第12話 カチコミ
商会長オブトンに案内されてたどり着いたのは、外観からして豪華そのものな宿だった。名前を銀泉亭というらしい。内側もまあ外観に負けぬシックでエレガントな雰囲気の内装である。
「──グハァッ!?」
「──ほげェッ!?」
「──ゲホォッ!?」
そんなエレガントな廊下を男たちが吹っ飛んでいく。俺の平手打ちによって。
……それにしてもやっぱり、これだけの高級宿だとセキュリティがしっかりしてるんだな。俺が『お邪魔します』と足を踏み入れるなり、町で会った冒険者とは見栄えも性能も違いそうな装備をしたヤツらが俺を排除しようと襲い掛かってくるんだもの。
まあ全員平手打ちしたら起き上がってこないけど。
「……銀泉亭1番の部屋は最上階の廊下奥にある」
廊下を埋め尽くすように倒れる男たちを尻目に、オブトンはそう言って階段の方向を指さした。
「おそらくはそこをプラチナランク共にあてがっているハズだ。であれば町長や組合長たちもそこに居るハズだぜ」
「オブトンさん、アンタ急に素直に従うようになったな……どういう心境の変化だ?」
「心境の変化なんてモンは
「俺は悪魔か?」
「ああ、そう思うぜ。だが俺だって
俺は階段を上る。2階、3階と階数が上がるたびに中ボスみたいな敵が出て来て、さきほどの巨漢のように光り輝く宙から剣を出現させて襲いくる。
俺はそいつらをみんな殴り蹴り飛ばして道を開けさせた。
「オイ、アンタはさっきからずっと素手でよ、神器を持ってないのか?」
「ああ、それね……たぶん持ってるんだと思うけど出し方が分かんないんだよな」
「どういうことだよ……」
俺が全てのセキュリティ(?)をノシ終わった後の最上階で、オブトンは宇宙人でも見るようなおそろしげな目で俺を見据えた。どうにも神器とやらを知らないでいるのは非常識扱いされてしまうようだ。
まあ今はそんなことどうだっていい。
「町長さん、こちらに居ますかー?」
俺は最上階の廊下の1番奥の部屋の戸を開ける。広い部屋の中を進んでいくと、その中央にどっしりと構えたソファへと初老くらいの男が2人、そしてその向かいに若い優男が偉そうに足を拡げて座っていた。
案内も終わったので、俺は掴んでいたオブトンの首根っこを放す。
「……あのジイさんがこの町の町長だ」
「どっち?」
「だからジイさんの方だ。もう片方はジイさんってほど歳食ってねーだろ」
ソファの2人をよく見る。2人とも白髪頭だったが、確かに片方は体付きも良くシワも少ない、精悍さのうかがえる中年男性だった。そっちが冒険者組合の組合長らしい。
「ではこちらの町長さんの方にちょっとお話いいですかね?」
「な、なんなのだね君は……!」
「こちらのオブトンさんの商会にですね、私の友人が商品を強奪されそうになった件についてお話ししたく思いまして──」
「──オイ、コラ」
俺の話す用件に横槍が入った。
「俺が先客なんだがねぇ。お前は何でここに居るんだよ」
町長たちの向かいに座っている優男、そいつがソファにもたれかかりながら問いかけてくる。その腕にあるのは先ほどの巨漢と同じ、白く輝く腕輪だった。
「俺はジョウ・ヤサカ。この町には行商人の連れといっしょに──」
「ちげぇって」
優男は苛立ったようにソファから立ち上がった。
「俺はなぁ、不審者ふぜいのお前がよぅ、いったい何様のつもりで俺の前に現れてるんだって訊いてんだ」
「……は? 『何様のつもりで俺の前に』?」
この優男、いったい何を言ってるんだ?
「いや、俺はお前が誰だか知らないし、お前に会いに来たわけでもないが? 俺は町長に直談判をしに来ただけだから」
「ハァ?」
優男が心底訳が分からないとでも言いたげに表情を歪める。
「俺の部下たちを倒してここまで来たんだろ?」
「ああ、あれこの宿のセキュリティじゃなかったのか……それはスマンな、全員引っぱたいて撃破した。でもあっちから襲ってきたんだから仕方ないよ」
「ゴウキはどうした?」
「ゴウキ? その名前は初めて聞くけど、もしかしてお前と同じ腕輪してたデカいヤツか? そいつなら倒したよ」
「……あっそ。やっぱアイツもただデカくて力自慢なだけのカスだったか」
優男は侮蔑するように鼻を鳴らした。
「で、なんだって? 俺の部下をバッタバッタとなぎ倒してここまで来ておいて、あくまでも俺に用はないって? お前はただこのジイさんと話したいだけだってか?」
「だからそうだって。なんでさっきから俺がお前に用がある前提なんだよ」
……コイツ、ホントになんなんだ? さっきから自意識過剰すぎるぞ。
もしかするとプラチナランクの冒険者というのがよっぽど凄くて高名なモノなのかもしれないけど、ここまで露骨に自分の威光みたいなものを信じて酔いしれてると流石に引くわ。
「ハァ~、ったくよぉ……! イライラさせやがって……!」
優男が手を前に掲げると、例のごとく、強い光のエネルギーの中から剣が出現する……いや、そのフォルムはどちらかというと刀に近く、その刀身は紅色に染まっていた。
「パッと見た程度じゃ俺の力も分からないか。じゃあいいぜ、見せてやるよ格の違いってヤツをなぁ。これが俺の神器──"ベニアラシ"だ」
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