第四話「こっち」

 えぇ、気になってはいたんです。

 学校から帰る時に、いつも小さな女の子を見かけるなぁって。


 でも全然幽霊だとか、そんな風には思ってませんでした。見たところ何もおかしなところはなく、普通の女の子でしたし。それに学校から帰る時間帯って夕方じゃないですか。これが真夜中とかなら「あれ?」って思うし、幽霊じゃなかったとしても真夜中に小さい子どもが外に一人でいるっていうのは、親から虐待受けてるとか別の可能性もありますから。だから私は、その子のことを「一人で遊ぶのが好きな女の子」だと思ってたんです。

 ただ、少し不思議にも思ってました。いつも同じ場所にいるし……その場所って何もないんですよ。まぁ、ここらがそもそも田舎なんで何もないんですけど。たとえば小さい公園とか「子どもが一人で暇を潰せそうなもの」が、見た感じないんです。強いて言うなら、すぐ近くに林があるぐらい。だから「何してるんだろうなぁ」って。


 それで、声をかけてみたんです。

「いつもここにいるけど、何してるの?」って。


 そしたら女の子は私の問いかけには答えずに、ニコッと笑って「こっち来て」って言ったんです。そして、そのままさっき言った近くの林に入っていきました。草木が生い茂ってるところを、ガサガサとなんの迷いもなく進んでいくんです。「こんなところで遊んでるのかぁ」って思いながら、私は追いかけました。少し変だとは思いました。その子、妙に足が速くて。けっこう急いで追っかけてるのに、ぐんぐん離されていくんです。


 こんな場所に何があるんだろう?

 秘密の遊び場でもあるんだろうか。


 そんなことを考えながら小走りしていると、急に開けた場所に出たんです。それで女の子は、その奥で「こっち」って笑顔で手招きしてました。「待って」って言って、そのまま駆け出そうとした時です。











「危ない!」

 男性に腕を掴まれました。


 え?ってその人を振り返って、視線を戻しました。

 誰もいなかったし、何もありませんでした。




 ……その人はたまたま近くにいた猟師さんで、普段めったに人が通らない林に学生が走っていったから不審に思って追いかけたとのことでした。私は一心不乱にその人のすぐ横を通りすぎて、声をかけても返事がなかったと。






 私には、たしかに女の子と開けた場所が見えていました。

 でも腕を掴まれた時、私が立っていたのは。
















 林を抜けた先にある、崖のふちでした。

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