第13話

「おはようございます………ふわぁ…」


「……おはようございます」


翌朝、またまた遅刻ギリギリに西園寺さんは登校してきた。というのも理由は大体分かっている。




『……えぇ!?なんか回復してない!?』


昨日の配信でなんとかEasyの最後まで辿り着いたのだが、今作のボス枠キャラでもある

「ケイオス」にボコボコにされていた。


プレイアブルでも使えるキャラなのだが、ボス仕様に強化が施されている。一定時間攻撃を食らわなければ体力を回復し始め、ゲージも時間経過でモリモリ増える。


という強敵を前に何度も敗走し、その度にチャレンジしていたわけだが…結局クリア出来たのは配信が始まって3時間経過した頃だった。




というわけで、今も眠そうにしながら担任の話を聞いているのだった。




「未来ちゃん!どう?学校には慣れた?」


ホームルームが終わり、1限が始まる前に恭華がやってきて、西園寺さんと話し出した。


「はい。皆さんのおかげで…本当に楽しいです!」


「そかそか…そうだ。うちの慎二は迷惑かけてない?」


「……なんだ迷惑って」


突然恭華はそんなことを言い始めた。


「いえそんな…というか『うちの』というのは?」


「え、それは……」


「俺達はただの中学からの腐れ縁ってだけですよ~」


西園寺さんの疑問に誠が割り込んで答えた。


「………まぁそういう感じ!」


「あ……そうなんですか?てっきり…」


「てっきり?」


「えと……そういう…関係なのかと」


「ちが……違うよ!?」


「そうですよ西園寺さん。そんなんじゃありません」


「む………」


西園寺さんの誤解をしっかりと訂正するために協力してやったというのに何故か恭華から睨まれてしまう。


「てか慎二!そろそろテス――


「うっし授業始めっぞー席に着けー」


思い出したくないことを恭華が言おうとしたところ、数学の須藤先生がやってきて、話を中断させてくれた。





「んでー?結局どうなの?」


「何がだよ」


昼休み。いつものように自分達の席でパンを頬張っていた。


「マウガだよマウガ…必死に研究してただろ?」


「あ、…えっと……」


マウガという単語が出た瞬間隣からガタッという音が聞こえたきたがとりあえずスルーする。


「まさか諦めたか?あんなに真剣にやってたのに……未練あるんだろ?」



チラッ…………チラッ…………



「ま、まぁ可能性は感じるよな……うん」



「………へへ」


「どうしたの?西園寺さん急に……」


「い、いえ!別に……へへ」



隣の女子グループから西園寺さんが照れてる声が聞こえてくる。なんで自分のことみたいに喜んでんだよアンタは。


「そうだマウガといえばさ……慎二って最近はV見てないのか?」


「え??うん。見てない見てない」


唐突な誠の発言にとっさに嘘をついた。

嫌な予感がする……


「そう?だったら知らないだろうけど……」


誠はそう言いながらスマホを操作し、イヤホンをつけながらとある動画を見せてきた。


「ほれ。あ、そっち右な。これだよこれ…マウガ使ってるVの切り抜き」


「へ、へーーー…珍しいな…」


画面の端っこに映っていたのは見たことあるアバターだった。


「ランクマやってたみたいなんだけど……最初は拙いのに途中からめっちゃ上手くなるんだよ」


チラッ…………


「あー…確かに、牽制と対空が、よく出てるなー」



「……………えへへ」



「んでんで、最後……」


『地面とキスしてなぁ!!!』


「マウガと同じセリフで締めてるのめっちゃカッコよくね??」


「そ、そうだなー」



「………………うぇへへへ」


「……西園寺さん?」


「ほぇ!?いや……ちょっと…昨日のテレビ思い出しちゃって……えへへ」



「これ昨日見つけたんだけどさ、ちょうど配信やってて見に行ってみたんだよ」


「お、おう」


「そしたらすっげぇアーケードのラスボスに苦戦しててさ、でも諦めずに続けててすげぇなって思ったわ」

「……なんか新鮮だったわ。そういう楽しみ方もあるんだなって」


「…………確かにな」


俺達は格闘ゲームをそういう目線で見たことはなかった。だからこそ、アーケードのストーリーであんなに盛り上がれる西園寺さんの配信は新たな発見がいくつもあった。


「というわけで俺も久しぶりにチャンネル登録したんだよね。見た目も声もかわいいし…今のうちに推しとくのが古参面出来そうだし!」


「そ、そそそれは…良かったな……」



「わた、わたし!ちょっとお手洗いにいってきます……」


「いってらー」



西園寺さんが勢いよくトイレに行ったあと、すぐにスマホに通知が届いた。



みらい『めっっっっちゃ嬉しい!!!』



(…………そりゃそうだろうな)


「なんだなんだ彼女か~?」


スマホを確認していると誠が画面を覗き込んできた。


「いや!?んなわけないだろ!?」


俺は急いで電源を切り、スマホを体の後ろに隠した。


「怪しい………」


「俺に彼女なんて出来るわけないだろ?な?」


「まぁ確かにそれもそっか」


誠はそう言いながら牛乳パックを飲み始め、目線を外した。俺は一安心しながらスマホを確認してみると…


みらい『既読スルーは傷つくよ!?』


案の定、めんどくさい彼女みたいな文が送られてきていた。


       『すいませんでした。それと、 

        良かったですね』


みらい『うん!』



(はぁ………)


ひとまず返信をし、俺もオレンジジュースを飲もうとスマホから目を離すと……


「おい」


「………なんだよ」


誠がこちらをガン見していた。


「なーーーに嬉しそうに返信してんだ??」


「嬉しそうにはしてねぇだろ」


「いやもぅニヤニヤしまくりだったぞ?」


「………マジ?」


「抜け駆けかぁ……」


「だから………マジで違うんだって…」


「はいはいそうですねー」



昼休みが終わるまではその話でイジられ続け、西園寺さんはタジタジになっている俺の様子を隣で聴きながらずっと楽しそうにしていた。

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