ムカデで始めるVRMMO〜どうやら俺、魔王って呼ばれてるらしい〜

ギンヌンガガプ

プロローグ

第1話 The Second Life

「遂にやってきた。この日が」


 俺——ひいらぎみなとは現在、ベッドの上でヘッドギアと正対しつつ、正座をしている。


 主にVRMMOを手掛ける最大手3社が手を取って、ひとつのタイトルを作ると発表されたのが5年前。 

 キャッチコピーは『2つ目の人生を、ファンタジーな世界で』というもの。

 その名も『The Second Life』、通称してセカライ。


 そんな超超大タイトルのリリースが、あと1分に迫っているのだ。

 ソフトはすでに購入済み。食事もトイレも済ませて準備万端。


「3、2、1」


 遂に時間だ。俺はヘッドギアを被り、VRの世界へ旅立った。





『ようこそ、The Second Lifeの世界へ』


 出迎えてくれたのは、美しい女性のAIだった。


『これよりキャラメイクを行います。まずお名前を教えていただけますか?』


「ミナトで」


 大抵のゲームで、俺は本名を使っている。本名っぽくないし、べつにいいよね。


『かしこまりました。ではミナト様、次に種族を選んでください』


 セカライの醍醐味はここだ。 

 運営曰く、1000を遥かに超える種族数を用意しているとのことで、本当に何の種族にもなれるんだとか。


 目の前に映し出されたウィンドウには、人間をはじめとしてさまざまな種族名が羅列される。

 とはいえ、1000を超えるすべての種族が選択可能というわけではない。ここで自由に選択できる種族はせいぜい100程度で、スクロールしていった先にある『ランダム』を選択することで、残りの種族になれるチャンスが与えられる。

 ランダムを選択すると本当に何になるかわからない。大抵は人間ヒューマン亜人デミ・ヒューマンになるらしいのだが、中には動死体ゾンビ骨人スケルトンなどの不死者アンデットなんかもあるらしく、醜い見た目になりたくなかったら大人しく自分で選ぶこと、と運営からも忠告があった。


 とはいえ、だ。俺としては、ここにある100種の種族ではいまいち心が踊らない。

 兎人ラビットマンとか悪小鬼ゴブリンとかも悪くはないのだが、やはりインパクトに欠ける。


 俺はゆっくりとスクロールを続け……


「あった」


 『ランダム』ボタンに手を掛けた。


 その刹那、眩い光が俺を包み——



「これ、ムカデ……だよね?」



 俺はムカデとなった。



 さっきのAIお姉さんが鏡を持ってきてくれる。


「うん。やっぱりムカデだわ」


 とはいえ、俺の知るムカデとは少し違う。

 他の足より太くて長い足が4本あり、これがおそらく人間で言うところの手足であろう。

 そして人間で言うところの足によって、直立することが出来ている。二足歩行も可能だ。

 気持ちの悪いムカデの裏側が正面からだと丸見えだ。

 さらに言えばめちゃくちゃデカい。多分1メートルは超えている。

 二足歩行する巨大ムカデ……悪夢だな。


 ただ——


「心が踊ってる。過去にないくらい!」


 正直言って最高だ。

 この擁護しようのない気持ち悪さが最高だ。

 鏡はさっさとしまっていただきたいところだが、これが自分なのかと思うと楽しみで仕方がない。


「さっすがセカライ! ムカデなんて種族もあるとは!」


『ミナト様の種族は百足人センチピートマンです。ステータス画面で確認して頂けます』


「せんちぴーとまん? 聞いたことないけど……まあいい。ステータス」


 ミナトが『ステータス』と声に出すと、目の前にステータスが映し出されたウィンドウが表示される。


氏名:ミナト

種族:百足人センチピートマン

職業ジョブ:未設定

レベル:1

HP:40/40

MP:100/100

筋力:100

防御:50

魔力:100

魔防:50

素早:500

器用:350

幸運:100

スキル:回避lv1、隠密lv1

種族スキル:炎脆弱lv5、超マルチタスク、精密動作lv1

称号:ユニーク個体



 ふむふむ。色々と聞きたいことはあるが、とりあえず百足人センチピートマンと書かれたところを押す。



百足人センチピートマン

 歴史上でもほとんど確認されたことのない、半ば空想上の生物となりつつある種族。

 上位老百足グレーター・エルダー・センチピートの変異種とされている。

 百足人センチピートマンの伝承が残る村などでは、不吉の象徴であるとされており『悪いことをすると百足人センチピートマンにされるぞ』という脅し文句がよく使われているという。



 だそうです。

 『歴史上でもほとんど確認されたことのない』とあるが、それが称号にある『ユニーク個体』と関係しているのだろう。多分相当低い確率を引き当てたな。


『では続いては職業ジョブを選択していただきます』


「おっ、出たな」


 こちらもひとつの醍醐味だ。種族と同様、いや運営によるとそれ以上の数があるらしい。

 10レベル毎に新たな職業を取得することができ、新たに取得した後も、以前の職業が失われるということはない。


 職業に関しても全て自由にという訳ではなく、この職業とあの職業を取得することで解放される職業があったり、その種族専用の職業があったりするらしい。


 職業の羅列をスクロールしていく。


 スキル欄にある回避や隠密といったものから見るに、恐らくこの種族は盗賊シーフとかが合っているんだろう。

 ただあんまり盗賊シーフになりたいとは思わないんだよねえ。


 どうしたものかと悩んでいた頃、ひとつの職業が目に飛び込んでくる。


百刀流ハンドレッツ?」


 面白そうだ。詳細をみよう。



百刀流ハンドレッツ

 取得条件→職業ジョブ:二刀流を取得済みの上位百足グレーター・センチピートor職業:二刀流を取得済みの百足の王センチピート・ロードor百足人センチピートマン

 無数の足に武器を持ち、手数で圧倒する歴戦の百足センチピートのみがなれる職業。



 平たく言えば、強いムカデしかなれませんよーってところか。

 てかやっぱり普通の百足も存在してたんだな。

 他は結構大変そうな条件があるが、百足人センチピートマンだけは特別なのか? 最初から選択できる。

 これを逃す手はないだろう。


 俺は迷いなく百刀流ハンドレッツを選択した。


『それではミナト様、これでキャラメイクは終了です。The Second Lifeの世界を思う存分、楽しんでください』


 再び眩い光が俺を包んだ。







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