第20話 ジャミング・メモリー

 俺は町長のすぐ横に降り立つ。


「三波啓介、会いたかったぞ」


 ドラゴニクスが不敵な笑みをこぼす。


「水色か。フェルディナンド様の話では白色金と聞いていたが? それに、武器も違う」


「たまにはイメチェンもありだと思ってな」


 俺は座り込んでいる町長を見る。


「町長、下がって。ここからは俺がやる」


「あ、ああ! 頼んだぞ」


 町長は俺達から離れていく。その後ろ姿と重なる地点に立った俺は、ドラゴニクスと向き合った。


「1つ提案がある」


「提案?」


 ドラゴニクスは剣を引き、話を聞く態勢をとる。


「俺とアンタとの一騎打ちで勝負を決めようぜ。武人として、アンタとはサシで戦いたい」


 よくまぁ、こんなでまかせが言えるもんだな、俺。


 だが、このまま両軍が戦闘状態になった場合、少なくとも死者は出る。長引けばその分犠牲も増える。そうなればせっかくの歌も怒りや悲しみで届かない可能性が出てくる。


 だったら俺とドラゴニクスの1対1で戦い、犠牲を出さないようにする。あとは、ドラゴニクスが俺の話に乗ってくれるか……。


 ドラゴニクスはニヤッと口角を上げる。


「おもしろい。武を極める者として、貴様とは1対1で闘いと思っていた」


「話、わかるじゃねぇか」


「全軍、その場で待機!」


「みんな、ここは俺に任せてくれ!」


 1対1の決闘の場を作った。これで当分、犠牲が出ることはない。あとはどれだけ時間を伸ばせるかだ。


「さぁ、やろうか」


 俺は宙に浮いている大剣を手に取り、構える。


「すぐに死ぬなよ」


 ドラゴニクスはかすみの構えをした。見惚れてしまうくらい綺麗な構え。武士と対峙しているみたいだ。


 構えるだけで圧倒される。神化していなかったら、後退りしていただろう。


 厄介だな。


 こいつは間違いなく努力タイプだ。俺とは真逆。こういう奴は粘り強い。手強そうだ。


「では、行くぞ!」


 言った瞬間、ドラゴニクスが急速に間合いを詰め、太刀を振り下ろす。


 ガキンッ!


 大剣で太刀を受け止める。重い一撃だったが、大剣の刃は1ミリも欠けていない。強度は十分、力も負けていない。これなら対抗できる!


「ほう、フェルディナンド様が言っていた実力はあるということか」


「俺からすれば、遅いくらいだ。………もっと本気で来い」


「フッ……」


 喜びを嚙みしめるような笑みを浮かべた後、ドラゴニクスは連撃を食らわす。


 速いっ! そして重いっ! さすがは幹部。


 ―――だが、さばききれないもんじゃないっ!


 俺は全ての連撃をいなす。


「避けてばかりだな。宙に浮いている武器も遠慮なく使っていいのだぞ?」


「使わせてみな」


 剣と剣が火花散らしてぶつかるなか、ついに隙が見えた。


 ―――ここだっ!!


 ザクッ!


 入ったっ!


 太刀を持つ右腕に俺の斬撃が入る。


 よし、これで―――――!?


 太刀を持ち替えることなく、さっきより速い一振りが俺の腰に迫る。


 まずいっ!!!


 そう思った瞬間、寸でのところで盾が自動でガードしてくれた。


 仕切り直すため、一度ドラゴニクスから距離を取るため、上空に向かう。


「ついに盾を使ったな」


 破けた服から見えるのは、硬そうな漆黒の鱗。ちっ、血ぐらいは流していてほしかったが。さすがに幹部だけあって硬い。


「面白いな。お前のような姿を変え、宙に浮き、多彩な武器を扱う冒険者を見たことが無い。血がたぎる」


「だろう? もっと楽しもうぜ」


「さぁ、準備運動はおしまいだ。本気で行く」


 バサッ、とドラゴニクスの背中から翼が生える。翼にはご丁寧に、鋭い爪がある。まんまドラゴンの翼じゃねぇか。


「空を飛べるのは、貴様だけの特権ではないぞ」


 ちっ、上空に待機して時間を稼ぐ行為はできないか。


 それにあの剣技とスピード。時間をかければ見切れるとかいう代物ではない。その前に潰される。


「なら、俺ももっと本気を出すまでだ」


 俺は内にあるパワーをさらに引き出す。


「ほう、オーラが更にデカくなったな。見かけ倒しじゃなければいいが、なッ」


 空いている左手でバランスボールほどの大きさの火球を何発も撃ってきた。


 俺は左右に動いて火球をかわす。


 躱せるが、数が多い。嫌なところに撃ってくるから前に進めない。


 なら盾で受けつつ、奴に突っ込む!


 俺は盾を前に構え、火球をガードした。


 衝撃は凄いものの、盾が壊れる感じはしない。


 このまま突っ込む!


「―――なっ!?」


 瞬間、ドラゴニクスが真横にいた。太刀が眼前に落ちてくる。


 やられるか!

 

 咄嗟の反射で大剣で剣技を弾く。


 バサッッッ!!!


「ぐあっ!?」


 頭上に重い衝撃が走り、吹っ飛ばされる。


 なんだ!? なにが当たった!?


 ドラゴニクスを見ると、左翼に覆われている。


 翼で叩かれたのか。


 そんな使い方も出来るなんて……くそ、盾が大きすぎて相手の行動が目視出来ないのはキツイ。


 吹っ飛んでいる俺に、ドラゴニクスが火球を撃ちつつ向かってくる。


 野郎……っ!!


 反転攻勢。


 俺は盾を放ってロングソードに持ち替えた。火球なんて、大剣とロングソードで全て叩き切ってやる。


「やるな……っ!」


 次々と飛んでくる火球を切り伏せて向かってくる俺に、ドラゴニクスがニヤリとする。


「こいつはどうかな?」


 左手に火を収束し、火炎放射を繰り出した。


「剣で叩き切れまい」


 ―――甘いな!


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺は大剣を持つ手に雷を溜める。


 最大に溜まったところで、大剣のグリップに電磁を放つ。


 グルグルグルグルグルグルグルッッッッ!!!!!!


 手の平で急速回転した大剣が、ドラゴニクスの火炎放射を吹き飛ばす。


 残念だったな。こちとら、アニメでそのような対処法は知っているんだ。


「馬鹿な……っ」


 そのまま突っこみ、ドラゴニクスの頭に回り蹴りを食らわす。


「うぉぉぁっ!?」


 吹っ飛ばされたドラゴニクスは、翼を思いっきりはばたかせて制止した。


「ふっ」


 大剣を肩に乗せて、ニヤリと余裕の笑みを浮かべて挑発する。


「面白い。その笑み、どこまで続くかな」


 よし、いいぞ。ドラゴニクスが戦いに夢中になってくれている。この調子で時間を稼ぐ。


 だが、神化は有限だ。いつまでも手を抜くわけにはいかない。


 もし、カノンが復活にしなければ、ドラゴニクスを殺すことも―――


 大丈夫!


 自分に言い聞かせる。


 大丈夫! カ


 ノンなら絶対立ち上がる。今はちょっと手こずっているだけだ。エルが寄り添ってくれれば大丈夫だ。


 だからエル、なるべく早く頼むぞ。


 ★★★


 まったく、私に託しちゃってさ。アンタに惚れてる部分があるんだから、アンタが勇気づけなさいよ。


「すごい……ミナミくん。誰もが恐れる幹部と互角に戦っている。しかもあんな空中戦。並の冒険者とは次元が違う……」


 副市長もなにぼけ~っと観客みたいなこと呟いてんのよ。ケースケの戦いを見ている暇があったらカノンに温かい声の1つでもかけてあげなさいよ。使えない副市長ね。


 心の中で毒づきながらも、私はカノンの元へ寄る。


「カノン、大丈夫? ほら、リオレルマキシニウム」


 この世界で最大級の回復魔法をかけた。外的な要因からくる痛みは取り除いた。


 それでも、カノンの過呼吸は治らない。

 

 わかっていたけど、心の問題ね。


 さぁ~て、どうしようかなぁ~。心の問題を解決する魔法はないのよね~。


 いっそ記憶を消しちゃう?


 ダメ。そんなことしたら、歌詞を忘れて歌えなくなっちゃうわ。


 困ったなぁ……。


 そもそも、カノンがどんな心の問題を抱えているのか分からないんだけど。


「カノン、いま不安に思っているモノは何? ほら言ってみ。特別サービスで私が全てチャチャッと片付けてあげるからさ」


 そう優しく問いかけてもカノンはしゃがんで呻き声を上げるだけ。これは……お手上げよ。


「カノン!」


 あっ! えっと……ダ、ダグ、ダグ―――カノンの親父がやってきた。


 よかった。これで一安心。


「カノン! 大丈夫か、カノン!」


 息を切らしてカノン元へ駆け込む親父を、カノンは虚ろな目で見る。


「あ、あ……」


 声にならない声を出す。


「カノンっ!! 大丈夫か!?」


 カノンの親父が右手を肩にかけ、左手で背中をさする。


「お父……さん……?」


 カノンが首を傾げた。


 困惑した顔でダグラスを見る。


「っ―――」


 頭に痛みがきたのか、顔を険しくする。


「お、おいカノンっ! 大丈夫—―――」


 パシンッ!


 乾いた音がステージに響く。父の手がカノンの肩から離れていた。カノンが拒絶したのだ。


「お父さんじゃない。あなたは……お父さんなんかじゃない!」


 私は思わず歯を噛みしめた。


 …………最悪の状況ね。

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