子供をだしにして

 学校のグラウンドで、家族と合流する。それでもまだ、学校の入口は開いていない。


 短い間にも、避難してくる人は増えている。


 そこで、気になったのが折れた街灯。学校は数年前に耐震工事が行われ、一部は新しくなっている。人が集まっている正面玄関前は、綺麗で新しい街灯が多い。

 折れた街灯は古いものだろうと思うが、それでも私は近付く気にはなれない。かといって、大きな声で「危険かもしれない」と告げる度胸もない。


 だから、私は子供をだしに使った。「倒れている街灯があるから、街灯には近付くな」と、子供に言うフリをして大きな声を出し、入口が開くのを待つ。


 そうしながら待っていると、正面玄関の横にある通用口が開く。時間外に小学校を訪れる時に使う入口で、正面玄関全体は解放されなかった。

 それでも入口が開いたことに変わりはない。だが、誰も中に入ろうとはしない。誘導する人がいなければ、こんな状況でも様子見してしまう人が多い。


 だから私は、再び子供をだしに使った。「中に入っていいに決まってるだろ。ここは避難所に指定されているんだ」と、大きな声を出しながら学校の中に入る。

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