第四章 狗奴国逆襲 ④卑弥弓呼の葛藤

 難升米は、多芸史彦と諸進、刺肩別を伴い、奈良の都の卑弥弓呼に報告に行った。


「卑弥呼弓様、今回も奴国をやり込めたのでジマクは面白くないようです。天帯彦様の判断を仰ぐべく、大倭国へ戻りました」


 難升米の報告を聞いて卑弥呼弓は悩み始め、独り言を言った。


「そもそも、国とは何なのか?

 個人が幸せならば、国は必要ではなくて、小さい集団でも良いのではないか?

 それとも、攻め滅ぼした国の奴隷が現に居るから、民族としての国が必要か?

 奴隷とは、農民とは、貴族とは、一体全体何なんだ?」


 先祖から引き継いだ儘で普段は気にも留めていなかったが、改めて考えてみると、全てが解らなくなった。


「なぜ、奴国は侵略するのか? 奴国と伊都国と不弥国の繋がりは何か?

 不弥国と邪馬壹国の関係は何か?」 


 知らない事が多過ぎる。


「狗奴国として為すべき事とは何か? そして連合とは何か?

 大連合は、本当に必要なのか?」


 卑弥呼弓は、考えれば考える程判らなくなったので、狗古智卑狗を呼んで尋ねた。


「先祖の若御毛沼が新たに国を作ってから、百年が過ぎたが、此の儘で良いのか?

 他国を侵略したくはないが、うかうかしていると近畿奴国に侵略されてしまう。

 

 大倭国と大連合して不弥国に頼ったとしたら、不弥国に侵略されるかも知れない。

 連合と大連合の違いが無いなら、小連合の儘で良いのではないか?


 大も小も含めて全ての国が、一つの連邦に纏まりながらも、思う所を主張し合う。

 国力の違いを越え人員や資金を出し合い連邦軍を警察力として治安の維持を図る。

 加盟国同士の侵略や戦争は認めず、違反した場合は、連邦軍を派兵して鎮圧する。


 狗古智卑狗は、どう思う?」


「私は文官で、戦の事は良く解りませんが、今の儘では拙いのは間違いありません。以前、連邦制が良いのではないかと申し上げましたが、奴国とは決して仲良くなれません。不弥国とも大倭国とも上手く行かないでしょう。

 

 大倭国が魏の柵封に入ったのは、間違いありません。冊封に入る前なら、大倭国と大連合を組む事も出来ましたが、今となっては不可能です。

 

 大連合を組むと云う事は、狗奴国も冊封に入ると云う事です。呉がそれを許す筈がありません。邪馬壹国が呉と通交していることが、魏に知られたら大変です。

 

 卑弥呼弓様がお考えになる連邦は理想ですが、呉や魏との関係や、奴国の存在を考えると、実現は不可能でしょう。

 

 それなら一層呉の柵封に入り呉の武力の支援を受け、近畿奴国を侵略して併呑し、邪馬台国連合の領域の拡大を目指した方が、良いのではないでしょうか?」


 

 卑弥呼弓は、居住まいを正して、改めて確認した。


「それは即ち、邪馬壹国や伊都国とも縁を切って、自立の道を進むと云う事だな!」

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