第22話 呵呵大笑4

「おらどこだよ! あの糞女はぁ!!」



 俺がそう叫び、もう1つ近くのテーブルを叩いて砕いた。明らかに普通じゃない力。この異常とも言える俺の強さに皆驚き声を失っている。その姿が滑稽であり、たまらなく快感になっていく。

 いつも馬鹿にしてた奴らが! 俺を笑っていたヤツらが、怯えている。そうだ、これが本来の姿のはずなんだ。神は見捨てて居なかった、ようやく全部正す事が出来る!



「……彼女は今日休みだ」

「嘘をつくなぁ!!」



 割れたテーブルの破片を投げつける。嘘を吐いた男へ投げたテーブルは回転しながら飛んでいき、すぐ近くの壁に当たり大きな音を出して床に落ちる。あの重かった椅子がまるでペットボトルくらいの重さしか感じない。最高だ!



「俺は見てたんだ。有紗がちゃあんとここへ来るのをな! 朝のシフトのはずだろ? いつもそうだもんなぁ!」

「た、頼むから落ち着いてくれ、黒田! そもそもこんなことして何が目的なんだ」



 両手を前に出し、必死の形相で声を掛けてくる。あの男は確か中谷とよくつるんでるやつか。


「坂本君さぁ。わかるかな?」



 俺はそういいながら坂本の近くへ近づいた。笑みを浮かべ両の掌を上に向け頭を振りながら歩いて目の前に行く。



「な、なんだよ」

「いやわかってないんじゃないって思って。立場って奴がさぁ!」

「がッ!」


 髪を掴んでそのまま思いっきり床へ頭を叩きつけた。床が割れ、血が飛び散る。軽くやったのにまるで中身のない人形を掴んだ程度の軽さだった。


「きゃ、きゃああ! 坂本君!?」

「ひひっおら、どこだ? ……ああそこかぁ」




 

 人垣の向こうにいつも見ていた彼女の頭が見えた。身長は低く、女の子らしい身長。そんなところも好きだった。好きだったんだ。



「なぁ。有紗。なんで中谷何かと付き合ってんだ? こんなやつどうせ禄でもない人生を歩むに決まってんだよ。どこの大学行ってるか知らないけど意味ないんだって。世の中さ、やっぱ選ばれた人間が上に行けるんだよ。俺みたいにさぁ!!」

「ひぃぃ」



 押し殺した悲鳴が甘美に響く。もっと聞きたい、そう思って有紗の方へ歩くと頭に衝撃が走った。後頭部に僅かに痛みが走る。ゆっくり後ろへ振り替えるとそこには椅子を持ち息を切らせた中谷の姿があった。恐らくあの椅子で俺の後頭部を殴ったんだろう。



「う、嘘だろ。なんで……」

「なんだ……ヒーロー気取りかぁ!」



 そう叫んで中谷の頬を叩いた。パチンと強い音が響き、血を吐きながら倒れる。よく見ると床に歯が落ちている。今ので折れたんだろう。笑みを浮かべ中谷へ近づく。すると蜘蛛の子を散らすように周りの連中は道をあけた。本当に良い気味だ。



「ほらねてんなよ。助けようとしたんだろ。最後まで気張れよ」


 今度は優しく中谷の顔を叩いた。手のひらを大きく広げ、鼻を潰すように、叩く。


「や、やめてくれ……頼む」

「おい、なんだその情けない声は。もっとかっこつけろよ。……あぁいい事考えた。ほら選べよ。お前が有紗を差し出せば助けてやるよ。お前だけじゃない、みんなをだ。でもお前が有紗を助けたいならこのまま俺の玩具になれ。簡単だろ。ほら、ほら」


 そういってまた軽く顔を叩く。



「たのむ、たのむからやめてくれ」

「違うよ。選べっていってんの。有紗を選んでそれ以外を助けるか、有紗を助けてお前が犠牲になるか。分かりやすいだろ」




 ニヤニヤを笑いながら数度顔を叩く。すると涙を流しながら中谷は口を開いた。いつ心が折れるか見ものだ。待っていろ有紗、すぐこいつの化けの皮を剥いでやる。ほらさっさと自己保身に走れよ。その情けない姿を見せてやれ。



「――――」

「何だって? 聞こえないんだけど」

「えぐぅ、た、頼む。このまま俺を殴ってくれ。だからみんなは助けてやってほしい。悪かった。ずっと黒田を馬鹿にして、いじり過ぎた、本当にごめんなさい」







「はぁ」




 興奮していた頭が一気に冷静になった。なんてつまらない男なんだろう。喚いて泣いて、そんなダサい恰好なのに、どうしてかっこつけるんだ。




「もういいや。もっとお前の顔不細工にしてやるよ」



 そういって今度は全力で顔を叩こうとして、――店の中にカランとベルの大きな音が響いた。思わず後ろを振り向く。するとそこに男が立っていた。




 黒いスーツに、コートを着た男。奇妙なのは変わった形の黒いマスクをしている事。顔の半分がそのマスクで隠れている。



「何だ、今日は閉店だそ」



 いや、待て。今ベルが鳴っただと? あのベルの音はこの店のドアを開いたときになる音で客の入退店を知らせる音でもある。なぜその音がなる。ドアはガードポールで無理やり施錠した。なのにどうやって。



 


 俺が怪訝そうに見ていると、男は懐から何か黒い手帳を出した。折りたたみのソレはドラマとかで見た事がある。





「警察手帳だと?」

「警視庁秘匿事象課、対魔法特選部隊フリージア所属メンマ。貴方を違法魔法使いとして捕縛します。投降して下さい」



 違法魔法使いだと何言ってんだ、頭沸いてんのか? っていうか今なんていった、聞いたことない所属だったぞ。それに魔法だと?



「警察如きが俺を捕まえられると思ってんのかよ」

「投降の意思なしと判断。これより実力行使に入る」



 カツカツと歩く音がする。思わず一歩後ろに下がってしまった。何をびびっているんだ。俺は選ばれた存在、超人になった男。警察如き恐れる必要なんてない。思わず唇を噛んで目の前の男を睨みつける。

 変わったスーツを着ているが普通の男だ。冷静に考えろ、銃を構えている様子もないし、偶にドラマとかで見るSWATみたいな恰好でもない。何もビビる必要はないんだ。



「けひっ、どうして1人で来たのか知らないが、泣いても知らないぜ!」



 ポケットに入れていたアルミボールを取り出し、手に力を込める。一歩足を踏み出し野球の投手のように見様見真似でアルミを放り投げた。さっき数回投げたことである程度慣れた。今度は外さない。投げたアルミはしっかりと男の胴体へ吸い込まれるように接近し――。




「――は」



 

 投げたアルミが簡単に掴まれた。しかもそれだけじゃない。何度も力づくで変形させ丸めたアルミが徐々に変形していき、元のアルミ缶に戻った。それが床に落ち、カァンと子気味良い音が響く。



「な、なんなんだ! お前はぁ!!」



 ポケットに入れていた残りのアルミボールを全部投げた。全部で3つ。めちゃくちゃに投げたアルミはすべて男の手によって掴み取られ、また元のアルミ缶に戻って床に落ちていく。



「お前、お前! いや、その光! ま、まさか!」




 よく見れば男の身体から光が出ている。俺と同じ選ばれし者だけが使えるはずの光を! まさか、こいつも、こいつも俺と同じだってのか!?



「だ、だったら、!」

 


 もう1つの力を発動させる。散々実験した力だ。俺の中心に半径30mにいる人間を強制的に笑わせる力。それもただ笑わせるだけじゃない。息が出来なくなるほどの強制的な笑い。

 俺が力を発動するとさっきまでと空気が一変し爆笑に包まれた。まるで傑作コメディ映画を見たかのように、あれだけ涙を流し、怯えていた連中が全員腹を抱えて笑っている。



「ふははははは! 文字通り抱腹絶倒ってな! 笑ったまま天国へ連れてってやるよ。あーっはっはっはっは!!――――あ?」

 


 目の前の男を見る。笑っていない。どういう事だ! まさか同類にはこの力は効かないのか!? くそ、なんだよそれは! 俺だけの力じゃないのかよ!



「な、なんなんだよ! お前はあああ!」

「……天国か。そうだな、お前を天国ヘヴンへ堕としてやろう。私は行きたくないが」



 そういって目の前のスーツを着た男は拳を構えた。

 

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