第22話 出発

「それでは反響石はこれにいれて下さい」

「何それ?ランタン……?」



リリスがランタンのような道具を取り出し、反響石を硝子の容器に入れる。彼女の行動にレアは不思議がるが、ランタンの中に放り込まれた反響石が水の中に浮かぶように浮揚した。



「うわ、なにこれ!?」

「これは魔石を収納出来る特別製のランタンです。反響石は壊れやすい魔石ですが、このランタンに入れると見ての通りに水の中に入れたように反響石が浮き上がります。この状態なら多少強い衝撃を受けても壊れる事はありませんし、魔物が近づいたら反響石が振動と同時に光り輝き続けるので夜間の間でも魔物の接近に気付く事が出来ます」

「へえ、これも冒険者の必需品?」

「いえ、これは私が骨董品屋で買ったんです。面白半分で買った道具なんですがこんなにも早く使う機会が訪れるとは思いませんでした。ちなみにランタンが壊れる程の衝撃を受けると中身の反響石も壊れるので油断しない下さい。予備もありませんので正真正銘これが私達の命綱です」



ランタン製の魔道具をリリスは馬車に取り付けると、これで魔物に襲われる心配も減ったので彼女は馬を走らせる。事前の言葉通りに馬の操作は得意らしく、二頭の馬はリリスの指示通りに走り始める。



「どうですか?私の馬車捌きも中々でしょう?」

「何だ、馬車捌きって……まあ、運転は任せるよ」



運転はリリスに任せてレアは馬車の中で廃墟街から集めてきた道具の確認を行う。一応は反響石のお陰で魔物に襲われる可能性は低くなったが、それでも反響石の効果を受け付けない魔物に襲われる可能性を想定して新しい武器や防具の制作を考える。


ゴブリン程度の敵ならば今のレアならばさほど脅威ではないが、草原にはゴブリン以外の魔物が多数生息するらしく、今まで通りに敵を「解析」してステータス画面を表示させて文字変換の能力で状態を「死亡」に書き換える方法が何時までも通じるとは限らない。もしも複数の敵に同時に襲われた場合、文字変換の能力を発動する暇もなくなる可能性もあった。


出発前に集めてきた道具を再確認し、現在所持している「拳銃ハンドガン」よりも殺傷能力が高い武器が良いと判断し、新しい武器の制作を試みる。



「マシンガンとかの弾丸を連射する銃は作っても上手く扱える自信がないな。誤射してリリスに当てたら大変だし……」

「え?ちょっと待ってください。意味は良く分からないですけど、不穏な事を言いませんでした?」

「ソンナコトナイヨ」



レアの呟きを聞いてリリスが不安気に振り返り、誤魔化すようにレアは作り笑いを浮かべる。ずっと一人で過ごしていたせいなのか独り言が癖になっており、これからは気を付けることにして武器の製作を開始する。



(仮にマシンガンを作っても弾丸をいちいち作り出すのが面倒だしな……あ、でもマシンガンの「弾倉」その物を作り出せば問題ないかな?説明文に弾丸が入った状態だと書き込めばいけるかも……いや、やっぱり駄目だ。誤射したら大変なことになる)



一人の時と違って今のレアはリリスを守らなければならず、使い慣れていない銃器に頼るのは危険過ぎた。先ほどは冗談交じりでいったが、もしもマシンガンを誤射して彼女に当てたら大変なことになる。どうすればいいのか頭を掻くと、レアは召喚されてから風呂に入っていないことを思い出す。



(そういえばずっと風呂に入ってないな。召喚されてからはずっと動きっぱなしで汗も搔いたし、街に着いたら風呂場がある宿屋に泊まって服も着替え用……いや、今はそんな事はどうでもいいだろ)



雑念を振り払って次に自分がどんな武器を作り出すのかレアは真剣に考え、先ほどは断念した「マシンガン」ならば多数の魔物と遭遇した時は非常に役立つが、味方の人間に誤射してしまう可能性も高まる。


そもそもこちらの世界の魔物は野生動物も厄介な存在であり、実際に上位種のホブゴブリンや亜種のゴブリンメイジにはレアの「拳銃ハンドガン」は致命傷を与えられなかった。



(この拳銃だけで戦うのは無理があるな。やっぱり、もっと威力の高い銃となると……マグナムか?)



普通の銃よりも強力な銃と言われればレアが思いつくのは「マグナム」であり、一か八か作り出せないか試そうとするとリリスが焦りの声をあげる。



「あの……レアさん。何か考え込んでいる所を悪いんですけど、後ろの事態に気付いてますか!?」

「え、急にどうしたの?」

「いやいやいや!!どうしたのじゃないですよ!!後ろから明らかに何か追いかけて来てますよね!?」

「後ろ……?」



リリスの言葉にレアは馬車の後方に視線を向けた瞬間、魔物と思われる咆哮が草原に響き渡った。

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