廃墟街編

第6話 廃墟の街

――徐々に光が収まり、レアの視界が完全に回復すると自分が煉瓦製の建物の中に倒れている事に気付く。上に視線を向けると天井ではなく青空が広がっている事に気付き、どうやら屋根が崩壊した建物の中に転移したことを知る。半壊した建物の中は埃だらけで崩壊してから相当な年月が経過しているのは間違いなかった。



「ううっ……何処だ、ここ?」



レアは自分が先程までいた帝城とは別の場所に飛ばされた事を悟り、ダマランの「無作為転移ランダム」という魔法によって別の場所に飛ばされた事が判明した。


建物の外に移動するとレアの視界には中世を想像させる建築方法で建てられた街並みが広がり、地震のような災害に見舞われたのか殆どの建物が半壊か全壊の状態で放置され、少なくとも未だに人間が住んでいる気配はない。レアは戸惑いながらも周囲の様子を窺いながら移動を行う。



「どう考えても人が住んでいるように見えない……もう何十年も放置されているみたいだ」



幾つかの建物の中に入り込むが、人が住んでいる痕跡は残されておらず、壊れた家具の類しか存在しない。大分前に住民たちは退去した様子だった。



「食料も水もない……いや、それよりも身を守る武器も探さないとな」



自分が何処に飛ばされたのかは分からないが、ここは安全な日本ではなく異世界であり、身を守る武器を調達しておく必要がある。



「駄目だな、瓦礫ぐらいしかない」



武器になりそうな物は両手で抱えられる程度の瓦礫ぐらいしか存在せず、鈍器の代わりに殴りつける事は出来るだろうが、武器として携帯するにはあまりにも重すぎる。それに現在のレアの筋力ではそもそも持ち上げる事も難しく、彼は必死に両手で瓦礫を持ち上げようとするが、微動だにしない。



「くそ、どんだけ貧弱なんだ俺の身体!?」



悪態を吐きながら現実世界に居た頃と比べると異常なまでに衰えた身体能力に苛立ちを抱き、レアはステータス画面を確認する。最低でもステータスの数値を二桁にまで上昇させないと日常生活を送るのも不便な可能性があり、どうにか「文字変換」の能力を利用して能力の強化できないか考えた。




――霧崎レア――


職業:無し


性別:男性


レベル:9


SP:6


――能力値――


体力:9


筋力:9


魔力:9



――技能――


翻訳――この世界の言語・文章を日本語に変換し、全て理解できる

脱出――肉体が拘束された状態から抜け出す

解析――対象が生物ならばステータス画面、物体の場合は詳細を確認できる



――異能――


文字変換――あらゆる文字を変換できる。文字の追加、削除は行えない



――――――――




「あっ、さっき覚えた二つの技能も追加されてる」



転移する前に覚えた技能もステータス画面に更新されており、改めて確認すると中々に便利な技能だった。脱出は敵に拘束されても逃げ出す際に役立ち、解析に至っては他の人間のステータス画面を確認することができる。但し、便利だからといって多用すると取り返しのつかない事態に陥る可能性もあった。


ダマランから逃げる際にレアは「脱出」の技能を利用したが、二度目の使用の時にいきなり身体が重くなり、まともに動けなくなった。恐らくは翻訳以外の技能は使用すると体力を消耗するらしく、調子に乗って使い続けるとすぐに体力切れを引き起こすと思われた。



(体力の数値を伸ばせば技能を使える回数が増えるかもしれないな)



能力値に表示されている体力が今まで一番謎だったが、技能に関わる数値だとすれば納得できる。今後は技能を使用する時は気を付けることを決め、これからどうするべきかレアは考える。



「レベルの数値をもう変換できないのはきついな……能力値がせめて10まで上がれば一気に99まで上げられるのに」



文字変換の能力は一度変更した文章は二度と変えられないという隠し条件があり、このせいでレアはレベルを変化できなくなった。能力値以外で数値を変えられるのはSPだけだが、今の所はSPに余裕があるので変換する必要は感じられなかった。



「はあっ……腹減ったな。こんなところで野垂れ死になんて冗談じゃないぞ」



誰も住んでいない廃墟の街に転移させられたレアは頭を抱え、これからどうするべきか悩んでいると背後から奇怪な鳴き声が聞こえた。



「ギィッ……!!」

「っ!?」



レアは振り返ると建物の陰から全身が緑色の皮膚に覆われた人型の生物が現れ、鬼の様に恐ろしい形相に1メートル程度の体躯、薄汚れた布切れをまとっていた。レアはその生物を見て城で教わった「魔物」の存在を思い出す。



「まさか……こいつが魔物かっ!?」

「ギィイイイッ!!」



緑色の生物を見た瞬間にレアが無意識に言葉を呟いた瞬間、化物は興奮したように鳴き声をあげながら彼に飛びかかる。口を大きく開き、獣のように尖った牙を向けて噛みつこうとして来たのでレアは避ける。



「うわっ!?」

「アガァッ!!」



レアが躱すと化物は彼の後ろに落ちていた大きな瓦礫に噛みつき、恐ろしい咬筋力で瓦礫を噛み砕く。瓦礫をまるで煎餅のように噛み砕いた化物を見てレアは恐怖を抱き、慌てて距離を取っての能力を発動した。

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