第33話 頑張り賞

「とりあえず残り4回は時雨がやってみたら?」

「私ですか?」

「時雨がやる時のために私がお手本見せたんだし、実際にやってみないとね」

「はい、やってみます」


 時雨がレバーに触れ、アームを操作し始めた。

「がんばれー」

「これ、ここから見える角度だと微妙に横軸のずれが分かりにくいですね」

「そういう時は一旦横から見てみるのがおすすめだよ」

「なるほど、やってみます」

「でも、制限時間には気をつけてね」

「それはさっきあなたが身をもって教えてくれたので問題ありません」


 さっきのミスが制限時間に気づかなかったから起きたってバレたんだ。

時雨はよく見てるね。

見てろって言ったのは私だしそれは当たり前か。


「……」

横からじっくりアームの位置を確認してる時雨が可愛い。


「ここに決めました」

そういうとボタンを押してアームを下ろした。

アームはしっかりと景品をとらえた……風に見えた。


「あっ」

アームの間から景品が抜けて無情にも落下していく。


「……」

景品が落下していく様を見つめていた時雨は少し悲しそうな表情を見せた。


「ま、まあ後3回あるから大丈夫だよ。てかもう1個取れてるから最悪取れなくても……」

「私には向いてないかも知れませんね」

「そんなことないよ、途中で落ちたけど景品は掴めてたし、たまたまアームが弱かっただけだよ。ほら、次やってみよ」


「今回も掴めました」

「掴んだまま動いてくれるかな?」

「あっ」

「また落ちちゃったね」

「後2回、まだまだ私は諦めませんよ」


「今度はアームが1本、景品に邪魔されて閉じてないね」

「そんなことってあるんですか!?」

「物理的に仕方ないよ」

「……もう残りは1回だけですね」


「今回はどうしてアームは確かに景品を掴めたはずなのにするりと抜けていってしまったんですか?」

「今回は掴み方が悪かったみたいだね」

「最後の1回だったのに……」


 結局時雨はクレーンゲームで景品を取ることはできなかった。

でも頑張る時雨はとても可愛かった。


「可愛い時雨にはこのくまさんをプレゼントしちゃう」

頑張り賞的な意味合いも込めて時雨に熊のぬいぐるみを渡してみる。


「もふもふしてて気持ちいいですね」

「そうでしょー。それ時雨にあげる」

「ありがとうございます」


 ゲームセンターの中を移動する間も時雨は両手でぬいぐるみをもふもふしていた。

めっちゃ可愛い。ぬいぐるみをもふもふしてる時雨をもふもふしたい。


 ゲームセンターの中を1周しようと歩いていると奥の方にエアホッケーができる場所があった。

「エアホッケーあるじゃん。珍しいね」

「やっていきますか?」

「もちろん。時雨がやりたいなら」

「ぜひお相手させていただきます」

「なら決定だね」












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