第38話 新必殺技
「英玲奈、バスケは個人競技じゃないぞ」
英玲奈が柚葉に執着している間にスコアは24ー18に。
相良とカイがコンビを組み、得点を重ねているが英玲奈が柚葉に負け続けているため、既に流れはこちらに傾きつつある。
「にしても、柚葉の才能は桁違いだな」
英玲奈は既に高校女子バスケ界の全国レベルに達しているほどの選手。
他校に行かれていたら英玲奈以上に厄介な存在はいないと言っても過言ではない。
現に世間的にハズレ世代と言われている二年はともかく、当たり世代と言われている三年にすら英玲奈に勝てるようなエースはいない。
それを一方的に追い詰めるんだから柚葉は化け物だ。
「英玲奈、そろそろ諦めろ」
敵チームじゃなければ、そんな指示を声を張り上げ、飛ばすが私、椎野琴葉は柚葉達の指揮官。
英玲奈の味方をするわけにはいかない。
────────────────────
「クソ」
第一クォーター終了のブザーが鳴る。
結局、一度も柚葉先輩を抜けなかった。
「ナイストライ、どんどん突っ込んでけ」
「いいの?」
「やりたいんだろ?ならやる以外の選択肢はねぇよ」
私達が取った24点の内訳は私8点、翔13点、カイ3点。
驚くべきことに翔は13点取りながらも私が勝負したいタイミングで絶対にパスをくれている。
こんな芸当が出来るプレイヤーを私は見たことがない。
翔は膝に手をつく私の頭をポンポンと軽く叩きながら言う。
「アンタがいるから勝負しに行ってるのもあるんだからね」
「もっと見せてくれ、天才の活躍」
「オーケー」
ウインクすると翔はウインクで返してくれる。
やばい。
やばいほど、かっこいい。
かっこよすぎる。
アンタが同じコートで私よりもかっこよくバスケするからその度に胸がときめく。
追いつきたい。
私のプレーを見て、かっこいいって思って欲しいし、言って欲しい。
私のプレーがアンタの心に響いてて欲しい。
ずっと私っていうプレイヤーを見ててって、思ってんだよ、私はさ。
責任取ってよね、こんなに大好きにしちゃった責任。
「翔、アタシに出せ!」
「何度でも助けてやる、行ってこい英玲奈」
第二クォーター開始。
翔は声を張り上げるカイをチラ見すらせず、私に出す。
「ありがと」
私は思い切り地面を蹴り、トップスピードに乗る。
「邪魔」
瑠偉先輩は楽勝。
「はーい、とおせんぼ」
「だから、それじゃ無理だって」
「ッ!」
瑠偉先輩が抜かれることを見越して、ポジショニングしていた柚葉先輩。
高速フェイントをかけても抜けない。
「英玲奈!もっと想像しろ!」
「ふぅ」
コートに響き渡った翔の声。
私は後ろのカイに戻し、目を瞑る。
「これだ」
今まで何度も見た憧れたNBA選手のプレー。
ステップバックスリー。
これを新たな私の武器にする!
「カイ、私に出せ」
「笑ってんじゃねぇよ!」
ゴールに向かって走っていたカイは笑いながらワクワクした表情で私に返してくれた。
どうやら私の進化を見たいようだ。
「何するつもり?」
「これ」
「え?」
左に高速ドライブを仕掛け、止められそうになってからの右に切り返し!
柚葉先輩は慌てて、右に身体を動かすけどこの技はここからが本番。
「それもフェイクです」
「うっそ」
私はニヤけながら勢いよく後ろに飛ぶように下がり、スリーを打つ体勢を作る。
「完成」
今まで見てはいたけど、考えもしなかった技を本番で一発成功できる私はやっぱり天才だ。
これは自惚れでもなんでもない。
紛れもない事実。
真実はいつもひとつってね!
「ッシャー!!」
私はゴールに背を向け、ボールがリングをシュッと抜け、落ちた瞬間、雄叫びを上げた。
もうこれでこの試合は私達の勝ちだ。
「ナイス相棒」
「サンキュ」
翔とグータッチ。
ここからこのゲームは私と翔の独壇場になった。
これが天才と天才の共演だ。
「やったな!やるぞ!」
「私達が!」
「俺たちが!」
「最強!!」
108ー70で圧勝。
翔は私を持ち上げ、パッと離す。
私は落下した勢いのまま、翔をギュッと抱きしめた。
翔はギュッと抱きしめ返してくれる。
ーーあぁ、最高。
ずっとこうしてたい...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます