た。



「今朝の夢じゃないってこと?」

「そう」

「なーんだ」



 よかった、と胸を撫で下ろす理玖に、「明けましておめでとう」と声をかける。



「そうじゃん。忘れてた」

「うん。今年もよろしく」

「そうね、今年も、これからも」

 


 末長くよろしく、と。

 


 唇に柔らかい感触が触れる。



「ニ〇ニ四年、初キスげっと」

「……お前、そういうところだぞ」



 なにが? といたずらっぽく瞳を細めて、理玖はキッチンに消えた。冷たい手のひらで火照った頬を冷やしながら、俺は理玖のかりんと細い背中を見送った。

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