無双の暴君

根無 草🌱🌿

第1章 目覚め

第1話 ノル・アルスタット

オレは先日公爵家の嫡子として生まれた。

だがここで1つ問題が生じる、なんとオレには前世の記憶があった。

1人の男が生まれてから、喧嘩に明け暮れ若いよわいにして争いの中で死んでしまうという壮絶な記憶。

一気に二十数年分の記憶を叩き込まれたオレの脳はオーバーヒートを起こし鳴き声をあげる前に気絶、そして数日を経てようやく先程オレは目が覚めたらしい。


「おぉ…この子が待望の我が子か…鳴き声もあげず、意識もないままに生まれた時はどうなることかと思ったが…アイシャ、よく頑張ったな。」


オレを抱き抱えながら笑う無精髭を生やしながらも不潔感を感じさせない目の前の男、燃えるような赤髪をオールバックでバッチリキメて切れ長な眼は歴戦の風格を感じさせる。


「ふふ…アナタだけずるいわ、私にも抱かせて頂戴?」


ベッドで微笑む女は淡い紫の髪色をしており、聖母を彷彿とさせるその柔らかで慈愛溢れる笑顔は我が母ながら前世を含めてもトップレベルの美人だ。

腕の中に抱き渡されたオレに視線を落とし優しい目で見てくる、少しむず痒い。


「しかし弱ったな…先の事故のせいか、この子から微塵も魔力を感じないぞ…」


親父が無精髭を撫でながら不安そうに呟く。

それを聞いてお袋は一瞬目を見開いて親父を見やるが、すぐオレに視線を戻した。


「……それでも、この子が元気に育ってくれれば…私はそれ以上何も望みません。ね、ノル。」


そう言ってオレを撫でるお袋の眼には慈愛と少しの哀しみが見えた気がした。


そんな事件からはや3年、幸い魔力が無いだけでオレは病気ひとつすることなく元気に成長していた。


「…まぁ、その魔力が無いってのが致命的なんだがな。」


庭に生えた木の上でリンゴを手の中で弄びながら独りごちる。

3年でこの世界の基礎知識をある程度学んだ、その中には当然魔法の知識も含まれる。

話を聞く限り、魔力は育てることが可能らしい。

だが、それはあくまでらしい。


「全然魔力が無い、そんなこと有り得んのかよ…」


前世の記憶もあり、精神面が早熟だったオレはすぐに悟った。

魔力がゼロのオレはいくら鍛錬しようが魔力が増えない。


オレの生まれたアルスタット公爵家は代々王家の剣として敵対国を牽制、あるいは戦争時に先陣を切る役目を担っている大貴族…らしい。

それ故に、オレはこの家の跡取りたり得ない。

魔力が無い、つまりからだ。


「まぁ、めんどくせぇ公務をやんなくていいのは単純にありがたいけどな。」


そう言ってリンゴを齧る。

すると近くの窓から元気な赤ん坊の鳴き声が聞こえてきた。

オレは一息に木を飛び降りるとそのまま親父とお袋、そしてまだ見ぬ弟妹の待つ部屋へ走った。

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