様々な怪奇には理由あり

羊丸

第1話 画家の能力者

  雨が荒い夜の中ある夫婦が家の中で深刻なことを話し合ってた。


「なぁ、本当にそれしか方法がないのか。俺は、娘と同じく、君を失いたくない」


 夫は涙を流しながら妻に言った。


「嬉しいわ。だけど、あの子を助るにはこれしかないの。だから、お願い、やらせて。あの子のことを助けたいの」


 妻は夫の手を掴んで言った。必死の思いに夫はわかったと返事をした。


「あの子のことは、私が責任を持って守る。もちろん、このことは一生だ」


 夫の真剣な眼差しに妻は安堵の表情を見せた。


「うふふ、あなたが夫で本当に良かったわ」


 妻は涙を浮かべて言うと、「それじゃあ、いってくる」と一言言うとある人物の名前を


「なんでしょうか」

「……お願いがあるの」


 妻の言葉に、その人物は悲しい表情を見せながらもわかったと言った。





 生暖かい春の中、人々が会社やバイト先に向かっていると1人の老人が肩を痛めていた。


「うぅ、なんだろうか。変なものを連れてきてしもうたかのぉ」


 そう思っていると、背後から「おばあちゃん」と女性の声が聞こえてた。


 振り返ると、その人物に笑顔を見せた。


「あら。星空ちゃん」


 老人が読んだ人物は長い髪を一つ結びさせ、黒いジャケットに下には白いシャツと共に黒いズボンを着こなしている中川星空せいらが父親に頼まれた買い物の袋を持ったまま立っていった。


「まー、また一段と。最近どう? 依頼とかされるの?」

「まぁ、そこそこね。ちなみになんだけど、おばあさん。この前火事にあった家の前を通ったでしょ」


 その言葉に老人は「えぇ」と返事をした。


「やっぱり、変なのが」

「そうね。でも、軽いものよ。ただ単に付いただけ。そうだ。これを」


 星空はポケットの中に入れていた塩を老人の手に渡した。


「入る前にこれを体に掛けてね。そしたら大丈夫よ」

「わかったわ。ちょっと待っててね。お金を」

「そんなのはいいわよ。じゃ! 私はこのまま帰るね」


 星空は老人がお財布を出すのを阻止すると、家に向かったのだった。


 星空は住んでいる人の街のほとんどが知っているほどの霊能者。勿論ホームページにも自分の仕事場を乗せているため、さまざまな方面から依頼を受けることがある。


 ホームページには自分の仕事のメールと共に電話番号を記載をしている。一応のためにだ。


 そして、霊が見える他にもある人物が彼女に憑いている。


「ふぅ、しかし。最近はあまりだけどここら辺だとまぁまぁ変に騒がなくなったね。カルネージ」


 その声と共に星空の後ろから黒く、フード付きのボロボロのマントを被り、骸骨の右目に傷を追っている。星空の相棒の、死神のカルネージが顔を見せた。


「あぁ、まぁそれだけお前が説得をさせてきたおかげだ。お前の修行の成果で頑張っている証拠だぞ」

「そうかしら。あなたのおかげでもあるのよ」

「そう感じてくれるだけも嬉しい」


 この死神は亡くなった母親についていたものだった。最初、小さい頃に初めて会った時は驚きを感じたが自分はあまり人との接触することが苦手なため、両親と同じくとても話しやすい人物だ。


 亡くなった際に母親から譲り受けたような感じで着き、現在の状態。もちろん父にも見えているため、自分たちにとっては家族として当然だった。


 家に着くと、父親の一郎は笑顔で「おかえり」と言った。


「買い物ありがとうな」

「ううん。気にしないで父さん。簡単なことさ」


 星空はそういうと買い物袋に入っている食べ物を冷蔵庫の中に入れた。


 一郎は街中では知られているほどの雑貨店を行っており、ほとんどの街中では有名なほどの人物だった。


「あっ。そうだ星空。さっきお前宛に電話があったんだ」

「電話?」

「あぁ。その電話相手なんだが有名な画家さんからだったんだ」

「有名な画家?」


 一郎はテーブルの上に置いてあった雑誌を星空に見せた。


 見ると、短い髪をさせ、黒いネクタイと白いシャツを着ている写真が載っけられていた。


 名前は井上千夏かずな。若き画家として現在有名な人物だった。


「この男性から?」

「あぁ、男性というよりも。この人は女性なんだ」


 一郎の言葉に驚愕した。


「えっ! そうなのか」

「うん。実はこの人の展覧会に行った時にあったんだが、最初は男性かと思ったら声を聞いた瞬間に女性だということがわかってさ。もぉ本当にびっくりしたよ」


 一郎の言葉に星空はもう一度雑誌を見たが、男性に見えてしかたなかった。


「ちなみにこの人はなんの要件で電話をしてきたの?」

「それがなんだが、星空に取材をさせてほしいだそうだ。単に依頼でもなんでもなく」」


 一郎は不思議そうな表情を見せて言った。カルネージは「本当にそれだけか」と父親に質問をした。


「私の中の画家じゃあ、不思議ね。取材だなんて」

「なんでも取材を聞いて、その人の感情を絵にするらしんだ。おまけに君が取材をしてくれるなら交通費代出しますのでお願いしますだそうだ。どうする」


 交通費まで出すほど取材をさせてほしいのかと星空は思った。


 少し考え、特にカルネージにも危害とかは加られないはずなため特に何も起こらないはずだろうと思いその取材に応じようと考えた。


「電話番号は」

「あぁ、これだよ。もし帰ってきたら掛け直してほしいと言われたからね」


 一郎は星空に紙に書いた電話番号を渡した。


 電話をしようと固定電話に行こうとすると、父親が声をかけた。


「星空」

「ん? 何?」

「体調、大丈夫か?」

「大丈夫だよ。心配ありがとうね」


 星空の言葉に父親は「そうか」と笑顔になると袋の中に入っている食べ物を冷蔵庫の中に入れるために向かった。


 父親は最初、霊能者になることをとことん反対派したものの自分の説得の言葉が聞いたのか諦めてなることを許可してくれた。


 早速家にある固定電話でその電話番号をかけた。2回のコールが鳴ると、電話から女性の声で「もしもし」と声が聞こえた。


「先ほど父親が連絡いただいたものです」

「星空さん。折り返しの電話をしていただきありがとうございます」


 声を聞いた星空は女性だと認識をした。


「いえ、あなたが私に取材をしたいということをお聞きしたのですが、いいですよ」


 星空の返事に千夏という画家の喜びの声が聞こえてきた。


「それは大変嬉しいです! でしたら曜日なのですがいつ頃が大丈夫でしょうか」

「あぁ、そうですね」


 カルネージは事務所の方に掛かっているカレンダーを手に取ると星空に渡した。特に何も予定はなく、明日は休みの日だった。


「明日はどうでしょうか」

「明日ですか。えぇ大丈夫ですよ。むしろすぐに会えるなんて嬉しいことです。それでは、住所をお伝えいたしますね」


 住所を聞きながらカルネージが撮ってきてくれた紙でメモをした。そして時間を決めると失礼しますと言い、電話を切った。


「まさかあの有名な画家さんが隣町にいるなんてな」

「あぁ、だがなぜこの画家は君に取材と申し込んだんだ。あった事もない」

「きっとどこかから聞いたんじゃないの? でも、一応彼女のことは知っておいた方がいいわね」


 そう言いながら仕事場として使っている離れに向かった。


 離れは昔、母親が使っていたが今は自分の職場として使っている。


 専用の鍵を開け、中には沢山の小説や妖怪や幽霊に関することが棚の中に並べられ、目の前にはお客様用のソファと自分用のソファがある。左には机が置かれている。


 窓は机の後ろのみで、軽くだが光が差し込んでいる。


 パソコンを開き、千夏と検索した。すると、画像欄に彼女が描いた絵が続々と出てきた。


「これが彼女の作品か、なかなかいいな」


 背後で見ていたカルネージは彼女の作品を見て関心の言葉を出した。同じく星空も同じ感想だった。彼女のタッチはとても独特であり、心が引き込まれるほどの作品が沢山あった。


 そして彼女の作品を欲しがる人は沢山いるらしい。結構な金持ちたちが彼女に自分を描くように言われたりすることもあるそうだ。


「この前の絵画では3億で落とされたものもあるらしいな」


 星空は調べながら口にした。


 千夏は5歳の時に親を亡くし、母親の祖母に引き取られ、18歳で画家デビュー。数々の作品を生み出しては個展を開くほどだと言われた。


 おまけに自画像を依頼すると共に依頼人の描く際での要望までも引き受けてくれるというフリーランスのような画家と言われていた。


 人と共に背景もあるが、特に多いのは感情表現の作品。どれもが誰も魅力を感じられるほどだった。


「すごいな、怒りという作品は」


 怒りという作品には赤い絵の具と共にオレンジ色、淡い赤などを混ぜて表現させている。


「しっかし、このような作品を生み出しているやつがどうして私なんかに」

「さぁ、そこは謎だ。だが、一応気をつけたほうがいいな」


 カルネージは彼女の写真を見ながら呟いた。


「えぇ。そうね」


 星空は思わず口にした。




 次の日、父親に出かけることと共にもしも依頼の電話が来たら電話番号をメモしておくように言うと鞄を抱えて出かけた。


 場所は隣の箱根町。そこから30分以上掛かるが軽めの運動だと思いながら歩いて行った。着いた時流石におぉと声が出た。


 目の前には長い階段があり、その奥には大きめの家が立っていた。


「ここはすごいな」

「そうだな。どれだけの絵があるんだろうな」


 カルネージは家を眺めて言った。


「それじゃあ。行くとしますか」


 そう思いながら階段を上がり、扉の前に立つとインターホンを押した。押すとすぐに扉が開かれた。


 肩を乱し、長袖の茶色の服に白いズボンを着た千夏が立っていた。


 星空のことを見ると千夏は笑顔で出迎えてk流えた。


「ようこそ星空さん。お会いできて嬉しいです」

「あぁ、はい。改めましてこんにちは。中川星空です」

「私は千夏です。それではどうぞ」


 千夏は星空を家の中に入れた。そばには靴を入れる棚と傘と置く道具。奥にはもう一つの扉がある。


 開けるとそこはリビングらしいのかあるのは二つだけのソファとテレビに、さまざまな種類の本が入っているだけであり、あまり物が置かれていない。


「あまりものは置かれていなのですか?」


 星空は周りを見渡しながら思わず呟いた。


「えぇ。必要最低限なものしか置かれていません。服とか、そのほか画材と絵は上なんですけど、近くにある離れの家に」

「離れ? ここから見ると離れらしきものは」

「あぁ、隠れているからそう簡単には見えませんね。できたものは早々に担当場所に送ったりしていますよ」

「へぇ、ミニマリストなんですね」

「はい! あっ、よろしければ見ますか。私の作品」

「えっ。いいんですか」

「えぇ。多少散らかっていますが、2階にありますのできてください」


 千夏はそう言うと星空を連れて2階に向かった。2階にいくと、奥の部屋に行き、扉を開けた。


 瞬間に多少の独特な匂いがしてきた。見ると、画材ともに作品が3作置かれている。さらに奥を見ると作品が2作置かれ、まだ描いているのかイーゼルの上には色が塗られている作品もある。


「すごいですね。どれも表現が」

「お褒めいただきありがとうございます。こっちの作品はまだまだなんですよ。これはあともうちょっとだけ」


 千夏は言いながら絵画をなぞった。まだ乾いていないのか千夏の指は汚れた。


「あれ。汚れましたよ」

「あぁ、いいですよ。どうせこれはもう一度塗り替えるんです」


 千夏は自分の指先が汚れても愛おしそうに見つめていた。隣ではカルネージは作品に見惚れているほどだった。


 星空は持っていたティッシュを渡した。


「これで指でも拭いてください」

「あぁ、これはありがとうございます。それではお茶でもしましょうか」


 千夏は笑顔で言うと再びリビングに向かった。


 ソファに座り、千夏はお茶を入れてくると言ってキッチンの方に向かった。


 星空は画家は家も芸術的にしているのかと思ったがそうではないのもいるんだなと思った。


(だが)


 星空は思わずそばにある箱に目を向けた。


(何だあれ。もしかして画家が使う絵の具が入っているのか)


 そう思っていると、千夏がコーヒーをいれたカプを目の前に出した。


「それじゃあなんですが、あっ。星空さんは気楽のままでいいですからね。私の質問に軽く答えるだけで」


 千夏はそう言うと、机の下からメモとペンを取り出した。


「あぁ、確か取材でしたっけ? 何か貴方の仕事に役立つのでしょうか」


 思わずそう言うと、千夏は「もちろん役に立ちます!」と大声を出した。


「私が描いているのは表現、つまりその時の感情をそのまま絵として書き出すことが仕事です。だから私は様々な人から話を聞くのです」


 そう発言をすると顔を赤くさせた。


「すっ、すみません。つい」

「いえ、それだけ仕事に情熱があると言うことが十分に伝わりましたので。それで、私に聞きたいことはなんですか」


 星空はそう言うと千夏は霊能者の仕事に関する話をしてきた。そこで私は様々な体験を話した。


 憑き物落とし、取り憑いた霊を追い払ったり、霊に関する情報を話すたびに千夏はメモをして行った。


 日頃絵を描いているせいなのか手の動きはとても素早い。


「まぁ、心霊場所を訪れて、その一部を盗んだり、おまけに呪物をコレクションをする愚か者もいる。訪れて霊に悩まされるのであれば祓うわ。でも、場所的に呪物類は引き受けられないから、私の恩師が管理をしているその人の場所を伝える。その時はお金は受け取らないし、行く際はその人に電話をしているのよ。何せ、はらっていないんですもの。それから、心霊場所に訪れてそれを盗む人は馬鹿と愚かと感じているわね」

「ハハハ、お口がお粗いことですね。もちろんそこは似たような感じで私も同じです。何も知らずに絵のことを語る奴ほど馬鹿と共に愚かと言うものを考えますね」


 千夏はメモをしながら道場の言葉を声をかけた。すると、リビングの奥の方から電話の音が聞こえてきた。


「あぁ、固定電話がなっています。それでは少し失礼します」


 千夏は立ち上がると、鳴っている固定電話に向かった。星空はコーヒーを飲もうとするとカルネージがそれを止めた。


「どうした」

「あの女、何か入れていた」

「えっ? 砂糖じゃないのか?」

 

 カルネージの言葉にすぐにコーヒーカップをおいた。


「わからないが、粉の様なものをお前のだけ入れていた。だからそのまま飲んだかの様に見せて眠れ」

「だが、これをどうやって」

「外に私が捨てる」


 カルネージはそう言うとコップを持ったまま外に出ると中身を捨てた。捨てたのを誤魔化すかの様に持っていたティッシュで拭き、そのまま寝るふりをした。


 すると、電話を終えた千夏がリビングに戻ってきた。からのカップを確認すると、そばに近づいていき、頭に触れようとした。


 その瞬間、星空は手首を掴み、馬乗りになりながら両手の手首を力強く掴んだ。


「何かしようとしたのね。飲みもんに何かを入れたんでしょ。あんた」


 見下ろしながら言うと、千夏はやはりと口にした。


「やはりって」

「……貴方のそばにいる死神さんが気がついたのね」

「なっ!」


 ずっとカルネージのことが見えていたのかと驚きの感情に浸っていた。


「お前、まさか」


 星空が言いかけると、千夏は何かをしようとしたためかカルネージが離れる様に叫んだ。


 咄嗟に千夏から離れるように後退りした。


 千夏はゆっくりと起き上がり「ふぅ」とため息をついた。


「まさか最初から私の姿を見えていたとは」

「あぁ、こんな人物がいるなんてね」


 星空は驚愕の言葉を口にしながら構えた。


 千夏は首を鳴らしながら口を開いた。


「初めて見た時からずっとすごいオーラを放っていたから、気になって、隙をついてから

「初めて? 取る? 何を言っているのよあなた。まさかカルネージを自分のものに」

「いえ、そうではありません。そんな悲しいことはしたく無い主義です」


 そう言った瞬間、両手が交差するように結ばれ、操り人形のように座らせられた。カルネージは天井に貼り付けられた。


(なっ、何が起こった)


 自分の体が自由に動かないことに警告が頭の中で鳴りっぱなしだった。ただの画家ではなく、別の何かだと。


「私が様々な作品を作り上げているのはね、記憶の元とされるから取る色なの」


 そう言うと、こめかみに触った。パカっと軽い音が響くと星空のこめかみから映画で使われているフィルムが出てきた。


「どっ」

「"どうゆうこと"。その意味はね、私が能力者だからよ」


 その言葉にさらに驚きを感じられた。


「能力者、だと」

「えぇ。おかげで色々なのが描けられるからこの能力は素晴らしいと感じている。ちなみになんだけど、普通だったら右端にあるフィルムは黒いですが」


 千夏は言いながら持っているフィルムを星空に見せた。両端が青や暖かいオレンジ色と様々な色になっていた。


「これは感情色。記憶の中に刻まれた映像によってこの色はつく。ちなみに色はその人によって違う。淡い赤、水色、濃い緑、それらから絵を描いているのよ」

「じゃあ、今までの作品の中には」

「えぇ。半分は人を呼び寄せてこうしているの。ちなみに、この色を取るのは簡単」


 千夏は言いながら持っていた注射器を見せた。


「貴様! 何をする気だ」


 暴れているカルネージに千夏は「安心してください」と言った。


「ただ色を取るだけです。針に刺される痛みもないので安心してください。ただ色を抜くだけ」


 千夏は言いながらフィルムを引っ張っていく。その度に彼女は歓喜の声をあげる。


「これは素晴らしい。戦っている時の恐怖と驚愕が入り混じっている。なんて素晴らしい色。やはり有名な霊能者なだけあって素晴らしいわ」


 言いながら注射を差し込み、色を抜いていく。


「おい、ちなみにこれは大丈夫なのか」

「えっ。あぁ、大丈夫ですよ。害もなく、ただ色を抜かれるだけ。私は単に色を抜いて、それを絵にするだけよ。あっ、ただ暴れたりしてうっかり引きちぎったとしてもですからね」

「引きちぎる、記憶を引きちぎって全てなかったかの様にすることか」

「そうですそうです! さすが星空さんです」


 千夏は褒めながら色をからの瓶に埋めていき、箱の中に綺麗に並べていく。星空は変に動いた瞬間に何されるかわからないまま動かないでいた。


 カルネージは暴れてはいたが、千夏はそんなことも気にせずに感情色を取り続けていた。


 何分経ったのだろうかと思っていると、千夏は「ふぅ」と息を吐いた。


「終わりです! 取らせてくれてありがとうございます。星空さん」


 そう言うと、能力が解けたのか体が崩れるかの様に前に倒れた。頭の横に先ほどあったフィルムは消えていた。色々と心霊外のことが実現しているなんて思いもしなかった。


「星空!」


 カルネージは庇うかのように星空を自分のマントで包み込んだ。冷たい空気が体を包み込んでいる。


「結構な過保護な死神さんなんですね」

「ッ! それは貴様が危害を加えたからだろ。害はないと言うのは嘘だったのか」

「何言っているの。害はない。色々なことに混乱しているんでしょ」


 千夏の言葉に「その通りだ」と返事をした。


「大丈夫だカルネージ。心配するな。体調は何も変化ない。ただ色々と混乱しているだけだ。まさか心霊以外にもこうゆうのがあるなんてな思いもしなかったからな」


 星空はゆっくりと起き上がり、ジャケットの形を整えた。


「はぁ、それにしてもなぜ私に睡眠薬を盛ろうとしたのよ」

「睡眠薬ではありませんよ。ただの片栗粉です。そん簡単に盛る人なんてそうそういませんし、致死量に達してしまったら殺すことと同じですもん」


 千夏は自分の頭を掻きながら言った。それだけかとふぅとため息を漏らした。


「カルネージさんは」

「私の記憶の感情色を見ることは断固として拒否をさせていただく。ちなみになんだが、先ほど初めて見た時からと聞いたんだが、いつぐらいに私たちのことを見たんだ」


 カルネージの言葉に星空も我を帰った。確かに初めて見た時もすごい気配を間近で感じたと言うならば彼女はどこかで自分たちのことを見たと言うことだ。


「確かに、色々とありすぎて忘れていたわ。どこで知ったのよ」


 星空の質問に千夏は「あー」と言いながら話し出した。


「2週間前に私は絵のために藤沢市に行ったの。そこでも感情色を取ってね。満足して帰ろうとした際に君が歩いている姿を見た時、物凄く、オーラが放っているのを感じてみたら死神を引き連れた貴方を見かけたんですもん。なーんか、どこかで見かけたことがあると思って色々と調べたんですが、私の担当者が貴方のことをご存知だったみたいで、電話させてもらいました」


 千夏はにこりと微笑んで言った。あれかと星空は口にした。


 藤沢市にある一軒家に住んでいる家族での霊を追い払ってほしいと頼まれて行ったことを思い出した。


「あの時か」

「えぇ。思い出してくだいましたか」

「うん、あの時のことだとハッキリしたわ。まさかあの時にいたなんて」


 星空はでかいため息を吐くと髪を整えた。


「それで、貴方が色を取るために取材と嘘をついたってことは」

「嘘ではありません!!! 貴方の体験はより私の作品に埋め込まれていくんですよ!」


 千夏は本気で星空の言葉を否定をした。


(あっ、取材自体は本当だったんだな)


 そう思っていると、カルネージは千夏に質問をした。


「それからお前、俺が怖くないのか?」

「えっ。なぜ怖がるのですか?」

「……私が言うのはなんだが、こう見えても死神だ。死神がいると言うことは死期が近いと勘違いされるほどだ。だがお前は一向に私を恐れず、ただ平然としている」


 カルネージの言葉に星空は「あっ!!!」と大声を出してしまった。


「確かにそうだ。千夏さん、あんたカルネージのことを前々から見えていたってことだろ。なのに平然としているのはなんで」


 星空の言葉に千夏は色を入れた瓶を箱に詰めながら「別にそれは怖くないです」と口にした。


「怖くない?」

「えぇ。私がもっとも怖いのはこの先の出来事、夢の中と過去です」


 思わぬ回答に星空とカルネージはどうゆうことだと疑問を感じていた。


「夢と過去って、両親に関することか」


 カルネージの言葉に千夏はそうだよと口にした。


「両親は死んだと書かれているけど主に簡単にいえば……他なんだよね。きっと」

「きっと? どうゆう意味だ」


 そう言うと、千夏は「ちょっと待ってて」と口にすると駆け足でどこかに向かった。なんだろうと思っていると千夏は小さな箱を持ってきた。


「はい。この中を見ればわかるよ」

「これはなんだ」

「私が自分で引き抜いた記憶。それは、両親が死んだ瞬間の記憶。言っとくけど、私は見ない。見るとしたらカルネージと2人っきりの時だ。一応だが色を抜くと同じく害はないから安心してね。あと、みる方法はその中にあるものに触れるだけだ」


 そう言うと千夏は一枚の写真を見せた。みると可愛らしい服を着た子供が笑顔で写っていた。


「これは私の小さい頃の写真だ。その子を見続けろ」


 千夏はそう言うとリビングを出た。


 2人っきりにさせられた星空とカルネージはその小さい箱を見つめた。


「どうする。これ」

「俺が開けよう」


 カルネージは箱を取るとゆっくりとそれを開けた。中身を見てみると、記憶のフィルムが入っていた。


「これは、あいつのか」

「あぁ、そうだな。それにしても、このフィルムの色」


 カルネージはフィルムを見てつぶやいた。確かに星空も同じだった。様々な色が混じっていてとても汚い色だった。


 まるで絵の具を洗った後の水が様々な色になったかのように。


「触れてみるか」


 そう言うと、同時にそのフィルムに触れた瞬間に目の前の景色が変わった。


 さっきまで家の中にいたはずが今は大きいショッピングホールの駐車場。駐車場には何台車が停まられている他に帰ろうとしている家族とカップルがいた。


「どっ、どうなっているんだ」


 カルネージは景色が変わったことに周りをキョロキョロと見渡していた。同じく星空も同じ気持ちでいた。こんな体験をするなんて思いもしなかったからだ。


 すると、向こうから楽しく話している家族の声を聞く。思わずみるとそこには3人の家族がいた。


「あれ、千夏ではないのか」

「えっ」


 カルネージが指差した方を見ると、先ほど見せてくれた小さい頃の千夏が家族らしき人物と笑顔で歩いている。


 見続けていると後ろから叫び声が聞こえた。みるとそこにはとち狂った男性が大きめな銃を片手に駆け出しながら笑い狂っている。


「おいおいおい、なんだよこれ」


 その場にいた客たちは逃げて行き、千夏の家族も逃げようとするとその男性は銃を千夏たちに向けた。


「危ない!!」


 千夏の母親と父親は咄嗟に庇うと共に銃声が響き渡った。その場面を見た2人は絶句をした。


 それは両親はの背中には穴が開き、服には血が滲んでいった。何が起こったかわからない千夏は母親と父親をゆすったが息が切れたのか一向に反応がない。


 そして血に濡れた自分の手をみると、千夏の悲痛な叫び声が響き渡った。


「!?」


 その声を聞いた瞬間にいつの間にか千夏の家に戻っていた。そしてカルネージの手には渡された小さい箱もあった。


「これが、彼女の記憶」


 星空は絞り出すかのように言った。


「えぇ、そうよ。星空の表情からして、中々刺激的で、とても苦痛だったんでしょ」


 いつの間にか千夏は扉の前で立っており、2人を悲しそうな瞳で見つめていた。


「これが手元にあると言うことは、お主もしかして、自身の記憶をとったのか」


 カルネージの言葉に千夏は頷く。


「あぁ、正解だ。私は子供の頃に遊園地に行きたいと頼んだ。その後のことは抜いたせいでわからないが、何かで両親は死んで、それで色々なことなきを終えて私は両親の叔父と叔母に引き取られた。最初は頭の中が真っ白だったものだと思う、そして、両親が亡くなった時」


 千夏は自身の腕を掴むと体を震わせた。


「……夢のなかでは、抜いた記憶が、永遠と夢の中で再生された」


 体を震わせながらも千夏は涙を浮かべた。


「私は5歳の頃からずっと思っていたさ。両親が死んだのは全て私のせいだと、あの時わがままを言わなければこんなことにはならなかったと。だけど、亡くなった叔父も祖母もお前のせいではないと何回も言ってくれた。だけど、だけど、そうは言っても」


 千夏は言いながらその場で座り込んだ。


「慰めの言葉を聞いても、無理だった。むしろ、それを許さないように夢の中では再生され続けられた。だから」

「自分の記憶を引きちぎったと」


 星空の言葉に千夏は頷いた。


「自分の記憶を見た時すごい色さえ思ったわ。それに、記憶を抜くとき酷い痛みが走っていて、苦痛だった。涙と痛みであの時吐きそうにはなったよ」

「えっ。あなた自身の記憶を引きちぎる時は痛みを感じるのか?」


 千夏の言葉に星空は驚愕した。先ほどまで何回も自分の記憶に針が刺されていたが全く痛みなんて感じなかった。千夏自身の記憶も引きちぎることは可能かと思ったため尚更驚愕した。


「えぇ。この能力にも多少のデメリットはあってね。自身の記憶を引きちぎったり、針を刺したりすると痛みを感じるのよ。でも、記憶を抜いたとき思ったわ。自分のこの時の感情こんなんだなとね」


 千夏は言いながら立ち上がり、箱をうけとった。


「これをしたら、夢を見なくなったわ。だから今は安心だけど、私は過去と夢がいまだに怖い。何度も、何度も、ね」


 千夏は表情を暗くさせながら箱を撫でた。


 星空は先ほどの光景が脳に浮かんだ。両親の血がべっとりと自身の手につくことを考えた時、幽霊と戦うなんかよりもゾッとするようなことだった。


「だが、記憶を抜いたんなら、完全に両親の死はわからないはずじゃ」

「それは祖母によく泣きついていたんだ。だから、どうやって死んだかはわからない両親の死を見続けていたことがわかるんだ」


 千夏はそう言って髪を耳にかけた。


 星空はふと、両親の死を見た瞬間に自身のことも思い出した。


 それは、母親の死。それが再び思い出された。そして、思わず口にした。


「……うちは母親は、私が小学一年の頃に死んだ」

「えっ」


 突然の問いに千夏は顔をあげた。


「死んだって、星空さん、母親を亡くしているの?」

「えぇ。そうよ。私が7歳の頃に亡くした。いや、むしろ私が殺したものだ」


 星空の言葉に「星空!」とカルネージは叫んだ。


「あれはお前のせいではない! むしろ仕方がないことだ。運命はいつだって当然」

「ちょっ! ちょっと待ってくださいよ! 殺したものだって、どうゆうことなんですか??」


 千夏は星空の言葉に戸惑いが隠せないでいた。


 星空は息を吸い込むと、訳を話し出した。


「こいつ、カルネージは元々母の相棒だった。私は小さい頃から霊を見えたから、怖がらなかったんだ。私は人見知りだったから尚更こいつとはよく遊んだ。だけど、母親が死んでからあの世でお願いされてからなのか私につくようになった。だが、私が中学生の頃に聞いて、あの時自身を殺そうとさえ考えた」

「えっ。どっ、どうゆう意味なんですか」


 そこでカルネージが話し出した。


「本当の母親の死は願いの代償なんだ。星空は小さい頃に重い病気、むしろ余命宣告をさせられたほどの病を抱えていた。娘を助けるため、母親は自分の命を引き換えに救い出したのだ」


 カルネージの言葉に千夏は驚愕の表情を見せた。


「えっ! でも、死神って魂を奪い取る」

「あぁ、だが我は母親と契約を交わしていた。契約を交わしている以上、その主の願いは必ず叶えなければならない。だから尚更その願いは簡単に叶えることができたんだ」


 カルネージの説明に千夏は驚いているのか何も言い返せなくなっていた。


「その事を、いつ話せばいいかを父と話している時に星空に見つかれてしまったんだ」


 カルネージは悲しい表情を見せながら星空を見た。


「私はその時、ひどく自分を憎んだ。どうして病気持ちの体で生まれてしまったんだ。そうでなければ母は死なずに済んだはずだとね。でも、そうくよくよしてしまったら残された父に迷惑をかけてしまう。父の今後のこと、そして母親が自身の命と引き換えとしてくれた人生を無駄にはしていないと考えて前を向いたんだ。カルネージが母親の願いによって今の現状さ」


 星空ははみ出ている髪を耳にかけた。


「俺はもっと早く話せとけばよかったと。今も後悔はしているんだ」

「おいおい。もぉそれはいいんだって。むしろ、それは話しにくい内容さ」


 星空はカルネージを慰めると千夏は「あぁ」と口にした。


「だから先ほどから過保護のようなんですね。なるほどなるほど」


 千夏はメモをしながら口にした。


「おい。何メモをしているんだ」

「いや、そんな過去を負っていただなんてね。霊能者になった理由は」

「それは、母さんも同じく霊能者だったから、それになろうと私の両親の友人である住職で修行をしてこのようにね」


 星空はそういうと「ほぉ」と千夏は確信の言葉をかけた。


「なんだかこのように話を聞いていると、気持ちが晴れ晴れしそうになりました」


 千夏は笑みを浮かべて言った。


「そうか。それならよかったよ」


 星空はそう言うと腕時計を見て「そろそろ帰ろうとするか」と口にした。


「もぉほとんど取材は済ませただろ。これで大丈夫か」

「えっ。あっ! はい。だけど、ちょっと待っててください」


 千夏は再びリビングを出ると慌ただしく階段を駆け上がる音が聞こえた。


「なんだあいつ」とカルネージ

「さぁな」


 2人は話していると、千夏はかなりの厚めの封筒を星空に渡した。


「これは帰りのお金代と話を聞いてくれたお礼です!!」

「えっ。あぁ。ありがとうって、待て。今話を聞いてくれたお礼と言ったか」

「はい。そうですけど」


 千夏はヒョンとした表情を見せながら言った。


「待て待て。これ、いくら入っているんだ。帰りの代の倍だぞ。こんなの受け取れん。帰りの代だけでいい」


 星空は帰りの代だけを抜こうとすると千夏はその手を止めた。


「いえ! だめです! これは本当にお礼です。それに、私の記憶を見せたのは貴方が初めてなんです。私の記憶を簡単に見てくれたり、おまけに大変失礼な行為までついたと言うのにこれで済まされるなんて嬉しい事です。そして、だからお願いです!」


 千夏は真剣な表情で星空の手を握っていた。その表情に大きいため息を漏らした。


「わかったわ。これはありがたく受け取る。あっ、ちなみになんだけど、私も話したのは貴方が初めてよ。こちらこそ聞いてくれてありがとうね」


 星空はそう言うと千夏はパッと顔を輝かせた。


「うぅぅぅぅ。本当にごめんなさい〜」


 千夏は泣き顔を見せながら抱きついた。


「おわっ! そんなにかよ!」

「だって、だって、勝手に記憶を見たのに。それなのに。それなのにーーーー」


 さっきの態度とは打って変わって駄々っ子な子供のような性格に変わったことにギャップがあるなと思った。


「うんうん。落ち着けよ。あんた」


 星空は再びため息を漏らした。


「おい。貴様。軽々しく抱きつくではない」


 カルネージは千夏の顔を手で押しながら星空から引き離した。


「うぅぅ。過保護死神ーーー!」

 

 千夏はそう叫んだ。星空は全くと言いつつも、千夏の家から出て行ったのだった。




 翌日、星空は家で一郎とカルネージと共にくつろいでいるとインターホンが鳴る音が響き渡った。


「ん? 誰だ」

「私が出てくるね」


 星空は一郎にそう言うと立ち上がり、玄関の扉を開けるとそこには千夏が笑顔「昨日ぶりです!」と笑顔で立っていた。


「かっ! 千夏!」

「きっ、貴様! なぜここを」

「えへへへ。着たくて、来ちゃいまし。おまけに貴方の自宅って職場近くなんでしょ。だからわかりました!」


 舌を見せながら言う彼女に星空とカルネージは絶句をしていた。


「お前、急だな」

「まぁまぁ。お菓子もありますし」


 そう言いながら千夏はお菓子の入った袋を見せた。


「そうゆう問題ではない! 急な訪問は」

「星空、誰だい?」

 

 後ろから気になって出てきた父は一郎のことを見ると驚愕の表情を見せた。


「えっ! 貴方画家の千夏先生ではないですか。どうして私らのご自宅に」

「あー。実は昨日色々とあってカルネージと共に友達として、相棒となりましたー!」


 千夏は笑顔で敬礼をして言った。


 突然の友達発言に目が飛び出そうになった。


「おいおいおい! いつ私らは。父さん、私」


 振り返ると、一郎が涙ぐんでいることに気がついた。


「えっ。なんで泣いてんの」

「だって、だって。あの星空に友達が出来たことに感動をしているんだよ。あの、あの」

「うん、父さん。感動しすぎだ」


 星空はそんな姿に少しドン引きをしながらも一郎はあることに気がついた。


「あれ? 今、カルネージと」

「あっ、私見えるんですよ。カルネージのことがね」


 そのことに父は再び驚きの表情と共に叫び声が響き渡ったのだった。


 




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