§027 暴露

 柏倉さんと話したその日の夜、俺と水無月さんは、『付き合っていることを公言するか問題』について話し合ったのだが、意外にも答えはすぐに出た。


 というか、俺も水無月さんも同じ意見だったので、話し合いにすらならなかったというのが正確なところだ。


 結論は――自分達から積極的に公言することはしないが隠すことはやめよう――というもの。


 まさにお互いに元陰キャらしいというか、一番当たり障りのない玉虫色の結論だ。


 水無月さんは学年の女神様となっているし、俺も例の50メートル走以降は無駄に人気が出てきてしまっているので、本音としては、早いところ噂が回ってくれた方がありがたいのだが、さすがにいきなり教室の前に出て「俺達付き合ってま~す!」と言うわけにもいかないし、じゃあどうすれば俺達が付き合っていることを周知の事実とできるのかもわからないので、とりあえず自然に噂が広がるのを待とうというスタンスだ。


 マジで陽キャ達はどうやって公認カップルになっていくのだろうと今更ながらの疑問が湧くが、俺達ももちろん隠すわけではないので、誰かから「付き合っているのか」と聞かれたら素直に答えるし、仲のいい人には自分達から言おうということなった。


 ということで翌日。


 俺はまずは親友である赤也に報告することにした。


「は? 知ってたけど」


 しかし、俺の報告を聞いた赤也は驚くどころか、あっけらかんとした態度で顔を手で仰いでいる。


「え、いつから知ってた?」


「お前がこそこそ水無月さんからクッキーをもらってた時くらいから?」


「マジ?」


「マジマジ」


 っていうかあれで隠せてると思ってたのかよと愉快そうにけらけらと笑う赤也。


「お前が隠したそうだったらオレも敢えてツッコまなかったけど、お前が廊下に出た直後に水無月さんが何か小袋を持って廊下を走って行くから『どうしたのかな~』と思って何となく観察してたら、その小袋をお前が持って帰ってくるじゃんよ。そんな状況を目撃したらさすがに気付かない方がどうかしてるだろ」


 赤也の供述があまりにも具体的なので、マジでかなり早い段階で赤也にはバレていたのかと思うと、急に顔が熱くなってきた。


「……お前、案外周り見てるのな」


「女をゲットするには常にアンテナビンビンに張ってないとダメなんよ」


 そう言ってアンテナのように頭の上で指を立てる赤也。


「んで、オレにぶっちゃけたってことはもう隠すのはやめたわけだ?」


 この点については、俺もどこまで話したものなのか迷っていたのだが、赤也はなんだかんだ俺達が付き合っていたことに勘付いていたにもかかわらずそれを広めずに見守っていてくれた。


 その点に敬意に表して、俺がLINEを聞かれまくっていたことで水無月さんを不安にさせてしまったこと、その結果、初めてのケンカをしてしまったことなどを話すことにした。


 もちろん柏倉さんの部分は彼女の名誉に関わる話なので伏せた上で。


 そんな俺達の経緯を聞いた赤也は納得したように「ふぅ~ん」と鼻を鳴らした。


「まあ、それがベターなんじゃね。正直、付き合ってることを隠してたって良いことないからな。フリーだと思われてると無駄に女が寄ってくるし、彼女からも変に勘ぐられたりして面倒だし」


 そう言ってチャラチャラとした笑みでブレザーをひらひらさせる赤也。


 真にモテる男ってうざぁ~と思いながらも、赤也の口調から何となく赤也も同じ経験をしたことがあるのかなと思った。


 何はともあれ、大仰に揶揄われるわけでもなく、自分達が付き合っていることを告白できたことに、俺はホット胸を撫で下ろ――したのも束の間……。


「んじゃ、水無月さんのところ行くか」


 突如、赤也が椅子から立ち上がったのだ。


「へ?」


 俺は思わず素っ頓狂を上げてしまうが、すぐに状況を理解すると、赤也に向かって声を上げる。


「ちょ、赤也!」


 俺も然る事ながら、何より水無月さんは中身はコミュ障の陰キャなのだ。

 いきなり真性陽キャの赤也が絡んでいったりしたら、場合によっては卒倒してしまう危険性すらある。


 しかし、そんな俺の制止も虚しく赤也はすぐに水無月さんの席に到着してしまう。


「水無月さん、柏倉さん、おつ~」


 水無月さんはちょうど柏倉さんと話していたところのようで、二人は赤也の軽い挨拶に振り返る。


「立海さん?」

「赤也くん?」


 この突拍子も無い状況に柏倉さんですらなんだろう?と不思議そうな表情を浮かべているのだから、水無月さんの方はもっと顕著。


 不思議を通り越して、もはや戸惑いの表情だ。


「……何か用ですか?」


 突如として出現した真性陽キャに警戒心剥き出しでおずおずとしゃべる水無月さんだったが、赤也は「なんで敬語~?」と軽い笑みで流しながら、俺が後ろに追いついてきていることを確認すると、やや声量を上げて言った。


「律から聞いたよ。二人、付き合ってるんだって?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る