【英雄採用担当着任編】第12話 窮状

魔槍の主、魔人ゼットワン。人類における最強最悪の脅威。

出現頻度こそ多くはないが現れたら最後。

豪傑たる英雄達を、最新鋭の防衛兵器で堅牢に守られた街を、軍事力で他国に優位に立つ国家を滅ぼす程の存在だった。かつて人類の至宝たる八英雄を国ごと打ち滅ぼしたことから、各国の要人で構成される世界英雄連合にて、満場一致で【Z】そして【1】が付与された。


ゼットフォーを捉えた指輪を破壊したのもゼットワンの仕業だろう。

「マスター撤退するしかないわ!出来る限り遠くに!そいつだけで身に余るのに、ゼットワンまで来たらどうしようもないわ!」


ナビの言う通りだった。芳賀には武器も拘束具も英雄としての力もない。

だが、逃げることも叶わないだろう。自分はただの人間なのだから。


立ち尽くすことしかできない芳賀をよそに、ゼットワンは地面に突き刺さった槍を抜いた。そしてそれを天に掲げ手を離す。槍は意志を持つように大気を切り裂きながら空の彼方へ消えていった。


しばらく槍が飛び去っていった彼方を見上げていたゼットフォーが少し笑みをこぼしたように見えた。魔人にも人と同じように感情があるのだろうか。


「——何が面白いんだよ」


ぼそりと呟いた芳賀をゼットフォーは金色の眼で捉えた。

どうやら逃すつもりなはいらしい。強者の余裕なのか、はたまた捕まえようと思えばいつでも捕まえられるからなのか魔人はゆっくりと芳賀の方へと足を進める。


「——くそッ!!!!」


芳賀はゼットフォーから逃げるように駆け出した。1日を通してこんなに走ったのは初めてだったかもしれない。だが足に疲れを感じない。まだいける。逃げるだけの元気はある。今取りうる唯一の選択肢を実行する。


ただ、死神は芳賀を逃すつもりなどなかった。

背後に膨大なエネルギーの収歛を感じる。きっとそれは自分に放たれるものだろう。

細胞の欠片も残らない。そんな類のものだ。


やはり自分の運は完全に尽きたのかもしれない。16年と7ヶ月。なんとなく80歳までは生きると思っていた。家族に囲まれて、友人に囲まれて、人助けをしながら時に趣味に没頭する。そして最後に惜しまれながら、暖かい気持ちに包まれながらこの世を去って。ありふれた理想。でも全ては絵空毎だったんだ。叶わないなら、それなら最後はせめて、かっこよく死のう。

そう思って、芳賀は立ち止まりゼットフォーと向き合う。


「ま、マスター何してるのよ!!」


「ナビ、お世話になったよホント。君がいなかったら俺、多分ずっと野菜嫌いだったかもしれない。あんなに美味しく調理できるものだとは思わなかったよ。新しい主人見つけてさ、支えてやってくれ。ほら、お前SNSやってるだろ?知ってるんだぞ?しかも沢山の人と繋がってるし。募集かけたら1発さ」


「馬鹿な事を言わないで!!いいから早く!!!」


ゼットワンが放つ一撃が地面を抉りながら迫ってくる。

今度こそお別れだ。夢は叶わなかったけど、多分それなりに全力で生きた気がする。


「じゃあな、ナビ」


そう言って芳賀は死を受け入れる為に目を閉じた。








「———呑気に目瞑ってんじゃねえぞ死にたがり!!これで2回目だッ!!!」


「———え?」


男が身を挺してゼットフォーの攻撃を防いでいる。


「タマヤ・・・さん!?」



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