第15話 お褒めの言葉

 

 涼風さんの家で勉強会をしてから、俺も日曜日を防衛するために本腰を入れて勉強をした。

 基本的に毎日やることがなく暇を持て余していたため、勉強をいざやってみると苦ではなく、あっという間に時間は過ぎていき――


「終了! 筆記用具を置いて後ろから番号順に集めて来てください~」


 あっという間に三日間の中間テストは終わりを迎えた。

 まだ回収している段階でテストが完全に終わったというわけではないが、ほとんどの生徒はようやく終わったという解放感から頬を緩ませている。


 俺もその中の一人で、心が少し軽くなったかのように感じていた。 

 ちなみに、出来は割と自信あり。

 

 涼風さんに教えてもらったところがたくさん出たのがだいぶ大きかった。

 ほんと、涼風さんには感謝しないとな。


 でもとりあえずこれで日曜日の補習はないだろうと思う。

 俺の日曜は守られたのだ。まだ完全に決まったわけじゃないけど。


 解答用紙の回収がし終わり、チャイムが鳴る。


「皆さんお疲れさまでしたー。目にくまがある人がちらほら見えました。皆さんとても頑張ったんですね」


 白波先生は天使の笑みを浮かべて「感心感心」と頷いている。

 するともう今にも倒れるんじゃないかと思うほどに疲れ果てているクラスの男子連中がそわそわし始めた。


 そのそわそわに耐えきれなくなった特攻隊長、ナンパ無理王の竜見が席を立つ。

 彼も相当頑張ったようで、テストを終えた現在、憔悴しきっていた。何徹したんだよまじで。


 このまま灰になっちゃうのかなと思うくらいに疲れ切ったご様子だが、彼の目標はまだ達成されていない。なにせクラスの男子連中は白波先生に褒めてもらうためにこんなにも頑張ったのだから。


「先生、俺たち、こんなんになっちまいましたよ。ははは」


「あらあら。この後はしっかりと休まないとだめですよ?」


「分かってます。でも、僕たちはあることをしてほしいがためにこんなにも頑張ったんです」


 おい竜見、お前の唯一の長所のバカっぽさがなくなってるぞ。というか語尾が伸びてないからもはや誰かも分からない。個性失ってるぞ。


「あること……ですか?」


「はい。僕たちこんなにも頑張ったんです。だから、約束通りお褒めの言葉を……」


 クラス男子の連中はもう体力が残っていないのか気力だけで「うんうん」と頷く。


「でも……それは結果がよかったらって話でしたよね?」


「……嘘、だろ?」


 竜見の気力が失われていく。もれなくクラス男子の連中みんながその言葉に気を失いそうになっていた。

 ちなみに、今はホームルーム前の休み時間なので、女子はこのばかばかしい空気に耐えられなくなってどっかに行ってしまった。うん正解。


「でも、皆さんとても頑張った様子なので、サービスです」


「「「え???」」」


「皆さん、よく頑張りました!」


 白波先生はまたもやさり気なくウィンクをかます。神をも殺してしまう兵器。

 クラスの男子連中はもろに攻撃をくらい、朽ち果てる。


「「「うぁぁぁぁぁぁ!!!! 生きててよかったぁぁぁぁ!!!!」」」


 そう最後の言葉を残して、灰となって消えた。

 男子というのは、こんな小さなことに全力投球をし、消えていく。


 つくづく馬鹿だと思うが、その生きざまはかっこ悪くないなと、同じ男子のよしみで思った。


「えぇ?! 皆さんどうしたんですか?! 一斉にうなだれて! ちょっと皆さん起きてください! ホームルーム始まりますから!」


 テンパる白波先生。やはりウィンクの破壊力は自覚しておらず、この状況にとてもテンパっている。

 別に白波先生のことを推しているわけでもないのに、今の焦った白波先生は少し可愛いなと思った。

 今のをこいつらが見てしまったら、たぶん生まれ変わりすらもできないくらいに魂が消え去ってしまったに違いないから、倒れて正解だぞみんな。


「ひあぁぁぁぁ! ど、どうしましょうこれ……」


 ほんと、そろそろ自分の力に気づきましょうね、先生。

 その後女子が教室に戻り、ジェノサイドが吹き荒れた教室を見て本気で冷たい目を死んだ男子に向け、何事もなかったかのように着席したのであった。





     ◇ ◇ ◇





「さて皆さん、テストお疲れさまでした」


「「「お疲れさまでしたァァァァァ!!!」」」


 君たち自己回復能力高すぎない?  

 どうやら褒めてもらったのが一周回って気分をハイにしたらしい。


「そしてようやく、あのイベントが来ますね?」


「本格的な鈴香ちゃんの夏服だ! ひゃっほーい!」


「俺たちはこのためにテストを……あれ、俺たちなんでテスト頑張ってたんだっけ?」


「夏だ! 鈴香ちゃんだ! えーっと……鈴香ちゃんだ!」


「生足で踏まれたい」


 なるほど、一周回って記憶喪失してるみたいだな。

 あと、どうやらテスト勉強によって知能指数も下がったようだ。なぜ勉強してバカになった?

 あと、晴天はブレないな。お前は最初から底辺だ。


「違いますよ皆さん! 体育祭ですよ体育祭! 青春の一大イベントですよ! 皆さんぜひぜひ楽しんでいきましょうね?」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」


 ほんと男子って単純なところがいいよな。

 ただ、体育祭ということに関しては女子も楽しみなようで、女子も楽しそうに一緒に叫んでいた。

 さっきまで冷たい目をしていたのに、学校行事とは絶大なパワーを秘めているようだ。


「では皆さん、盛り上がっていきましょう!!!」


「「「いぇーーーーーーーい!!!!」」」


 なんと騒がしいクラスなんだろうか。

 しかし、この騒がしさは決して耳障りというわけではなく、なんだか心地のいい騒がしさだった。


 なんか、楽しみだな。


 ただ過ぎ去るだけだと思っていた体育祭が、気づけば俺の中で楽しみな行事に変わっていた。

 

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