形のないもの

緑山 彩音

出会い

 朝起きたら、知らないアドレスからメールが来ていた。誰だろう?

 読んでみると、昨夜私とチャットで話をした人だという。他愛無い話だったがとても知的な印象を受けました、ぜひまたお話したいです、と。

 ふむ。昨夜は眠れず、インターネットのチャットサイトで遊んでいた。出会いを求めたり欲求を満たすために入ってきている人もいるようだったが、私は単なる暇つぶしだ。待機者の一行プロフィールを見て面倒くさそうな人は避けて、普通のサラリーマンだというその人と話した記憶はある。が、何を話したか全く覚えていない。下心を出されるのが嫌でキャリアウーマンアピールをして、仕事のことを一方的に話したような気もする。

 まあ、嫌な記憶はないし、とりあえず返事するか。昨夜はありがとうございました。またら良かったらメールください、と。


 そうしたら、次の日もメールが来た。

 まめな人だ、と思った。

 都内のメーカーの営業をしているそうだ。結婚していてお子さんも2人いるらしい。毎日2時間かけて郊外のマイホームから通勤しているとのこと。

 まあ、なんとも絵に描いたような。


 私は都内の医療関係の会社で働いています。

 フリーランスの夫と子供の3人暮らしで息子はまだ2歳です。私は事実上の世帯主です。


 次の日、頑張ってますね、とコメントをくれた。何も知らない人からの共感がなんだか嬉しかった。

 それから仕事がある日は毎朝、実にまめにメールをくれた。長い通勤の時間潰しになったのだろう。

 私はずっと共学育ちで卒業してからも趣味の仲間が多く、男性とメールをやりとりすることには全く抵抗がなかった。たとえ相手が既婚者であっても。別に変なこと書いてないし。

 お互い働く者同士、労うようなメールを送り合った。実は心が折れそうな毎日を送っていたが、なんだか楽になったような気がした。

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