第3話 神隠し

 アンとショウコは何不自由なく育ち8歳となった。

 二人にはピンガラという弟ができ、二人ともお姉ちゃん気取りである。


 「ピンガラ!ピンガラ!一緒に遊びましょ。」

 ハーリーティーが留守の時にはお世話係のアーリーコレットのところに行っていつも一緒に遊んでいた。

 アーリーコレットも二人を赤子の時から知っている。いまだに二人の見分けがつかず名前を間違えはしたがピンガラをお城に連れ出して遊ぶのも黙認していた。ここは八大龍王の城である、ならずものなど入ることはできず危険など何もなかったからである。


 しかしその日は何かが違っていた。


 城のベランダで遊んでいた3人は柔らかな光が徐々に強まる中でなぜか眠ってしまったのである。

 ****

 城の中では大騒ぎになっていた。


 幼いピンガラ王子が行方不明となったのである。


 何十万もの眷族が城の隅々、どんな細かい隙間でも潜り込んでピンガラ王子を探したのであるがどうしても見つからない。


 そうこうしているうちに龍王妃ハーリーティーが帰ってくる。

 「なんじゃ?この騒ぎは。」


 「ハーリーティー様、申し訳ございません、ピンガラ王子殿下が行方不明なのであります、眷族総出で捜索しておる次第でございます。」侍従長が説明を終えると、普段は柔和なハーリーティーは鬼の形相に変わった。


 「アーリーコレット!アーリーコレット!そちは何をしておったのじゃ。」


 「お母さま、わたしが悪いのです、ショウコと二人でピンガラを連れてベランダで遊んでたの、そしたらみんな寝ちゃってて起きたらピンガラがいなくて。」


 アンは半べそをかきながらたどたどしく一生懸命説明をする。


 「ピンガラを連れ出したとはどう言うことじゃアーリーコレット!」


 「も、申し訳ありません龍王妃さ」


 最後まで話すことなくアーリーコレットはその爪に引き裂かれて肉片となってしまった。

 ハーリーティーは正気を失っていた。


 「いけません!龍王妃さま。」


 アンとショウコ、自分の娘に爪を向けたハーリーティーに何十人もの眷族が間に入り身を挺して守る。

 数十人が一撃で肉片となる。


 「いかん、お嬢様方を試練の部屋にお連れしろ、あそこならば龍王妃様も手が出せない。」

 侍従長の叫びに東宮の執事ナーヤートクヤは双子の姫を抱き抱えて試練の部屋に飛び込んだ。もともと10才になった時には入らなくてはならない部屋である、少し早くなってしまったがやむを得ない。


 試練の部屋に飛び込んだナーヤートクヤは岩戸を力一杯閉める。

 ハーリーティーの爪の「ガリガリ」音が遠くに聞こえたがなんとか下界に転落できたようだ。

 3人はそのまま意識を失い次元の狭間をゆっくりと落ちていった。


 ハーリーティーは城の眷族の半数を殺したあと半狂乱で飛び立ち、七日7晩のあいだ全世界を巡り溺愛するピンガラ王子を探したのであるが見つけることはできなかった。

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